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放課後また図書室で、資料を探すのを再開した。この図書室は本の置き方が雑だから見つけるのに時間がかかる。心の半分諦めかけていた時にようやく資料を見つけた。

「あった。」

心の中でちょっとした達成感を感じる。たかが興味本位にここまで時間をかけたんだ。どうせならとことん調べたいと思った。資料の中には文字ばかりが並べられていた。

「2020年2月14日…あ、これか。」

そこには10年前バレンタインデーに起きた事件が当時の新聞と一緒に綴られていた。事件は簡潔に言うなれば、痴情のもつれとでも言う結果だった。


2020年2月14日〇〇県△△市□町で殺害事件

容疑者である18歳男性は「僕が殺しました。」と容疑を認める。

男は、被害者である18歳女性と揉めて、怒りで我を忘れ、キッチンにあった包丁で女性の腹部を刺したと自供。さらに男性は自らの手首も切っており自殺未遂の際、警察により連行。女性は腹部を深く刺されており、すぐに救急車で搬送されたが即死していた。

この事件による社会の混乱は大きく、その後10日間で殺害事件や自殺が相次いで発生。動機は全てバレンタインデーのお菓子によるものであったため、話し合いの末、バレンタインチョコレート制限法が制定された。またバレンタインチョコレート制限法(VCR法)は2030年まで同じような事件が起こらない限り廃止される。


愕然とするしかなかった。殺害事件で法律が決められるなんて聞いたことがなかったからだ。ましてや、その法律の内容がこんなのであるならば尚更。当時のことを覚えていない身としては、馬鹿馬鹿しいとしか思えない。だけど、全員守っているのだ。実際ここ9年間日本における殺害事件は大幅に減少している。その理由はまさしくこの馬鹿げた法律だろう。調べれば調べるほど疑問が増える。動画サイトなどインターネットで調べようにもこの話題についてのものは全て消されている。ため息をついたあと、もう片付けて帰ろうかと思った。

「何か探し物ですか?」

気づけば私の横の席には図書委員と思われる男子生徒が座っていた。驚いて思考が停止していた私をみて彼は言った。

「榎木さん、ですよね?」

話したこともない上に一般生徒で目立たない私の名前を知っていることに疑問を感じた。私は少しの警戒心を持った挨拶をして、一人で帰ることに決めた。

「…さようなら。」

私にしては下手な愛想笑いを浮かべて資料を手に持って本棚へ向かう。

「榎木さん、10年前の事件なんかをなんで今調べてるの?」

「!…何を調べてるかわかってたのに、探し物なんか聞いたんですか?」

彼は笑った、楽しそうにも愛想笑いにも見える上手な笑顔で私に微笑みかけた。ただの生徒同士、危険なんかないはずなのに無性に毛が逆立つような感覚、笑ってるくせに目線で私を刺してきているような感覚、二人の周りだけ電流が走るような、そんな感覚。私たちは、ただ立ち尽くして、言葉も出さずにいつの間にか誰もいなくなっていた図書室の端で、秒針の音を息を殺して聞いていた。

「実は、」

10秒ほど経った頃に彼が先に口を開いた。

「僕も調べてるんだ、10年前のこと。」

バレンタイン_シンドローム

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