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寝室へと帰ってきた俺は、靴を脱いで寝室に置いてある異世界物用の棚に仕舞った。
それから汗で汚れた服を洗濯機に突っ込み、シャワーを浴びて上がってから携帯の電源を入れた。
「聖奈さんからメッセージが……50件?」
どこのストーカーや!
緊急的なものだと困るのですぐに確認したが、中身は大したものではなかった。
『どうでした?』『売れましたか?』
『私も異世界行きたいです!』
などの、どーでもいいものだった。
返すのも面倒くさいから電話しよっと。
『もしもし!?どうだった?貴族に刺客を送られた!?』
…なんだかトラブルを待ってるんじゃないかと疑うが、メッセージの大半は俺を心配していたから許そう。俺の心は、母なる海の様に広いのだ。
「大丈夫。お金は売れてからになるから、明後日以降だって。
馬車もお金が入ったら売ってくれる様に頼んだし、聖奈が言うように問題なかったよ」
『はぁ。良かった。これから泊まりに行っても良いかな?』
どうやらまだ異世界に行けていないのに、興奮冷めやらぬ様だ。
「今日は向こうで泊まらないといけないからダメだな。
明日の夕方に月が出たら帰るよ。
それから祝勝会をしよう」
何に勝ったかわからないけど咄嗟に出たのが祝勝会だった。…語彙力
『ざーんねん。わかったよ。また明日ね!』
まるでカップルのような会話だが、そんなことはない。
聖奈さんは異世界の話がしたいだけで、俺達は戦友のようなものだ。
電話を切った俺は、もう一着の同じ服に着替えて、宿へと戻った。
次の日は特にすることはないが、お金がないので、宿を引き払わなくてはならない。
街を夕方までぶらついてから帰る予定だ。
翌朝、油断した俺は失敗を犯した。
「また朝飯を逃した…無料なのに」
ため息を溢しながら、街をぶらぶらと宛てもなく歩く。
仕方なくなけなしのギルを使って、飯を食ったりしながら時間を潰した。
途中街を歩いていたミランに会い、アドバイスをもらえたのは僥倖だったな。
「じゃあ、馬車だと夜は街に入れないのか」
「そうです。日が沈んだときに大門は閉まります。
逆に日が昇ったときに大門が開きます。
他の国までは存じ上げませんが、国内の大きな街であれば全て同じです」
「ありがとう。他に馬車で気をつけなきゃいけないことはないか?」
「そうですね…門で荷を検められるくらいでしょうか?」
なに!?それだと白砂糖は運べないやないか!
「それはどこもか?」
「そうですね。ただ、特例として許可証があれば検問されないようですが。あくまでも特例ですね」
「どこの許可が必要なんだ?」
俺の言葉に少し考え込んでから、ミランは口を開いた。
「確かではありませんが、国、又はその街の領主、または領主の許可を得たいずれかの組合長の許可でしょうか?
あまり詳しくないので、憶測混じりで自信がありません」
「いや、助かったよ。今は持ち合わせがないからまた今度、食事でも奢らせてくれ」
「いえ。この前、充分頂きましたから。では」
もしや、狙われてると勘違いされてる?
この断り方はどっちだ!?どちらにしても……
俺はロリコンちゃうんやー!
一頻り心の中で叫んだ俺は、街の入り口を目指した。
もう薄っすら月が見えてるからな!
いつもの場所から帰還した俺は、聖奈さんに連絡をした。
「もしもし。帰ったからいつ来てもええでぇ」
心の中で長い間叫んでいたせいで、変な関西弁になってもうた。
『ふふっ。何その口調。わかったよ。今から行くね』
ウケたからいいか。
とりあえず聖奈さんが来る前にシャワーでも浴び……
ピーンポーン
「はい」
『聖奈です』
早スギィ!!
ガチャ
「早いな」
開口一番感想を告げた。
「実はマンションの近くで待ってたんだ!
