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もな
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宇津Q
2,059
その日曜日の夕暮れ、晶子が駅前の商店街を歩いていると、大声でカンナが声をかけて来た。大きなボストンバッグを背中にしょって、駆け寄って来る。
「よう、晶子。今修学旅行から帰って来たとこだ」
「そうか、昨日と今日だったね。楽しかった?」
「そりゃもう! 旅行なんて生まれて初めてだかんな、あたいは」
「よかったね。今度旅行中の事聞かせてよ」
「ああ。おっと、そうだ。晶子にお土産な」
そう言ってカンナはバッグから小さな紙のパックを取り出した。それを渡しながら言う。
「ただの温泉宿だから、気の効いた物は無くてさ。これなら晶子にも役に立つだろうと思ってさ」
「へえ、何だろ」
晶子がパックを見ると「温泉の元」と書いてあった。
「わあ、カンナ正解だよ。これって家のバスタブに溶かせばいいんだよね?」
「そうそう。本場の温泉の元だから霊験あらたかだぜ」
「ふうん、ええと効能は……」
パックの裏側に書いてある血行促進、肩こり解消等などの効能を読んだ晶子の手がピクリと震えた。顔を上げてカンナの顔を見つめる晶子の眼がジトッとしていた。
「カンナ~。これどういう意味~?」
「へ? 何が?」
「ここ! これ!」
困惑した表情のカンナが効能書きの部分に目をやる。晶子が指差している所にこう書かれている。
「女性のバストアップ」
カンナは自分でも少し驚いてつぶやいた。
「へえ、気がつかなかった。こんな効能もあったのか?」
「だからカンナ~!」
不気味の響く晶子の声に、カンナがびくっと体を震わせる。
「ん? あ! いや違うって。あたいも買った時には気づいてなかったんだよ」
晶子の耳には入っていない。
「何よ! 自分がちょっとだけ大きいからって」
「いや誤解だって! そんなつもりじゃないって」
「聞こえない! このお!」
「あ、あたい、そろそろ家に戻るな。荷物重いし。じゃあ、またな、晶子。はは、あはは」
カンナは脱兎のごとく全力で走り出す。晶子は温泉の元のパックを右手で振りかざしながら、カンナを追いかけて走る。
「待て、カンナ! 逃がさないから」
「わあ。だから悪かったって。いや、悪気はなかったんだよ」
その追いかけっこはカンナが見事逃げきって、踏切を渡り公営住宅の方向へ走り去るまで続いた。
晶子は踏切の所であきらめ、ゼイゼイと息を切らしながらしゃがみ込んだ。
「もう、カンナ! 覚えてろ!」
その夜、晶子は入浴の順番を最後にしてもらい、こっそりとバスタブのお湯に、あの温泉の元を入れて入念にかき混ぜた。
コメント
1件
わー、カンナと晶子のやりとり、めっちゃ面白かったです!温泉の元の効能にバストアップって書いてあって、晶子が誤解して怒るところが笑えた。最後にこっそり使う晶子も可愛い。日常の小さな事件がほっこりする話でした!