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「年齢が元に戻るまでは僕の生徒のふりしててね」
「はア〜〜??悟がセンコーとかキッツいんじゃが。キモ」
「はい口答えでグリフィンドール100点減点」
「ふぎゃっ」
傷人の特殊な出自とその人間離れした生存能力、というよりもはや人間じゃない特殊能力について、知っているのは六眼を持つ五条とおそらく禪院家当主だけだ。死亡の知らせを受けた後、禪院家当主が傷人の正体について広言しているという話も聞かないし、傷人も自主的に近づくことは無いため此方は見つからなければ大丈夫だろうと五条は踏んでいる。五条も事前に初見でそうと気づかれない変装を勧めたりもしたのだが、本人は全く言うことを聞かない、というより変装する意味を理解していない。一応人間として生まれた自覚があるならもう少し特殊性を隠す努力をしろ、と説教でもしたいところだがそんな物わかりの良さを傷人は持ち合わせていない。
────よって暴力。暴力は全てを解決する。それと言いくるめ。
五条は知り合いへの言い訳を「なんか生きてた!」で誤魔化すことに決めた。元来同業者の死因に拘る呪術師は少なく、傷人の死因について実際に目にした関係者や、死体を運んだ補助監督への口止めは済んでいる。それでも探りを入れる人間には特級術師の圧で黙らせれば、何の問題もないのだ。
「呪霊か血…どっちかというと血の方だね。今のお前かなり呪霊寄りだけど、血と普通の食事摂ってればそのうち元のバランスに戻るでしょ」
「血液パックよりは新鮮な血がいいのお~」
「僕のこと噛んだら倍殴るからね」
二人でダラダラとそんなことを喋りながら、今年の一年のいる宿舎に向かう。
「いたいた。お〜い恵〜悠仁〜」
「手ぇ振っとるキモ…」
無視だ無視、と五条は無心を装う。
「今日からこいつ、傷人も新入生になるから。よろしくね〜」
「何がよろしくね〜じゃ、きんも…ぶへッ」
無視しようと思ったが、五条は無意識に学生時代の手癖でうっかり傷人の頭をシバいてしまう。
───放っておくと行く先々でトラブルを頻発する傍若無人で無礼千万な後輩への対応兼躾は、五条にとっては即時のゲンコツや張り手などの暴力一択になってしまっている。およそ犬以下の扱いであるが、五条は時間をかけて口で言い聞かせることが親友ほど得意ではなく、五条自身の短気が手っ取り早い暴力を無意識に選択していた。無論、無視し続けるとどんどん調子に乗り周囲を舐め腐った態度で暴虐を働いた前科がある傷人が全ての原因だ。
被害者多数。特別賞伊地知。彼を口頭でコントロール出来るようになった人間は過去2人しかおらず、それ以外の者は全員暴力に手を染めている。殴って傷人に当たるかは別として。
しかし、そんな事情を知る由もない学生2人は、目の前の教師が何の躊躇もなく子どもに暴力を行使した姿に映ったのだった。
───あ、恵と悠仁がドン引きしてる。
即座に反撃してくる傷人を無下限ガード。はいはい無敵無敵。五条に手加減する理由がない傷人の拳は本気で痛いため、隣を歩くにも五条は無下限が欠かさないのである。
「あっ、ちちち、違うよっ?こいつうちの親戚(ということにした)でね、昔っから口が悪いからつい手がね、ついね」
五条の日常に『暴』が混ざりすぎていて一般的な反応に逆に戸惑ってしまい、声が裏返る。
「2m近い男性教師が自分より遥かに小さい生徒殴ってりゃ引きますよ。PTAに通報していいですか?」
伏黒はスマホを構え110のジェスチャーで威嚇する。
「…あ゛!?小さいとはなんじゃ!!貴様知ってる匂いじゃがわしへの無礼は許さん!!」
「あーあ、恵が悪口言った〜」
やーいやーい、と話の流れを無理やり歪める五条。
「…!?、はぁ?!」
伏黒は自分の暴力を棚に上げて矛先を伏黒になすりつける教師と、暴力行為より(そんなつもりはなかった)悪口に反応する被害者が同時に自分を責める流れになり、混乱しながらキレた。
「……なんか仲良い感じ?」
コントのような一連の流れについて行けずアウェーを感じる虎杖の頬に、目と口がぬっと浮かぶ。
