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警察署の前は、今日も平和だった。
「よし」
つぼ浦が腕を組む。
「今日は静かだな。怪しい動きも――」
「失礼する」
「は????」
振り返った瞬間、
そこにいてはいけない男が立っていた。
「な、な、な、なに堂々と入ってきてんだよ!!」
つぼ浦は即バットを構える。
「ここ警察署!! 警察署だからな!?」
「承知している」
ヴァンダーマーは落ち着き払っている。
「だから来た」
「意味が分からねぇ!!」
「後日、様子を見に来ると言ったはずだ」
「言ってねぇよ!? 俺が勝手に脳内で警戒してただけだよ!!」
周囲の警官たちがざわつく。
「え、あれ…?」
「モズのボス……?」
「なんで普通に歩いて来てんだよ……!?」
「落ち着け」
ヴァンダーマーは静かに言う。
「今日は戦闘ではない」
「余計怖ぇよ!!!」
一歩、近づく。
「……顔色がいいな」
「観察すんな!!」
「前回より、回復している」
「経過観察すんな!!」
つぼ浦はロケランを――
取りに行こうとして、止まった。
「……」
「……」
「やめろ」
「何をだ」
「その“何をだ”がもうダメなんだよ!!」
ヴァンダーマーは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
――明確な楽しさ。
「なるほど」
「分析すんな!!」
「この場所だと、武装が制限される」
「最悪の気付き方するな!!!」
「安心しろ」
ヴァンダーマーは手を上げる。
「今日は言葉だけだ」
「言葉が一番危ねぇんだよ!!」
一人が小声で囁く。
「つぼつぼ……大丈夫か……?」
「大丈夫!!!」
即答。
「ただの……ファンヒーターだから……」
「また間違えたな、何回間違える気だ…」
「うるせぇ!!」
ヴァンダーマーは踵を返す。
「今日は確認だけだ」
「なにをだよ……」
「儂が」
一拍。
「また来たくなるかどうか」
振り向きざまに、静かに続ける。
「結論は、出た」
「出すな!!!」
男は何事もなかったように去っていく。
警察署の前に、重たい沈黙が残った。
「……つぼ浦さん」
「はい」
「今の、夢じゃないですよね」
「現実だよ……最悪のな……」
遠くで、低い声が風に混じる。
「次は、もう少し耐性を試そう」
「試すなァァァァ!!!!」
その叫びを、
ヴァンダーマーは今日も満足そうに聞いていた。
警察署・休憩室。
「よし」
つぼ浦は深呼吸した。
「今日から耐性をつける」
机の上にはメモ。
* 冷静を保つ
* 即反応しない
* 下ネタに意味を見出さない
* 顔に出さない
「完璧だな」
つぼ浦は自分に頷く。
「俺は特殊刑事課つぼ浦匠。絶対正義」
「何してるバブ?」
キャップが覗く。
「精神鍛錬」
「……大丈夫か?」
「大丈夫だ!!」
その時。
「精進しているようだな」
「ッッッ!!?」
声だけで分かった。
振り向く前から、**負けが確定**していた。
「な、なんでいんだよ!! キャンターマー!!」
「今日はファンヒーターではないのか」
「黙れ!!」
つぼ浦はすぐにメモを裏返す。
冷静。冷静。
「……用件は?」
努めて平坦に言う。
「観察だ」
「却下!!!」
ヴァンダーマーは一歩近づく。
いつもより、ゆっくり。
「肩の力が抜けていない」
「気のせいだ」
「呼吸が浅い」
「気のせいだって!!」
つぼ浦は腕を組む。
動じない。動じない。
「今日はな」
ヴァンダーマーが言う。
「言葉を選んできた」
「やめろその宣言!!」
「例えば――」
「例えば言うな!!」
つぼ浦は歯を食いしばる。
耐性。耐性。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
沈黙。
「……?」
つぼ浦が怪訝な顔をする。
「……言わねぇのか?」
「待っている」
「何を」
「お前が、勝手に想像するのを」
「――っ!!」
一気に崩れた。
「卑怯だろそれ!!」
つぼ浦は頭を抱える。
「何も言ってねぇのにダメなの最悪だろ!!」
「成功だな」
ヴァンダーマーは淡々と頷く。
「耐性は、むしろ下がっている」
「なんで分析すんだよ!!」
「成長は記録が必要だ」
つぼ浦は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「二度と来るなワクワクセクハラおじさん!!」
「承知した」
ヴァンダーマーは踵を返す。
「次は――」
一拍。
「もう少し静かに攻めよう」
「攻めるなァァァァ!!!!」
扉が閉まる。
残された休憩室で、
キャップがそっと言った。
「……耐性、つかなかったな」
「聞くな……」
遠ざかる足音と共に、
ヴァンダーマーは**確信していた**。
――この正義は、何度でも崩れる。
そして、変化する。それを見るのが、たまらなく楽しい。