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「お願いとはなんでしょうか?」
商人組合についた俺は、ハーリーさんと話し合いを始めた。そして、いきなり本題に入ることに。
「白砂糖を買って欲しいのです。大量に」
俺の最後の言葉に目を細めたハーリーさんは、毅然とした態度で答えてくれた。
「前にも言いましたが、セイさんを守る為には少しずつ売るしか有りません。
あまり大きく動くと、どこから出所がバレるかわかりません」
やはりハーリーさんはただ心配している。いや、組合の商人を守りたいだけのようだな。
「バレた時は領主様にでも守ってもらいます。献上品の件もありますし、私がいなければ手に入らないのであれば、守っていただけると思います。
それだけ砂糖という物は魅力がありますからね。
もちろんこれは最悪の事態の場合です。
できる限りバレない様に組合の方でもよろしくお願いしますね」
俺の言葉を聞いたハーリーさんは、表情筋を緩めて応える。
「わかりました。それだけの覚悟があるのであれば。
失礼ながら初めてお会いした時は少し落ち着きがありませんでしたが、今は立派な商人のお顔をされていますね。
どの様な販売を、お考えでしょうか?」
俺ってそんなに挙動不審だったのか!?
少し恥ずかしくなったが、深呼吸をして続けた。
「商人組合全体で委託販売していただきたい」
「全体ですか。確かに職員は私以外にもいますが、結局売り先である貴族の数は同じですよ?」
ハーリーさんの最もな言葉に訂正を入れる。
「違います。組合とは、この国内すべての商人組合のことです」
「え!?それは……それには私の権限ではお応えできません。
それに、そのカバンの中全てが白砂糖であっても、それを通すには数が足りません。
力になれず、すみません」
確かにカバンの中身が全て白砂糖の入った瓶でも、100万ギルには遥かに届かない。
その程度の商材では、組合を動かせないと言うのは、もっともな答えだ。
だが……
「どれくらいあれば組合を動かせますか?」
「流石に簡単には諦めませんか。
そうですね。組合を動かすには、まずこの街の商人組合の組合長を頷かせなければいけません。
もちろん匿名にしていますが、組合長もセイさんには注目しています。
そして組合長を頷かせられたら、次は全店に商材を回すために、最低10,000,000ギル程の取引にならなければなりません。
ご用意出来ますか?」
ハーリーさんは別にこちらを見くびって言っているのではない。もしかしたらと、期待の眼差しで聞いてきているのがわかる。
期待には応えなくてはな!
「出来ます。量にして200キロの白砂糖を、500グラムに小分けした瓶で用意しています。
もちろん追加で100キロ程であれば、すぐに用意出来ます。
始めに卸した価格で、一キロ70,000ギル。
200キロですので14,000,000ギルの取引になります。さらに追加で100キロあるので、金額面は問題ないはずです」
俺の用意してきた演説を聞いて、ハーリーさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「す、素晴らしい!セイさんは立派な商人です。
こちらの要望に応えることが出来るのですから……
次は私が応える番ですね。
組合長に話を通してきます。
その後に荷の確認がありますが、大丈夫でしょうか?」
「はい。ただ量が量ですので荷車か何かを貸して頂けたらすぐにでも」
「それなら話を通した後に、私が荷馬車を出します。
よろしいでしょうか?」
宿のおばちゃんに不審に思われるだろうけど仕方ないか……
「ハーリーさんであれば心強いですので、こちらから頼みたいくらいです。
よろしくお願いします」
一応おべんちゃらを言っておこう。これからもキリギリスのためにキリキリ働いてくれ、アリよ。
その後ハーリーさんは組合長の説得に向かっていった。
俺はこの部屋で結果を待つだけだ。
カッコいいセリフを言ってたんだから、失敗せずにちゃんと説得してくれよぉ?
少し待つとドアの向こうに人の気配を感じた。
コンコンッ
ノックの後にハーリーさんが入室してきた。その後ろに50代くらいの男性を伴って。
「はじめまして。セイさん。私はこの商人組合の組合長をしている、ドノバンと申します。
話はハーリーから聞きました。
本当の話であれば全面的に協力致しましょう」
そう自己紹介してきた組合長さんは、握手を求めてきたので応じながら会話を続ける。
「はじめまして。セイです。白砂糖の件でしたら本当です。
できる限り私を表に出さないよう、よろしくお願いしますね」
「わかりました。
荷はここへ運んでください。
荷運びに一先ずハーリーと…私が動けば目立つので、他に2人、信用の置ける職員をつけます。よろしいですか?」
「配慮に感謝します。ただ荷は秘密裏に宿の自室へと運び込んだので、時間はかかりますが、私がこのカバンに詰めてハーリーさんの荷馬車へと運びたいです」
この方法であれば出入りが多いくらいで、おばちゃんもそこまで不審に思わないだろう。
「わかりました。では、ハーリーと二人で向かってください。
こちらには別々に来ていただければ、より安全でしょう」
話は纏り、行動へ移す。
「あら、お早いお帰りね」
宿のおばちゃんに声をかけられた。
不自然にならない様に、会話を紡ぐ。
「商談が纏りそうでね。ただ相手が沢山いるから、これから何回か出入りするけどごめんね」
「そりゃおめでとう。こっちは気にしないから好きになさい」
流石に毎回泊まっていたら、かなりフランクな関係になっている。
おばちゃんにありがとうと返した俺は、部屋へと戻りカバンに瓶を詰めて往復を繰り返す。
全部で200キロ。400瓶だ。瓶の重さを合わせたら……
考えるのはやめよう。感じるんだっ!!何を?
