テラーノベル
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――次は、こっちから行く。
つぼ浦は決めていた。
「よし……」
屋上
「今日こそ勝つ」
深呼吸。
バットは置いた。
精神戦だ。
「待たせたな、半チャーハン」
「今日は随分と余裕だな」
ヴァンダーマーが現れる。
相変わらず、冷静沈着。
そして――楽しそう。
「……あのな」
つぼ浦は咳払いをする。
「俺だって……言えるからな」
「ほう」
「下ネタ」
「……」
一瞬の沈黙。
「……続けろ」
「う゛っ……」
自分で振っておいて、喉が詰まる。
「た、例えばだな……」
必死に言葉を探す。
「その……サイズが……」
「サイズ」
ヴァンダーマーが繰り返す。
「何のだ」
「っっっ!!!」
思考が爆散する。
「言わせるな!!」
つぼ浦は即座に後退。
「そうやって拾うな!!」
「儂は確認しているだけだが」
「確認が一番ダメなんだよ!!」
つぼ浦は顔を覆う。
「違う……こうじゃない……」
「面白いな」
ヴァンダーマーは淡々と続ける。
「攻勢に出ると、防御が落ちる」
「分析やめろ!!」
つぼ浦は意地で顔を上げる。
「じゃあ……ほら……」
「……」
「……夜に……その……」
「夜に」
「繰り返すな!!」
完全に自滅だった。
「……以上だ」
ヴァンダーマーは静かに結論づける。
「お前は振る側に向いていない」
「知ってるよ!!!」
つぼ浦は叫ぶ。
「開始三秒で分かったわ!!!」
風が吹く。
「だが」
ヴァンダーマーが一歩近づく。
「試みたことは評価する」
「評価すんな!!」
「勇気があった」
「いらねぇ勇気だよ!!」
つぼ浦は地面にしゃがみ込む。
「もう無理……俺は正義だけやってたい……」
「安心しろ」
ヴァンダーマーは踵を返す。
「儂が振る」
「宣言すんなァァァ!!」
その背中を見送りながら、
つぼ浦は悟った。
――**勝ち筋が、存在しない。**
ヴァンダーマーは、
今日もまた**正義を崩すことに成功した**。
「結論が出た」
屋上の風の中で、ヴァンダーマーは静かに言った。
「お前には――教育が必要だな」
「は?????」
つぼ浦は即座に叫ぶ。
「誰が何を教育すんだよ!!」
「下ネタ耐性だ」
「いらねぇ!!!」
ヴァンダーマーは首を傾げる。
「警察が動揺するのは非効率だ」
「動揺させてんのお前だろ!!」
「よって」
淡々と続く。
「段階的に慣らす必要がある」
「待て待て待て」
つぼ浦は両手を振る。
「その言い方がもう教育じゃなくて調教なんだよ!!」
「誤解だ」
「誤解の余地がねぇ!!」
ヴァンダーマーは指を一本立てる。
「第一段階」
「聞かねぇ!!」
「言葉の意味を即座に結びつけない」
「無理!!」
「第二段階」
「まだあるのかよ!!」
「第三者視点で解釈する」
「誰の授業だよそれ!!」
つぼ浦は後ずさる。
「俺は警察だぞ!? 教育される側じゃねぇ!!」
「職業は関係ない」
即答。
「弱点は補強すべきだ」
「弱点扱いすんな!!」
ヴァンダーマーは一歩近づく。
声は低く、落ち着いている。
「例えば」
「例えば言うな!!」
「“装填”」
「やめろォォ!!」
つぼ浦は耳を塞ぐ。
「段階とか言いながら即核心突くな!!」
「反応が早い」
「褒めんな!!」
「改善余地が大きい」
「評価すんな!!」
一瞬、沈黙。
「……なぁ」
つぼ浦が疲れた声で言う。
「お前さ……なんでそんな楽しそうなんだよ」
ヴァンダーマーは、ほんのわずかに間を置いた。
「分からん」
正直な声だった。
「だが――」
視線が、つぼ浦に向く。
「お前の言動は、結果が予測できない」
「最悪の理由じゃねぇか」
「それが、刺激になる」
「それを感情って言うんだよ!!」
「そうか」
ヴァンダーマーは納得したように頷く。
「では、教育は続行だな」
「続けんな!!!」
無線が鳴る。
つぼ浦は逃げるように背を向けた。
「もう近寄るな! 教育禁止!!」
「善処しよう」
「信用できねぇ!!」
去っていく正義の背中を見ながら、
ヴァンダーマーは静かに結論づけた。
「……長期計画になるな」
それを**教育**と呼ぶあたり、
完全に手遅れだった。
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