テラーノベル
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冷たい風が身体全体を包み込む。
世界は残酷であり、自分勝手なものだと誰もが知っている。
その中で幸せを掴むのは極わずかだ。
それでも僕は。
これは僕が怪物に恋をするまでのお話。
20××年、7月。
ひぐらしが鳴く。
かなり先であろう道と空の境界線がゆらりと動いているのが分かる。
ふと腕時計に視線を落とすと現在、18時半を指している。
学校終わりの重い足をゆっくりと進ませ坂道を上がる。
この坂を超えると僕の住む村が見えるであろう。
僕の名前は狭間優一(はざまゆういち)高校1年生だ。
少し村から離れた普通の高校に通い、平凡かつ退屈な日々を送っている。
僕には何も無い、だがそれでいい。
卑屈に聞こえるかもしれないがこれが‘’当たり前‘’なのである。
はっきりと言おう。
僕は村の中で異端児なのだ。
村八分とでも言うのだろうか。
仲のいい人間なんて数えるまでもないだろう。
なにが異端だって?
自分と違うから異端なのであろう。
それ以上でもそれ以下でもなく、必要なのは違うという事実のみだ。
人は自分と違う思考回路を持つもの、マイノリティを排除したくなる生き物である。
恐らく怖いのだ。
多数派が理解出来ない物に蓋をしている。
ただそれだけの事だろう。
僕には生まれてから数年前までの記憶が無い。
だからハブられている理由もわからいのだ。
覚えがあるのはあの目だ。
憎悪なのか汚いものを見るかのような目。
分からないものは考えても仕方がない。
僕だって自分と違うものは怖いものだ。
すると後方からエンジンの吹かす音が聞こえる。
また来た。
軽トラックより少し大きめの貨物車が横を過ぎる。
一瞬運転手と目が合ったが少し睨むと直ぐに視線を外した。
このトラックは月1.2回ほど村に顔を出すのだ。
そして村の人間に何かを見せる。
いや、魅せると言う言葉の方が正しいのだろうか。
何かをといっても僕は中身を知っているのだ。
この世界では知らない人はいない。
そう‘’怪物‘’である。
怪物といっても想像するような巨大で凶暴な化け物なんかではない。
ちゃんと人の形をしているのだ。
だが人間と違う箇所もない訳では無い。
頭から生えた2本の角。
10cm程はない長い耳を持っている。
分かりやすく言えば突然変異だ。
ごく稀に怪物化する現象が起きるらしい。
これを僕らは【ERROR】と呼ぶ。
ひぐらしの鳴き声がより大きく聞こえる。
何故その怪物を村に運んでいるのか。
単純明快、見世物である。
酷いと思うだろう?
僕もそう思う。
いくら怪物と言ったって元は人間なのだ。
どこかの国では富豪達が高値で売買しているらしい。
怪物を買ってなにをするのかなんて考えもしたくない。
まったく辺鄙な世の中である。
昔は匿う人や擁護する人だっていたようだが、それも束の間。
怪物側とSNSで叩かれるだけじゃ飽き足らず、暴行されてしまったのだ。
そりゃあ怪物を守る人間もいなくなるわけだ。
やっと坂道の折り返し地点に到達する。
首に滴る汗を制服で拭き取る。
あの運転手と目が合ったせいで嫌な事を思い出した。
家に帰る際は人が集まっているであろうあのトラックを避けて帰ろう。
気がつくと辺りも大分暗くなってきている。
あとは下り坂を降りればすぐ村である。
チリンーーーーー
とカバンに着いた鈴を鳴らし気合いを入れ直すとまた静かな道に歩みを進める。
途端すぐに足を止める。
おかしい。
静かだ。
静かすぎるのだ。
ざぁっと風が周りの草を薙ぎ払う。
先程のひぐらしはどこに行ったのやら、僕の靴と砂利がずれる音のみ聞こえる。
いやいや静かな日だってあるだろう。
そう自分に言い聞かせ足を踏み出そうとした瞬間。
「ねぇ」
少し高く、それでもってどこか掠れたようにも聞こえる声がしたのだ。
後ろからしたその声により、一気に背筋が凍る。
僕に話しかける人なんていない。
その事実がさらに恐怖心を掻き立てた。
気の所為かもしれない。
「んっん」と咳払いをしてゆっくり歩を進める。
「ねえってば」
やはり気の所為ではなかったのだ。
今度ははっきりと聞こえたので勢い良く振り向いてしまった。
いたのだ。
薄暗く見えにくいが恐らく女性であろう。
綺麗な瞳、女性の【ERROR】だ。
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