テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
※特殊設定
※ちょっと犯罪描写あり
「う、ん…?」
「ん…」
互いに顔を見合わせたのは同時だったと思う。
「トラゾー?」
「兄さん?」
ベッドから起き上がると同じように起き上がる兄。
「どうしてここに?」
「お前こそ、何故」
辺りを見渡し立ち上がった兄さんは部屋の細部を確かめるように歩き回り始めた。
「(兄さん、久々に見た気がするな…)」
優秀な警察官であり正義感の強い兄は現場を取り仕切る非常に忙しい身の人だ。
だから家に帰ってくることは殆どなく、たまに帰ってきても服を取りに来るとかだけで。
挨拶とかも軽く交わすくらいだった。
年も7つ離れてるせいで、会話という会話も盛り上がらず。
大体、社会人と高校生では生活リズムも違う。
「……ドアは鍵が外からかけられてるのか開けられないな。…俺の力でも無理そうだ」
「そ、う…」
どうやって話してたっけ。
そもそも最後にしっかり喋ったのっていつだっけ。
ドアをコツコツと叩く兄さんは溜息をついた。
「こんな茶番に付き合っていられる程、俺は暇じゃないんだがな」
苛立たしげに低くなる声に自分が怒られているわけではないのに肩が強張る。
優秀な兄と平凡な俺。
劣等感がないかと言われれば嘘にはなるけど、俺にとっては自慢のできる本当に素晴らしい人だ。
胸を張って言える。
いつも難しい顔をしてるけど、すごく優しくて誰にでも平等に接する。
悪い人には容赦ないけど。
「…トラゾー、大丈夫か」
「え⁈あ、うん。大丈夫ですっ」
「本当か?」
「うん!元気!!」
考え事で俯いていたのを体調悪くしたと思ったのか心配げに兄さんが声をかけてくれた。
笑い返すと、ホッと息を吐いていた。
いつもそうだ。
こうやってちょっと体調悪くしたり、少しの怪我でも兄さんは生き死にくらいの声で心配してくる。
「なんでこんなところに閉じ込められて…」
「さぁな趣味の悪い奴がいるんだろう。ここを出たら捕まえる」
「(わぁ…怒ってるな)」
多忙な身の兄さんは腕を組み壁に寄りかかった。
スマホも時計も何もないから時間感覚が分からない。
「……」
「(兄さんのこと、好きな人たくさんいるんだろうな)」
弟の俺から見ても贔屓目なしに兄さんはかっこいい。
文武両道、眉目秀麗、才色兼備。
それでいて驕らず、常に自分を律し努力を続けている。
ブラコンと言われるかもだけど、そんな兄の見た目やステータスだけで言い寄る女の人には兄さんを渡したくない。
内面をきちんと見てくれて、無茶しようとするのをちゃんと止めてくれる人がいいなと思ってる。
だから兄さんの後輩であるアリッサさんとかいいんじゃないかと思ってるのだ。
「(でも、なんか…)」
嫌だと思うのは兄を取られてしまうという子供みたいなところがあるせいだろうか。
「やっぱ、俺ってブラコン…?」
「大丈夫か、さっきから呟いているが…」
ハッと顔を上げると兄さんの整った顔が眼前にあってびっくりしてひっくり返る。
「馬鹿っ…!」
ベッドの隅っこに座っていた俺は落ちそうになって目をぎゅっと閉じた。
落ちなかったのは兄さんに抱き止められて馬乗りになるように座り込んでいたから。
「大丈夫か⁈」
「だ、大丈夫…」
心臓はバクバクしてるけど、痛いところはない。
さっきから兄さんと大丈夫か、大丈夫しか会話してない気がする。
それがおかしくてへにゃっと笑ってしまった。
「何を笑ってるんだ。こっちはそれどころじゃないぞ」
「ごめんなさい、なんか、兄さんと同じ会話しかしてないなって思ったらおかしくて…」
「っ、……はぁ」
何か言いかけた兄さんは諦めてまた溜息をついた。
「重かったよね。すみません」
「もっとちゃんと食べろ」
高校の部活で演劇の脚本を書いたりしているから、ついつい食事や睡眠を疎かにしてしまう。
そして、たまに出くわした兄さんに怒られるのだ。
「だって…」
「だってじゃない。俺はお前が病室で寝ている姿をもう見たくない」
