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青桃 →青水要素有
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4月2日の夜、部屋の電気を落としたまま、俺はベッドに腰を下ろし、新年度が始まってすぐ、仕事が雪崩のように押し寄せていた。 新しい企画の打ち合わせ、企業案件の調整VOISINGとしての動き——どれも順調にこなせていて、数字も悪くない。
れるちの卒業の日ですら、予定がびっしり入っていた。朝から夜まで走り回って、ようやく配信を観る時間が取れたのは夜近くだった。卒業配信を、俺は一人で観た。画面の中で、すたぽらのみんなが笑ったり、泣いたりしながら手紙を読み上げ、最後に歌を歌い終えるところまで。視聴者数は今まで以上に膨れ上がっていて、コメント欄が埋め尽くされていた。
……すたぽらは、ほんとに凄かったもんな。
VOISING結成前からの付き合いだ。あの頃かられるちには色々とお世話になって、助けてもらった記憶が次々と浮かんでくる。特有の喋り方で「僕、こう思うんやけど……」と相談に乗ってくれたり、笑顔で背中を押してくれたり。れるちが新しい目標が見つかったと言った時、すたぽらのメンバーは止めていたけど、俺ら他の奴らには止める資格なんてない。ただ、皆の意見が纏まり決まったとき、卒業に向けて調整を手伝った。配信が終わって、画面を閉じた瞬間、急に胸の奥が虚しくなった。長く一緒に活動してきた仲間が一人、抜ける。理屈ではわかっているのに、心が追いつかない。
「……まろ」
相棒の顔が浮かんだ。連絡を入れようとスマホを手に取ったその時、タイムラインに流れてきたツイートを見て、手が止まった。いむと一緒に見たツイートだった。まろが、いむの家に向かったらしい内容。家が近くなったから、水色組で唯一残ったいむを心配して駆けつけたんだろう。あいつはそういう奴だ。優しくて、面倒見が良くて、誰かが弱っていれば自然とそばに寄る。俺はそれを、じっと見つめていた。……確かに、そうだよな。
でも、その瞬間に、どす黒い感情が胸の底からゆっくりと這い上がってきた。熱くて、粘ついて、息苦しい。
(俺が弱かったら、まろは駆けつけてくれたんじゃないか?)
もっと早く連絡を入れていたら。もっと素直に「今、辛い」
と吐き出していたら。あいつは俺のところに来てくれたかもしれない。隣に座って、優しい声で
「大丈夫やで、ないこ」
と静かに笑ってくれたかもしれない。でも、現実は違う。俺はいつも強がって、仕事も人間関係も上手く回して、みんなの前ではリーダーらしい顔をしている。弱いところなんて見せられない。見せたら、誰もついてきてくれないんじゃないか——そんな思いが、頭の中でぐるぐると回る。
「はぁ……」
ため息が漏れて、スマホをベッドに放り投げた。体を後ろに倒して、シーツに埋もれる。枕の冷たさが頰に触れる。目線の先、壁に貼ってある写真がぼんやりと映った。まろと二人で旅行に行った時のものだ。あの日は笑いが絶えなくて、馬鹿みたいにはしゃいで、夕陽をバックに肩を組んで撮った一枚。まろの笑顔が、
「ないこの意外な一面いっぱい見れたわ〜」
とからかってきた顔が、鮮やかに蘇る。胸が締め付けられる。一粒、涙がこぼれた。頰を伝って、枕に染み込む。
(まろ……一方的に好きになってごめん)
俺はまろのことが、恋愛的に好きだ。気づいたのはもう随分前。でも、まろの好きな人が誰なのかはわからない。訊けない。訊いたら、今の関係すら壊れてしまいそうで怖い。それに、いむのことが頭をよぎる。最近、家が近くなったいむを、まろが自然と気にかける姿。いむは優しい奴で、騒がしいが面白い。あいつがまろのそばにいるだけで、俺の胸はざわつく。
(俺がもっと弱かったら……いや、弱くなんかなくても、俺はまろの特別になれないのかもしれない)
虚しさが波のように押し寄せて、喉が詰まる。卒業の悲しみと、仲間を失う寂しさと、まろへの想いと、嫉妬と、自己嫌悪が全部混ざって、胸が苦しい。ベッドに顔を押し付けて、俺は小さく息を殺した。
「……まろ」
名前を呼んでも、返事はない。ただ、部屋の暗闇だけが俺を包んでいた。