嬉しい?」
アンタは立派なストーカーや。
「とりあえず入ってくれ。ん?荷物があるのか?」
嬉しい?は無視した。揶揄われてばかりじゃいられないぜっ!
聖奈さんは旅行カバンに買い物袋を持っていた。
「聖くんの家ってなにもないじゃない?だから晩御飯の材料を買ってきたの。
嫌だった?」
何故上目遣いで見る…あなたのキャラは頼りになる姉御だったじゃないの……
「嫌なわけない。ありがとう。お腹すいてたんだ。俺はシャワー浴びるからいつも通り好きにしてて」
「じゃあ、料理に取り掛かるね」
俺の言葉に弾ける様な笑顔を見せて、部屋へと入っていく。
あんなキャラだっけ?
少し疑問に思うも、情緒不安定な人だから気にしたら負けだと思い、考えるのをやめた。
シャワーを浴びた俺は髪を乾かしてから、良い匂いのするリビングへと向かった。
「まだもう少しかかるから待っててね」
「いや、作ってもらってるのに、待つくらいならいくらでも待つよ」
とは言ったものの、余りにも食欲をそそる匂いに長く待てる自信はない。
「そういえばいくらだった?」
作ってもらってタダで食おうとは思わない。
全額は断られてもいくらか多めに出したいので、費用を聞いたんだが……
「いいよ。泊めて貰うんだから気にしないで」
泊める…?
今日も明日も予定は特に決めていなかったけど、もしかして白砂糖の瓶詰め作業でもするのかな?
「はい。お待たせでした」
目の前に美味そうなご飯はあるが、先程の聖奈さんの言葉が気になって箸が進まない。
聖奈さんが席に着いたのを確認してから、先程の疑問をぶつけた。
「泊まるって聞いたけど、何か予定あったっけ?」
俺が忘れていたら大問題だから聞いてみた。
「ん?予定はないよ。家を出たから泊めてもらうだけだよ」
ふーん。そうかぁ。家を出たのなら仕方ないなぁ。
ってならんやろ!?
「え?家を出たってどういうことだ?」
「親に言ったの。『私やりたい事を見つけたから大学辞める』って。そしたら『やりたい事で食べていけるのか?無理だと言っても高い金出した大学を辞めるならもう養えんぞ』って言われたから出てきたの」
えっ?この子頭大丈夫か?須藤 智也によると、聖奈さんの家は金持ちのはず……
何がこの子を突き動かしたんだ……
異世界だろうなぁ。はぁ。
「もう親の言いなりはやめたの。私は自分のやりたい事をするって決めたの!
聖くんは応援してくれるよね?」
聖奈さん…それは脅迫っていうんだよ?
まあ冗談はおいといて、俺がこの子を変えたんだよな。俺自身どうなるか先は全然わからないけど、背中を押した責任くらいは取ろう。
「ああ。聖奈のやりたい事を聖奈の責任でするのなら応援する。
もちろん仲間だから、困った事があれば出来ることは力になるよ」
言ってしまったが俺も腹をくくろう。聖奈さんが一人立ち出来る様に、頑張って稼がないとな。
「もちろん私がする事を聖くんや他人のせいになんてしないよ。
じゃあ、泊めてもらうってことで!同棲記念にかんぱーい!」
俺のせい?もしかしてさっきの言葉、変な風に聞こえたかな。
同棲?ルームメイト?
むしろ家事をしてくれる住み込みの家政婦さんじゃ……
「ただの住み込みだろ…まあ、料理が冷める前に食べよう」
家を出たから行くとこがなくて、ずっと待ってたんだな。
俺がトラブルで帰れなかったらどうしていたんだ?
行動力が高すぎるのも考えものだな。俺と足して2で割りたい……
今日は疲れているだろうから、ベッドは聖奈さんに譲ってあげた。
残金
1,130,000円
4000ギル