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PM.18:53ーーー
どれくらい経っただろうか。
怪物を前に沈黙が流れる。
ごくりと固唾を飲む音と激しい心音が響く。
怖い。怖い。怖い。
目の前のERRORはボロボロの服にいかにも入浴すらしていないであろう乱れた黒髪であった。
身長は僕より少し小さいのか中学生?位か。
肌も薄汚れており、一体何日間外にいるのかといった容姿である。
真っ白になった思考回路を精一杯回しながら考えるしかなかった。
ERRORとは国内指定危険生物として扱われている。
よって発見次第通報され、捕獲したのち近くの施設へ隔離されるのだ。
であればなぜ眼前にいるのであろうか。
驚きと焦燥に浸っている場合では無い。
なぜかこの場からいち早く離れたかった。
きっと離れるべきだと本能が感じたのだろう。
再度考える事を放棄してしまい、じっと前を向くことしか出来なくなっていた。
もう一度沈黙が流れる。
その静寂を打ち破ったのは他でもない怪物だった。
「…いた。」
ビクンと寒気が身体中を襲う。
ERRORが喋った?
元は人間だから当たり前か。
続けて
「聞いてるの?おなか空いた…。」
「は?」
待て待て。
お腹すいた?…って言ったのだろうか。
ようやく思考が追いついてきたようだ。
「えっと…はい?」
もはや僕にはそう聞き返すしか出来なかった。
「お腹すいたの…なにか食べたい。」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。
ゆっくりと処理してみよう。
この目の前のERROR、少女は唐突に僕の前に現れた。
そして放った言葉は、お腹がすいたからなにか食べたい
食べ物をくれと言ったことだろう。
冷静さを取り戻した僕が出した結論は。
圧倒的なんだコイツ感。
「えー…家に…くる?」
一体僕は何を言ってるのであろうか。
よく知りもしないERRORを。
家に招き入れようとしているのか。
絶対に正気の沙汰ではないのは自分自身良く分かっている。
ただ暗闇でERRORという怪異と出会うという最悪の状況から空腹というカオスにより少し安心してしまったのかもしれない。
そしてどことなく綺麗だが、絶望に満ち溢れたその瞳に魅了されたのか。
はたまた自分と重ねてしまったのかは分からない。
少女はこくりと言葉を発することなく頷く。
「じゃあ…もうすぐ着くから…」
カタコトになり、言葉足らずになりながらも少女に着いてくるように指示を出す。
横目で見つつ再び帰路につき、足を進める。
僕が数歩歩いた後、ゆらりと一瞬揺れ、慣れない足取りで後ろを着いてくる少女を確認する。
僕はどうなってしまうのだろうか。
気がつくとまたひぐらしの鳴き声が聞こえていた。
PM.19:48ーーー
ガラガラガラ
玄関の引き戸を開け、真っ暗の自宅に入る。
壁にかけられた時計の進む音だけが響いている。
スイッチを叩くと何度か点滅した後シーリングが白く光り、辺りを照らす。
いつも通りの光景である。
ひとつを除いて。
なぜ僕はこの少女を連れて帰ってきてしまったのだろうか。
特に許可も出してないにもかかわらずリビングのテーブルの横で正座している少女に目を向ける。
明るい場所で見ると思ったよりも汚れているというか小汚い。
髪なんて学園祭でしか見ない手で割くポンポンを頭から被ったようなボサボサ具合だ。
声を掛けて見ようか迷っているとパッと少女が顔を上げ、目が合ってしまった。
おっと見すぎてしまったようだと視線を外しそうになったが、少女は物凄い喧騒で僕を睨む。
そうだ。
彼女はお腹がすいているのだ。
「なにか食べたいもの…ありますか?」
「あまり何も置いてないんですけど…はは。」
そうぎこちなく笑って見せたが少女は小さく首を振るのみである。
今気づいたが身体が少し痩せている気がする。
返答が動作だけという事により少し頭を掻くと、踵を返し冷蔵庫に向かう。
たしか昨日の残りのカレーがあったはずだ。
冷蔵庫の中段にタッパーに詰めた白ご飯とカレーを取り出す。
不格好なものだがお腹が空いているのであれば食材を買いに行って作り直すよりマシだろう。
電子レンジに放り込み、温めを開始すると心なしか少女の姿勢が良くなったように感じた。
少女の前の机に手作りのカレーと緑茶を置く。
手作りと言っても昨日の残りでチンしただけだ、が。
「どうぞ…。」
と促すとゆっくりとスプーンに手を付け、並べたカレーを口に運ぶ。
スプーンを動かす回数が増えるにつれ、食べる速度も徐々に上がっていく。
「お口に合いますか?」
そう問うてみたが応答はない。
恐らく口に運ぶ手が止まらないのが回答であると信じたい。
凄まじい速さで消滅していくカレーを見ながらふと気づく。
この少女の着ている服は病院などで見る患者の衣装だ。
彼女がどこから来たのか、安易に想像できてしまった。
よく見ると腕や足など汚れていて見にくいが血が滲んでいる部分が多い。
たぶん、きっとこの子は施設にいたのであろう。
そして。
「ご馳走…様…でした。」
はっと顔を上げると綺麗にカレーは無くなっており緑茶をがぶがぶと飲んでいる姿があった。
コップを下ろすと今まで俯いており見えなかった顔が見えてしまった。
あれ?
冷や汗が身体をなぞり、心臓が跳ねる。
「君を…どこかで…。」
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