「少年の元に私が来た!!」
「オールマイト!?」
曲がり角からオールマイトが飛び出してきた。
「は?だって、マスコミの中にいたはずじゃ… 」
「あんな群衆私にかかればすぐ出られるさゴホッッ」
オールマイトが吐血してトゥルーフォームに変身し言った。
「私がここに来たのは礼と訂正、そして提案をしに来たんだ!」
「は、?」
オールマイトは転孤を見つめて、ゆっくり話し始める。
「君がいなければ、君の身の上を聞いていなければ、口先だけの偽筋となるところだった」
「ありがとう」
真っ直ぐ転孤を見つめてオールマイトは礼を言った。
「…いや、…元はと言えば俺が悪いんだ。生意気なこと言って、仕事の邪魔したのが原因なわけだし…」
転孤は自分が礼を言われる意味が分からなく、うつむいた。
「そうさ…あの場の誰でもない、暗くて弱個性の君だったから、 私は動かされた」
その言葉に転孤がうつむかせた顔をまた上げる。
オールマイトは話し続けた。
「トップヒーローは学生時から逸話を残している。
彼等の多くが話をこう結ぶ、”考えるより先に体が動いていた”と」
先ほど、敵〈ヴィラン〉に立ち向かったことを思い出した。あの中学生を助ける、敵〈ヴィラン〉を倒す、そんなことひとつも考えてないのに気づけば“勝手に”体が走り出していたのだ。
オールマイトの話すことと同じことが、自分の体でも起きた。トップヒーローたちと同じことが、自分の体でも起きた。自分の歩んだその一歩が、誰かの心を動かしていた。
転孤はなぜか父から言われた一言を思い出していた。
「テンコ、ヒーローなんかになるな。」
この言葉を転孤は素直に受け取ったはずだった。
でも違った。
「君も、そうだったんだろう?」
落とさないようにと抑えてきたものが溢れ出てきて前屈みになる。
「う”ん”!」
乱れていく呼吸の中から絞り出すように相槌を打った。三年間着て汚れてきた自身の学生服の胸ぐらを強く握る。
転孤はコンクリートの硬い地面に両膝をついてうずくまった。
違うんだ、父さん。あの時、俺はその言葉を受け取ってなんかない。ずっと別のものを望んでいた。俺がずっと欲しかったのは…言って欲しかった言葉は……
「君はヒーローになれる。」
大粒の涙が転孤の頬を伝い続ける。オレンジ色に染まった街には泣き声だけが響いていた。
「君なら私の力、受け継ぐに値する。」
オールマイトが跪いている転孤に言った。
「力を…受け…継ぐ?」
先の見えない話に顔を上げ思わず目を丸くする。
「ハッハッハ!!なんて顔をしてるんだ!!」
オールマイトは転孤が可笑しいのだと言わんばかりに爆笑して、
「私の力を君が受け取って見ないかという話さブホォ!!」
と、盛大に血を吐きながら叫んだ。
「私の力の話だ、少年。」
転孤がやっと理解する。オールマイトの“個性”の話…。
「写真週刊誌には幾度も怪力だのブーストだのと書かれ、インタビューでは常に爆笑ジョークで茶を濁してきた。 ”平和の象徴”オールマイトは、ナチュラルボーンヒーローでなければならないからね。
だが少年、君に真実を伝えよう。
私の”個性”は聖火のごとく引き継がれてきたものなんだ。」
「引き…継がれてきた物…!? 」
転孤は愕然とした。
「そう、そして次は君の番ということさ!」
「ちょ、ちょっと待て!オールマイトの“個性”のことは確かにずっと議論されてきてたが引き継ぐ?なんて意味わかんねえし、そもそも“個性”を引き継げるなんて聞いたことねえ。本当にそんなことが可能なのか…?」
あまりに非現実的なことに転孤は言葉を走らせる。
「君はとりあえず否定から入るな…… ナンセンス!」
オールマイトが額に手をやり呆れたように叫ぶ。本当に元気なおっさんだな…と転孤は思う。
「私は隠し事は多いが嘘はつかん!」
転孤はオールマイトに向き直る。
「”力を譲渡する力”、それが私の受け継いだ”個性”。 冠された名は”ワン・フォー・オール”。」
「ワン・フォー・オール……。」
オールマイトの“個性”を転孤は繰り返す。
「1人が力を培い、その力を1人へ渡し、また培い次へ…、 そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた、力の結晶」
説明を聞く限り、あまりにも壮大そうな力に転孤は聞いた。
「そんな大層なもの何で…何で俺にそこまで…?」
それは疑いではなく遠慮から出た言葉だった。そんなに大層な物、自分には見合わないと思った。
「もともと後継は探していたのだ。 そして、君になら渡してもいいと思ったのさ。」
オールマイトは転孤に言った。
「弱個性でただのゲーム好きな君は、あの場の誰よりもヒーローだった。」
その言葉にまた転孤の目が潤む。
「…なーんつって!まあ君次第なんだけどさ!」
オールマイトがケロッと一瞬だけテンションを上げてはまた向き直り転孤に聞いた。
「どうする?」
転孤は自身のためにここまで話してくれたオールマイトに応えたかった。もう二度と本当の気持ちを逃さないように…、自分の本当に望む夢へ向かえるように。
「…やるに決まってる!!」
覚悟を胸に、転孤は立ち上がってオールマイトを真っ直ぐ見つめた。
「即答…そう来てくれると思ったぜ!」
オールマイトはニヤリと笑みを浮かべた。
夢は現実にーー。言い忘れていたが、これは俺が最高のヒーローになるまでの物語だ。