「なんだ、まだその程度か」
「わっ急に出てくんなよお前」
頬の出し入れ自由な人面瘡こと両面宿儺は、虎杖にとって初対面の少年を見て何事かを呟いた。
「…ッ!?」
ツノが生えたおかっぱ頭が、弾かれるように虎杖の方を見て、素早く歩み寄ってくる。
「えっなになになんか用!?」
「…………」
ジロジロ、あるいはギロギロと擬音がつくほど悠仁の顔を観察する傷人。なぜか虎杖の匂いも嗅いでいる。美少年と形容して差し支えない、アイドルグループのワイルド系でランキング上から3番目くらいに陣取ってそうな可愛らしい顔面が大接近して虎杖は混乱する。
「……宿儺、か!」
「気付くのが遅いわ、阿呆め」
敵意がむき出しの少年と見下した声の宿儺が、虎杖を挟んで剣呑な雰囲気を形成する。
「おっ、傷人知り合い?」
揶揄っていた伏黒を放置してぬるりと五条も入ってくる。
いやいや、宿儺と知り合いってなんだよ。この子──傷人と呼ばれた少年──も同い年くらいなのに、と虎杖は訝しむ。
「こいつ、あれじゃ。雑魚じゃ。わし今こいつぶっ殺せるんじゃないか?いや殺せるな。殺す」
ころーす!と両手を上げた謎のポーズで殺害予告をしてくる鬼少年に、五条がどうどうと止めに入る。
「あーダメダメ。今指2本でしょ?そりゃあ弱いよ1割だもん。悠仁も死んじゃうしダメ」
「……物騒!!!」
思わず叫ぶ虎杖。───全部!全部わからん!!わからんけど俺の生命がこの知力0会話で決まりそうな雰囲気に黙ってるの無理!!
五条に言われ、傷人は虎杖の目を初めてきちんと見た。じっと見つめ、納得したように「ふむ」と手を下ろす。
「あーなるほど。こりゃ無理じゃ」
「でしょ〜」
何が「無理」なのか、何が「でしょ〜」なのかさっぱりわからない。2人の間でしか通じない独自言語コミュニケーションによって自分の命は長らえたらしい、と悠仁は叫びツッコミたい気持ちを飲み込む。
「勝手に話が終わった…」
後ろで見ていた伏黒も話の流れに置いていかれ呆然としている。
「しっかし……く、クックック…」
傷人が肩を震わせる。
「ブハッ、ブワハハハハハ!!ざまあないのぉ両面宿儺!!ガキの腹ん中に封印されるとは、くは、ガハハハハ!!!」
抱腹絶倒。腹が捩れんばかりに大笑いする傷人に気分を害したのか、宿儺が口を開く。
「人を笑えたタマか。貴様のそのザマはなんだ、前より弱っているではないか」
「は?なってないが?むしろ今が一番強いが?悔しいかったら殴ればどうじゃ?指2本でなあ!!」
「小童が一端の口を…」
「お前のサイズ今指20本分じゃろわしのがでかいわボケ」
強いだの弱いだのデカイだの小さいだの、中身のない会話の応酬が始まる。虎杖は「指20本並べたら身長余裕で超えるんじゃ?」と思ったが賢いので黙った。
「俺を挟んで言葉のドッチボールぅ」
部外者なのに至近距離で行われる口汚い罵り合いに虎杖はもう嫌になってきた。
「会話が成立してないし何も新しい情報が無い……五条さん、こいつなんなんです?宿儺との関係は?」
伏黒は五条に尋ねる。
「いや〜宿儺関係は僕は知らないなあ」
「年齢合わねえし色々とおかしいでしょ明らかに」
「具体的なことは追々聞くし」
「聞くだけでいいんですか」
暗に「人間側じゃなかった場合どうするのか」と問う伏黒に、賢しくなったなあと五条は感慨深くなる。しかし、これ以上の情報が増えようと、傷人に関しての対応はもう決まっているのだ。
「……でも、傷人は呪術師だよ」
「はあ」
「それで良くない?」
良いわけがないだろう、と言いたげな伏黒の表情を見て、五条は安心させるように笑う。
「不安だったら傷人より強くなりな。まあ、大丈夫だよたぶん」
「何がどう大丈夫なんですか」
「こいつ昔っから性格変わってないし」
元の整った顔が台無しになるレベルの変顔で宿儺を煽っている傷人を見て、いや〜本当変わってないな〜とケラケラ笑う五条。
伏黒はやや憮然としたまま、変顔をモロに食らっている虎杖をいい加減助けねばと、大きく息を吐いてから2人を引き離すため近づいた。