カバンには瓶が嵩張るのでそこまで入らない。
かなりの回数を往復して、死にそうになりながら荷運びを終えた。
「では、私達は遠回りをします。セイさんは先に商人組合の先程の部屋でお待ちください」
息も絶え絶えな俺にハーリーさんはそう告げると、馬を走らせた。
なんとか商人組合にたどり着いた俺は、組合長が言っていた信用出来る職員と思われる人に促されて、いつもの部屋にたどり着いた。
「ぷはぁ。生き返る」
汗だくの俺を見兼ねた職員が、気を利かせて入れてくれた水を一気に飲んで、ソファへと沈んだ。
「セイさん。セイさん。起きてください」
疲労でいつの間にか寝ていた俺を、ハーリーさんが起こしてくれた。
目の前にあったはずのテーブルが隅に運ばれており、元の位置にうず高く積まれた白砂糖入りの瓶があった。
「すみません。寝てしまいました」
大の大人がうたた寝をするとはと、恥ずかしくなったが、素直に謝る。
「いえ、これだけをお一人で運ばれたのですから」
ハーリーさんは優しくフォローしてくれた。
ガチャ
「セイさん。お疲れ様でした。全部で200キロ。確かにありました。
瓶自体も大変需要が有りますし、白砂糖の高級感を引き立てていますね。
大口の取引になるので、支払いは後日になりますがよろしいですか?」
どうやらハーリーさんではなく組合長との話になるようだな。
自分の責任で組合を動かすんだから当然か。
「もちろん構いませんが、おいくらくらいになりますか?」
俺の当然の質問に、答えを用意していたドノバンさんはすぐに答えてくれた。
「お支払いは、各組合が買い取ってからになりますので、一度に全ては払えません。
これまではハーリーの責任で買い取っていましたので即日お支払いしていましたが、大口ですと売れてからの支払いになります。
ただ売るといっても、個人や貴族様ではなく、あくまでも各商人組合にですがね。
しかし、これだけの品であればすぐに売り切れることでしょう」
一度区切ってから肝心の話しをする。
「これまでは1キロ当たり70,000ギルでしたが、これからは1キロ当たり80,000ギルお支払いします。
単純に取引量が増えたこと で、うちの取り分が増えたためですね。
こちらは1キロ80,000ギルの白砂糖を200キロ預かった証書になりますので、無くされないようお願いします」
80,000ギルが200か…頑張った甲斐があったな。
「これからも需要は生まれそうですか?」
俺の質問とは呼べない様な言葉に、組合長は答えをくれる。
「商人は確実なことしか言えません。
それを踏まえた上で、間違いなく需要はこれからもあります。
むしろ伸びることでしょう」
良かった。これでこれからギルのことは心配しなくてもいいな。
「支払いはハーリーを窓口として下さい。もし居なければこちらの二人のいずれかで。
早速書簡を各組合に回しましたので、早ければ明後日くらいから売れ始めるでしょう」
俺はそれを聞いて、聖奈さんから託された地球で売る物のために質問をする。
「お聞きしたいのですが、馬車を借りたりするのは可能ですか?
もし、無理なら売っていただくにはどうしたらいいか聞きたいのですが」
組合長は俺の言葉が予想外だったのか、少し間を置いて答える。
「レンタル料を頂ければ組合員には貸し出しをしています。
ただセイさんであれば、買われた方が良いかもしれないですね」
少しの間はアドバイスを考えてくれていたのか。
良い人ばかりやないかいっ!
「ありがとうございます。ただ、馬の世話や荷車などの修繕がわからないのです。
ちなみにおいくら程で買えますか?」
「馬の世話は、街や村で泊まった宿の者に任せれば問題ないですよ。
後はその時その時でお聞きになるしかないかと。
値段はピンキリですが、馬が一頭100,000から1,000,000くらいですね。高い馬が良いとは限りませんので300,000くらいを考えていたら大丈夫でしょう。
馬が引く物は先程の幌がついた物で300,000程ですね。長旅をお考えであれば1,000,000くらいの品をお勧めします」
やはり車くらいするな。だが計画には欲しい。
と言うか、ないと無理。
「では、長旅に使える物で、300,000くらいの馬付きで欲しいです。
ただ持ち合わせがないので、白砂糖が売れてからでお願いします」
「わかりました。ご用意しときましょう。
では、私はこれで。
これからの白砂糖の取引は、ハーリーに今まで通りお願いします」
そう言ってドノバンさんは退室した。
俺ももう用は無いので、商人組合を出る事にした。
宿に帰った俺は、月が出ている事を確認して、地球へと帰還した。
残金
円 =1,130,000
ギル=5,500