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2月5日水曜日

夢を見ずに起きたのは久しぶりだった。昨日は疲れていたんだろう。理由は十中八九あの人だ。


「そうなんですか、わたしは関係ないですが。」

「わざわざ図書室にしかも放課後に来ておいて、興味ないって言いたいの?」

「だから、興味本位なんで。」

「興味本位で調べてるんでしょ。」

「だったらどうなるんですか。」

「別に?」

「…じゃあなんで話しかけてきたんですか。」

「興味本位。」


昨日の放課後は、頑なに笑顔の仮面を外さない図書委員と睨み合って終わった。初めて学校で舌打ちをした気がする。結局名前は知らないし、あの人の考えも目的も、10年前のことだってわからないままだ。まさに無駄な労力。こんなことなら図書室なんか行かなければよかった。そんなことを考えながらため息をついて家を出た。


チャイムがなって今日はすぐに帰ろうとしていた。なのに、今日の星占いは当たったようだ。『天秤座12位 誰かに邪魔をされて思うように行かない日』その誰かは、まさしくこの人なんだろう。

「榎木恋さん。」

「…」

教卓側のドアから私の名前を呼ぶ声がした。咄嗟の判断で見つかる前に教室を出て、走って逃げようと思った。けど、バレたらしい。

「あ」

と言ってその人はまっすぐ私の方へ寄ってきた。

「榎木さん、一緒に帰ろう。」

「…はい。」

そう言わざるを得ない気がして、小声で答えた。

帰り道、電車もバスも使っていない私は名前も知らない人と並んで歩いた。気まずい空気は得意ではないから、急足で歩いた。彼は昨日とは打って変わった無表情で口を閉ざしていた。目線は前、身長もあって目が合うことはなかった。道中バレンタインデー前でチョコレートを売っている店があった。私は友達と言える人がいないから無関係だけれど、チョコレートが並んでいるのを見るとやっぱり10年前のことが頭をよぎる。

「そういえばこの人はなんで事件のこと調べてるんだろう。」

心の中で不思議に思って彼の顔を見上げた。

「…」

この人は無表情なのにどこか悲しそうで苦しそうな表情で、チョコレートよりも遠くを眺めているような気がした。彼は私の興味本位なんかよりももっとずっと複雑な理由で10年前の事件を調べているのだと分かった。私は急足で帰ることをやめた。

「ねえ」

「えっ、あ、ごめん。考え事してた。」

そう言って少し口角を上げるのを見てようやく私は聞いた。

「名前何。」

「…由崎藍、です。」

「そう。…10年前のこと、申し訳ないけど本当にただの興味本位だよ。何か聞き出そうとしてたのなら私からは何もわからないと思う。」

これは言わなければなかったことだ。この人が何か知りたいことがあるのなら聞く相手は私じゃない。友達もいないような私を協力者にしたって意味がないのだから、私はわざと刺々しく言葉を発した。

「…利用目的で近づいたんじゃない。そんな理由じゃ、…無いよ。」

途切れ途切れで私に答えた。目線は相変わらず合わないし、表情が崩れたわけでもなかった。こんな言葉、信じる方が馬鹿だ。きっと事件のことを知るためだけに話しかけたんだ。だから昨日はあんなにも笑顔だった。それに私はこの人との距離は遠いままでいいと思ってる。だったら、さっきやめた急ぎ足も再開して、あと数分で着く家に早く着けばよかった。だけど。「信じたかった。」なんて言えば、今日のことを思い出す明日以降の私は、どう思うんだろう。

バレンタイン_シンドローム

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