「!、…うん、ですよね。…ごめんなさい」
変に体の弱いところがあるのもあるけど、兄の言ってるのはそういうことじゃない。
「…頼むから、俺の知らない間に傷付かないでくれ」
「うん…」
背中に回される腕に力が込められる。
「(俺のせいだ…兄さんの全てを歪めてしまったのは…)」
過去の出来事。
今でも鮮明に思い出せるし、なんなら忘れることは一生ない。
俺の兄、リアムが警察官になった理由は俺のせいだ。
─────────────────
『リアム兄さん、みんなと遊んできますね!』
『待て、お前らだけじゃ危険だ。俺も着いていく』
『大丈夫ですよ!おれも、もう小学3年生になったんですから!』
『最近不審者がうろついてると学校でも知らせがあっただろう』
そう心配する兄。
あの時本当は嬉しかった。
高校に入って忙しい兄と遊べると思って。
『クロノアさん!しにがみさん!ぺいんと!お待たせ!』
『トラゾーさん、リアムさんこんにちは!』
『うわーリアムいんのかよー』
『こらぺいんと!さんをちゃんとつけなさい』
『…相変わらずうるさいな…』
そう言いつつも満更でもない顔の兄の手を引いてみんなのところに走った。
公園でいろんな遊びをしている時、飲み物を買ってくると離れた兄に頷いてぺいんと達と遊びの続きをしていた。
トイレ行ってきますと言ったしにがみさん帰ってくるの遅いなと思って辺りを見渡していた。
少し離れた場所で知らない男数人が泣き叫ぶしにがみさんの華奢な腕を引っ張って車に乗せようとしていたのだ。
兄の言う不審者と判断した時には、なりふり構わずそいつらの方に走って行きしにがみさんの腕を掴む男の腕に噛みついていた。
子供の力なんて大人からすれば大したこともなく、見事に殴り返された。
こいつも連れて行こうと朦朧とする意識の中、必死で暴れていたら左腕に激痛がはしったのまで覚えている。
気付けば嫌いな病院の真っ白な部屋に寝かされ、泣き叫ぶしにがみさんとぺいんとと安堵の表情を浮かべるクロノアさん。
涙を流し俺の名前を呼ぶ両親と硬い表情の兄がいた。
あのあと兄さんや大人たちに助けを求めに行ってくれたおかげで、駆けつけた兄らによって不審者は捕まった。
『…二度とあんな真似をするな』
そう言って病室を出て行った兄さんは泣きそうな顔だった。
全く見たことのない表情に子供ながら俺は悪いことをしたのだと自覚した。
殴られた顔の傷は消えるらしいが腕の傷は深かったようで跡は残ると言われた。
現に左腕に残る裂傷痕。
あの出来事のせいで、病院はもっと嫌いになったし他人に触られることが怖くなった。
そして、兄はあれから本来目指していた別の夢を諦め警察官になる為にと身を粉にして血の滲むような努力をして警察官へとなった。
自分のせいで兄の強すぎる正義感と、しなくてもいい償いと責任感で将来を決めさせてしまったことに罪悪感を感じている。
────────────────────
それは今でもずっとだ。
「(俺のせい…)」
兄さんの背中は広く、大きい。
鍛えられた体をしている。
「リアム兄さん」
「……どうした」
「ごめん」
いろんなことに対しての謝罪。
俺のバカな行動で、この人の道を決めてしまったことに対して。
「?」
「俺も鍛えて頑張るよ」
「…トラゾーは今のままでいい。無茶な筋トレをして肩を痛めていただろ」
「ゔ…」
と、いうか俺はいつまで兄さんの上に乗っかってるんだ。
しんみりしかける空気を打ち消すように明るい声を出す。
「ごめんなさい、兄さん。重かったでしょ」
「いや全く」
即答された。
「そ…それはそれでなんか切ないな…」
俺も男なのに。
そりゃこの前まで中学生だったけど。
「ははっ」
素で笑う兄さんのハの字に下がる眉にどきりとした。
「っ!」
笑った顔すごい久々に見たかも。
いつも難しい顔だから。
でも、笑うと少し幼く見える表情は変わらない。
「と、とにかく退けます」
左腕を優しく腕を掴まれる。
一生残る傷跡のある。
