検査は、驚く程長い時間がかかった。
算数の問題みたいなものを解いたり国語のような言葉の意味を答えるものだったり、図形を作ったり絵カードで物語を作ったり。
「この検査にはいったいなんの意味があるんだろう?」
と思ったが、まあ病院の先生がやれというのなら必要な物なのだろうと考え、言われるがままに検査をこなしていく。
「少し、休憩しましょうか。」
言われた時には1時間以上が経過していた。
15分ほど休憩しながらアルバイトの話や、朝が苦手なこと、家族のことは嫌い、などとちょっとした雑談をした後、検査が再開された。
そこから更に2時間ほど検査を受けて、終わった時にはもうへろへろになっていた。
「お疲れ様でした。検査結果は2週間から1か月くらいで分かります。結果が届いたらまた保護者の方へお知らせするので病院に来てくださいね。」
と言われ、疲れきってぼんやりした頭でコクンと頷いた。
検査室を出ると志歩さんと、増崎先生が待っていた。
「検査お疲れ様でした。これからお話を聞きたいんだけど、疲れていない?少し休憩してからの方がいいかな?」
休憩しようかとも思ったけどとにかく疲れてて早く帰りたかったから、
「今からで大丈夫です」
と答えた。
診察室で先生と向き合い志歩さんは隣に座る中、何を聞かれるんだろう?やっぱりおかしいと言われたらどうしよう?と不安は尽きなかった。
「緊張してる?大丈夫、今日すぐに診断を出すわけじゃないよ。今日は話を聞くだけ。
そうだな…子供の時、得意だったことや好きだったことを教えてくれる? 」
聞かれた瞬間、体感温度が下がった気がした。
「…なにも」
「え?」
「何も得意じゃない。好きじゃない。何も出来ないから、頑張ってもなんにもできなくてみんなから嫌われて親からも見放されてずっと一人ぼっちでしか居られなくて」
ああ、引いてる。話すのをやめなきゃ。また呆れられる、見放される。そう思っているのに口は動くのをやめてくれなくて。段々息が苦しくなってきた。
「嵐…」
志歩さんが心配そうに声をかけてくるのだけは何故か認識できた。
背中に手を伸ばしてきたのを咄嗟に身をよじって触れられないようにする。
「触らないでっ…どうせ手に負えないって、めんどくさいって思ってるんでしょ!ほっといて、触らないで!!!」
思ってもいなかったはずの言葉が喉をついて叫びとなる。気がついたら涙がぼろぼろと溢れてきて、とうとう息もまともに出来ず叫ぶことも出来なくなった。ヒューヒューと引きつった呼吸を繰り返す私の目の前に増崎先生がしゃがんだ。
「大丈夫。このくらいで俺や、伴野さんは嫌いにならない。ゆっくり息をして、吸って、吐いて。ちゃんと自分の思ってることもして欲しくないことも言えて偉かったな。大丈夫、大丈夫。」
涙を止めようと必死なのに、どうしても止まってくれなかった。
自分が酷く弱い生き物になったような気がして絶望した。
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