教室に残ったのは、僕と若井だけ。
夕焼け色の光が窓から斜めに差し込んで、
照らされた埃がふわふわと舞っていた。
若井はまだ怒りの面影を残したまま、
強く僕を抱きしめている。
僕はその腕の温もりに包まれながら、
ようやく徐々に落ち着きを取り戻していた。
滉斗『元貴、大丈夫?
本当に、痛いとこない、?』
若井の声はとても優しくて、
少しだけ震えていた。
僕はそっと首を振る。
元貴『うん…大丈夫、でも…怖かった、
若井が来てくれて…嬉しかった、』
滉斗『遅くなってごめん、
もっと早く気付いてれば、
あんな思いさせなかったのに…』
若井の手が僕の背中を優しく撫でる。
その温かさが、沁みるようだった。
僕は、震える声でぽつりと呟く。
元貴『…僕、弱いよね、
先輩たちに笑われて…
泣くことしかできなくて、』
滉斗『そんなことない、
…元貴は、ちゃんと助けてって声を出せた、
怖がっても、ちゃんと頑張ってたじゃん』
元貴『でも、情けないとこ見せちゃった、』
若井はふっと微笑んで、
僕の目をじっと見つめた。
滉斗『そんな元貴も俺は大事だよ、
泣いてても怒ってても、
どんな元貴でも――全部好きだよ』
照れくさいくらい、まっすぐな言葉。
胸の奥がじんわり温かくなってきて、
自然と新しい涙が零れた。
元貴『…ありがとう、若井、
…若井がいるだけで、すごい安心する、』
滉斗『これからはずっと、
元貴のそばにいるって決めたから、
辛い時も、楽しい時も、全部一緒にいよう』
若井はもう一度、
ぎゅっと僕を抱きしめてくれる。
その温もりに、今度こそ安心しきって、
僕はそっと若井のシャツをつかんだ。
滉斗『…帰ろっか、
今日は、俺がずっと横にいるから』
元貴『うん…ありがとう、』
僕たちはゆっくり、
夕焼けに染まる校舎を並んで歩き出す。
弱くて泣いてばかりの自分でも、
若井の隣なら、また一歩、踏み出せる気がした。
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