「…俺は構わないがな。弟に甘えられて嬉しくないわけがない。とりわけお前は人を頼らないし甘えない」
「ぅぐ…」
「俺はお前のことを守りたいんだ」
「もう、そんな弱くないよ俺…」
ぎゅっと抱き締められてまた兄さんに身を任せる。
落ち着く匂い。
香水類をつけないからホントにこの人本来の優しい匂いだ。
擦り寄るのは、あまり甘えれないが故の無意識の行動なのかもしれない。
「……トラゾーが小さい頃、お前にとって心身に深い傷をつけた。そのせいで他人に触れられることに恐怖心を与えたのは俺だ」
「ち、違います。俺が何もできないくせにバカみたいに突っ込んだから…自業自得です…」
「いや、あの行動は誇るべきだ。お前がいなければしにがみは連れ去られていた。二度とお前達に会うことができなかっだろう」
きゅっと兄さんの服を掴む。
大切な友人と会えなくなるというあり得た未来に怖くなる。
「俺は自分が不甲斐ない。あれだけ気をつけろと言っていたのに隙をつかれ、大事なたった1人の弟に傷をつけ、父さんも母さんもトラゾーの友人たちも傷付けた」
「兄さん…」
「二度と、大切な人を傷付けないと、俺は自分に誓った。誰よりも強く何者からも守れる存在になる為に、警官になった」
すり、と目元を撫でられた。
どうやら俺は泣いてるらしい。
「お前が罪悪感を感じる必要はないんだ。俺は俺で自分の道を決めた、元々選択肢の中には入っていたことが強固になっただけのことだ。…だから、」
泣くな、と眉を下げ困った顔をする兄の表情に溜め込んでいた感情が溢れ出す。
「お、俺…自分のせいで…リアム兄さん、の…将来を、決めちゃったって…思って…。驕りが、すぎるかも、しれないけど…自惚れだって、言われても、…そう、感じちゃって…」
「あぁ」
「そんな兄さんが、俺、すごい、誇りなん、だよ、…自慢のお兄ちゃんなんだ…っ」
「俺にとってもトラゾーは自慢の弟だ。見に行ってやれなかったが母さんから聞いたぞ、お前の脚本の演劇、最優秀賞取ったらしいな。おめでとう」
アクアマリンの目が優しく細められる。
俺だけしか見たことのない、兄としての顔。
「あり、がとう…」
「ほら、まだ言いたいことあるなら言え。この部屋から出られん限りには俺とお前しかいないんだからな」
頭を撫でられる。
小さい頃、よく俺のことを褒めてくれる時にしてくれたように。
「…俺、ブラコンだから…そんな完璧な兄さん、を変な人にはあげたくないんだ…」
「それは俺も同じなんだがな。トラゾーのことを泣かすような輩に大事な弟は渡したくない」
兄さんが結婚する、ってなったら絶対に幸せになってほしいしお祝いもする。
けど、そうなれば今でさえ離れている兄はもっと遠い存在になってしまう。
「…兄さんは俺だけの、兄さんでいてほしい、なんて気持ち悪いですよね…」
「⁇、嬉しいが?そう思ってくれるのは兄冥利に尽きる」
こう言ってくれる優しいところも他人に向けられると思うと心がモヤっとする。
「兄さんは……リアム兄さんは…?」
「……そうだな、俺も大概ブラコンというやつなのだろう。トラゾーは俺だけの弟であってほしい、と常に思ってる」
「ふ、ふふっ、仕事中甘いもの以外で考えてることあるんだ」
「おい。仕事中は仕事のことしか考えていない。語弊のある言い方をするな」
少しだけ、すっきりした。
「泣き止みそうか?俺はお前の泣き顔に弱いからできれば、早く泣くのをやめてくれ」
「今度欲しい物泣き落とししてみようかな」
「…調子に乗るのはよくないぞ?」
優しく細められていた目がじとりと据わる。
「じ、冗談です…」
「ふっ、俺も冗談だ。トラゾーに頼られるのは嬉しいからな」
ぽんぽんと頭を撫でられ兄さんが俺を立たせる。
「……でも、どうしましょう。こっから出なきゃ俺も兄さんも困るよ…」
「素手じゃ破壊できそうにないしな」
「それができるのはあなただけだよ…」
ホントになんの変哲もない部屋。
誰かの自室にいるようだ。
「何か部屋を出れるヒントでもあればな…」
「何もなしの脱出なんて分かんないって…」
