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恵
344
#連載小説
観察者
161
星キラリ

1,755
病院の地下から響く機械音が、屋上まで伝わってくる。
ゴゴゴゴゴ……。
神崎は母親を見つめた。
「十四回目は……俺じゃない?」
母親は答えられずにいた。
「じゃあ、誰なんだ?」
「……分からない。」
「母さんが知らないなんて、おかしいだろ。」
神崎が詰め寄る。
母親は苦しそうに目を伏せた。
「私は研究から離れていたの。」
「あなたのお父さんが殺されてから、私はずっと逃げていた。」
「それでも、あなたを守るために……あなたの人生だけは監視していた。」
「だったら知ってるはずだ。」
「ええ。」
母親が神崎を見る。
「十三回目までは。」
その言葉に、神崎は黙った。
「十三回目?」
「あなたは十三回、同じ記憶を受け継いだ。」
「でも十四回目だけは違う。」
「何が?」
母親は震える手でスマートフォンを取り出した。
画面には、一枚の写真。
そこには病院の新生児室が映っていた。
ベッドの上には、まだ生まれたばかりの赤ん坊。
その足元に、白いタグが付いている。
**被験者番号:014**
神崎の呼吸が止まる。
「……赤ん坊?」
「三日前に生まれた。」
「誰の子だ?」
母親は答えない。
神崎がもう一度写真を見る。
赤ん坊の隣に置かれた資料。
そこに母親の名前がある。
「まさか……。」
母親が目を閉じる。
「その子は、あなたの遺伝子から作られた。」
「……俺の?」
「正確には、あなたの遺伝情報と記憶データを使って作られた子供。」
神崎の頭が真っ白になる。
「それが……十四回目?」
「いいえ。」
母親は首を横に振った。
「十四回目は、まだ始まっていない。」
「じゃあ、この子は?」
母親は小さく答えた。
「十四回目になるための器よ。」
突然。
屋上の扉が開いた。
黒いローブを着た男たちが現れる。
「動くな!」
神崎が拳銃を構える。
しかし。
「待って!」
少女が叫んだ。
「その人たち……。」
少女の顔が青ざめる。
「私を連れていった人たちです。」
神崎は銃口を向ける。
「全員、そこで止まれ。」
先頭の男が一歩進む。
「神崎悠真。」
「あなたを迎えに来ました。」
「断る。」
「拒否はできません。」
男が指を鳴らす。
その瞬間。
神崎の視界が揺れた。
「……!」
耳鳴り。
激しい頭痛。
そして、脳裏に無数の映像が流れ込む。
第一の人生。
第二。
第三。
第四。
第五。
次々と、自分の人生が再生される。
刑事。
学生。
医師。
記者。
犯罪者。
そして。
何度も同じ場所へ戻ってくる自分。
「やめろ……!」
神崎は膝をついた。
母親が叫ぶ。
「記憶刺激装置を使ってる!」
佐伯がローブの男へ飛びかかる。
「やめろ!」
銃声。
佐伯が肩を撃たれる。
「佐伯!」
「俺はいい!」
佐伯は傷口を押さえながら叫ぶ。
「神崎を連れて逃げろ!」
神崎は少女の手を掴む。
「行くぞ!」
屋上の反対側。
非常階段へ向かう。
だが。
その途中で、神崎は足を止めた。
「……待て。」
「どうしたの?」
少女が振り返る。
神崎は窓の向こうを見る。
病院の隣にある別館。
その最上階。
一人の少年が立っている。
年齢は十歳ほど。
白い服。
こちらを見ている。
少年はゆっくり手を上げる。
そして。
二回、指を鳴らした。
パチン。
パチン。
神崎の心臓が跳ねる。
母親が震える声で言った。
「……嘘。」
「どうした?」
「その合図……。」
母親は少年を見つめている。
「あなたのお父さんが使っていたもの。」
神崎は少年を見る。
少年の口が動く。
距離がありすぎて声は聞こえない。
だが、神崎には分かった。
少年はこう言っている。
**「お父さん。」**
神崎の背筋が凍る。
「……俺を?」
少年は頷いた。
そして窓に文字を書いた。
指先で。
曇ったガラスに、ゆっくりと。
**014**
神崎は言葉を失った。
その夜。
病院の地下。
誰もいない研究室。
一人の男がモニターを見つめていた。
白髪。
神崎と同じ顔。
十三話で映像に現れた男だった。
男は画面に映る少年を見る。
「ようやく起きたか。」
隣には黒いファイル。
表紙には、
**PROJECT REINCARNATION**
その下に、
**001 神崎悠真**
さらに、その下。
新しい番号。
**014**
男は笑った。
「十三回目までは失敗だった。」
「十四回目は違う。」
モニターに少年の顔が映る。
男は呟く。
**「あの子には、私の記憶を全部入れた。」**
そして最後に。
神崎の顔をした男が振り返る。
「これでようやく……。」
**「本当の私が、生まれる。」**
研究室の照明が消える。
暗闇の中。
モニターだけが赤く点滅する。
**PROJECT REINCARNATION**
**FINAL SUBJECT:014**
そして。
画面の隅に、新たな文字が浮かび上がった。
**「母体:神崎悠真」**
神崎はまだ知らない。
自分が追っていた「転生事件」は、人間を生まれ変わらせる実験ではなかった。
**一人の人間を、何度でも作り直す実験だった。**
コメント
1件
第十四話読んだわ…。まさか神崎自身が「母体」だったとは、本当にゾッとする展開だった。父親そっくりの少年が「お父さん」って呼んでくるシーン、背筋凍ったよ。転生の謎が深まるばかりで次が気になりすぎる。リユさんの伏線の貼り方、めちゃくちゃ上手いわ!続きが待ちきれない🔥