「「………」」
急に静寂と化す室内。
肩が触れるくらいの距離が妙にくすぐったく、兄さんからちょっと離れようとした。
「離れるな」
「わっ」
微かな動きを見て、一瞬で肩を引き寄せられた。
顔も動かしてないのに視線だけで俺の微々たる動きを察し相当な瞬発力で俺の肩を掴んだ。
「何かあってからじゃ遅いんだ。俺から離れるんじゃない」
「、ぅ…うん…」
きっと女の人だったら一瞬で惚れてる。
ちくりと胸を刺す痛み。
今日はなんか変だ。
兄さんと久々に話してテンションが上下してるからなのか変な気持ちになる。
「…トラゾー?」
「ひゃい⁈」
「っふ、なんだその声は」
今日はよく兄さんの笑った顔を見る。
嬉しくて、もっと自分だけがその笑顔を見ていたくて。
「すき…」
「……は」
「!!、しまっ…」
妙なことを口走った。
慌てて離れようとしたけど肩を引き寄せられてる状態じゃ離れれない。
「ちが、兄さんの笑った顔、好きだなって…その、えっと…ッ」
「……」
伸びてくる手にびくりと肩を竦めて目を閉じる。
「……あれ、?」
思ってきた衝撃はこず、ほっぺを兄さんに両手で包まれた。
「…トラゾー」
「兄さん…?」
じぃと俺を見下ろすアクアマリン。
「やっと分かったよ」
「え?」
「俺がお前のことを誰よりも守りたいと大切にしたいと思う理由が。知りもしない輩に渡したくないこの感情を」
「リアム、兄さん…?」
「好きだ」
「っ!!!」
その真剣な声と表情。
兄はこんな冗談を言う人ではない。
「お前のことを1人の人間として好きだ」
ガチャっと後ろから音がする。
「トラゾーの好きは、俺のこれと同じものだろう?」
唇に微かに触れた、柔らかい少しカサついた感触。
「に、い、さん…っ」
「無自覚だったんだろうな。恐らくお前が産まれた時点で俺はトラゾーのことを誰にも渡したくないと思っていたのは」
あの出来事で思いが強くなり今自覚させられた。
と、優しく微笑むその顔は初めて見た。
きっと、好きな人にだけ見せる顔。
「俺、も…兄さんの、こと、誰にも、渡したくない……好き、です、あなたのことが、好き…ッ」
ぎゅうと苦しいほどに抱き締められる。
耳元にちょうど兄さんの心音が聞こえてきた。
「(すごい速い…この人も、緊張とかするんだ。……今日、ホントにいろんな顔が見れて嬉しい…)」
「その顔は俺以外に見せるんじゃないぞ」
「ぇ?」
「嬉しいって、顔」
ちゅっとおでこにキスされた。
「わっ…」
「続きは家に帰ってからな」
俺にだけ向ける顔で笑う兄さんにほっぺを膨らませる。
「…ずるい」
「そっくりそのまま返すさ。可愛すぎて困る」
「可愛くないし…!」
「ほら、出るぞ。…続き、したいだろ?」
「〜〜!!?そ、それは兄さんのほうでしょう!?」
ドアを開けて待ってくれる兄さんが俺に手を伸ばした。
その手に自分の手を重ねる。
いつまでも俺にとっては大きな手で、俺のことを守ってくれていた大好きな手。
きっと、これからも、ずっと守ってくれる手。
「兄さん」
「ん」
「大好きです」
「あぁ、俺も大好きだ」
ぎゅっと握り返した俺の手を包む手。
優しく笑う兄と一緒に部屋の外に出た。
【脱出条件である、”好きだということを自覚する”が達成されました。脱出成功となります】
そう部屋の内部で響く音声は、誰に聞かれることもなくそれだけを流して途絶えた。
そして、誰の目にも留まることなく施錠がされた。
コメント
8件
リクエスト書いてくれてありがとうございます<(_ _)> raさんのtrzさんに対する気持ちも真剣に悩んでたんだろうと考えてて凄く妄想出来まして超神作を書いて頂きありがとうございます(ノ)'ω`(ヾ)
リアトラええなぁ...トラが今回も可愛いッ‼️
いち!です笑 主様の輝く作品を陰ながら見てた者です🫶 毎晩主様の作品見てニヤニヤしてます(₹ ₺ 口角返してください笑 今回も神作をありがとうございました!! これからも頑張ってください! ((毎回コメントしても うざくないですかっ!?笑