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「おはよー…」
と教室を見渡して葉道(はど)の横の席にアイビルがいないことに気づく。
「ございます」
「「おはようございます」」
「おはよー!鳥愛(とあ)ちゃん!」
「奥樽家(オタルゲ)先生ね。…アイビルくんは?」
「さあ?」
「アイビルくんのことなにか聞いてる人」
教室中を見回す鳥愛。
「蘭姉」
「兄ちゃん」
「なんか聞いてる?」
「いや?LIMEしてみるか」
「士はー?」
「なんも聞いてない」
「円ー」
「さあ?万尋(まひろ)はー?」
「さあ?頻繁にLIMEする仲じゃないし」
「虹言(ニコ)ちんは?」
「ううん」
鳥愛も教室中を見回して誰も知っている人がいないということを確認し
「そっか。じゃあ電話して確認してみないと…」
と朝のホームルームを始めて
「では本日も怪我なく、問題を起こさないように1日過ごしてください。以上」
「きりーつ。礼」
「「ありがとうございましたー!」」
「あーしたー!」
と朝のホームルームを終えた。葉道は鳥愛の元へ駆け寄って行って
「鳥愛ちゃん鳥愛ちゃん」
「「奥樽家先生ね」」
鳥愛の言葉を読むように被せた。
「わかってんならそう呼びなさい。で?どうかしたの?」
「いや、アイビルの。なんかわかったら教えて?」
「はいはい。あと教えて“ください”ね?」
「うーす」
鳥愛は教室を出て職員室に戻る。そしてデスクの上の固定電話でアイビルの自宅に電話をかける。
プルルルルル。プルルルルル。呼び出し音が鳴る。
プルルルルル。プルルルルル。カーテンが少しだけ開いていて
ほんの少しだけ陽の光が差し込む暗いリビングの片隅で固定電話が光り鳴いている。
「…んん〜…。はいはいはいはい…。ちょっと待ってくださいねぇ〜…っと」
裸足でフローリングを寝起きで歩く、ペタ、ペタペタ、ペタという音がリビングに近づき
「はい」
電話に出る。
「あ。えぇ、達磨ノ目高校2年E組のクラス担任をしている、奥樽家(オタルゲ)鳥愛(とあ)と申しますが」
「あぁ。はいはい。アイビルの」
「はい。失礼ですがアイビルくんのお母様でいらっしゃいますでしょうか?」
「あ。いえいえ」
と笑いながら片足立ちで軸足の脹脛をもう片方の足で掻く。
「同居人?です」
「あ。同居していらっしゃる方」
お母さんじゃないんだ…
と思いながらも
なんか聞いたことある声だな
と思う鳥愛。
「あのぉ〜。まだ今日アイビルくんが登校していないんですが、体調が芳しくないということでしょうか」
「あ、いえ。たぶん朝までぇ〜…なんかやってたんで
それで起きてないってだけですんで、叩き起こして行かせます」
「あ、無理はしなくていいので。はい。…はい。では失礼いたします」
ガチャッ。
「珍しく躍起になってたからなぁ〜…。ま。昼には行かせりゃいいか。寝かしとこ」
「鳥愛先輩。生徒さんの自宅にお電話ですか」
天美(あみ)がイスをクルンと回して鳥愛のほうを向く。
「うん。ほら、例の転校生くん。今日朝いなくてね。欠席かと思って電話したの」
「ズル休み?」
「うぅ〜ん。…まあ。いや、どうなんだろ。寝るの遅くて起きらんなかったっぽい」
「あぁ。ズル”休み“ではないのかな?来るって言ってました?」
「うぅ〜ん。同居人の人が叩き起こして行かせるとは言ってた」
「同居人?」
「うん」
「ご両親とかじゃなくて?」
「うん。もしかしたらご両親はまだイギリスで、アイビルくん単身でこっち来たのかも」
「なるですねぇ〜」
という職員室。一方教室。
「アイビルから返信来た?」
「んや?来てない」
「んなぁ〜…そうかぁ〜…」
イスにもたれかかり、イスが斜めになる。
「もし風邪とかだったらお見舞い行く?」
という葉道の言葉を聞いて
お。二次元定番のお見舞いイベント
と思う虹言(ニコ)。
「迷惑だろ」
一蹴する蘭。
「そうかぁ〜…」
さらに寄りかかる。イスはさらに斜めになり
「あっ…」
倒れそうになり焦り
「ぶな」
セーフ。
「バカかよ」
そんな感じで1時間目の授業の先生が教室に入ってきて授業が始まる。
11時過ぎ頃。コンコン。ドアのノック音。コンコンコン。さらにノック音。
「んん…」
「入るよー」
ドアを開ける。
「そろ起きー。朝先生から電話かかってきたでー」
デスクトップパソコンの前に突っ伏して寝ていたアイビル。
「んん…」
顔を上げる。
「ぷっ!…顔」
「んん…。ん?」
「とりま顔洗って歯磨いてなんか食べて学校行きー。私はぁ〜…あぁ…んん…眠いから寝る」
と告げて部屋に戻った。
「んん…」
キーボード脇に置いていたスマホの画面をタップする。画面に表示されていた時刻。11:08。
「…。っ!」
ガバッっと立ち上がる。
「ヤバッ!」
すぐに部屋を出て洗面所へ行く。
「うわっ…」
鏡にはキーボードの痕がついた顔が写った。
「…」
顔を斜めにして右手でキーボードで凹んだ頬を無言で触る。
「…っ!」
何かに気づいて急いで部屋に戻る。パソコンの電源を入れる。
パスワードを入力するとDAWソフトと呼ばれるDTM
パソコンで音楽を作成するためのソフトの画面が表示される。
「えぇ〜っとぉ〜…」
マウスを片手に画面を確認するアイビル。
画面の左から右に。そして少し下に視線をズラし、また左から右にと見ていった。
「データ的には大丈夫そう…か…な」
と呟いて保存してからシャットダウンさせてまた洗面所へ行く。
歯を磨きながら頬についたキーボードの痕を見る。
「…」
口を濯いで顔を洗ってリビングに行ってカーテンを開く。
「っ…。眩しっ」
キッチンへ行って冷蔵庫から数秒でチャージできる飲むゼリーを取り出し
キャップをバリバリバリッっと開け、飲む。飲みながら
「んん〜んっんんっ。んーんーんー」
と鼻歌を歌い、首を傾げ
「んん〜んっ。んんーんーんー」
と鼻歌を変え、また首を傾げを繰り返し、空になった飲むゼリーのゴミをゴミ箱に捨て自分の部屋に行く。
スマホをタップする。先程時間に驚愕していたので気づかなかったが
蘭、葉道、円からLIMEのメッセージの通知が来ていた。
蘭「おはよ。どうした?風邪?大丈夫?」
葉道「アイビルちゃーん!おはー!」
円「おはー!風邪?じゃないよね?大丈夫?」
三者三様のメッセージ。思わず笑顔になる。返信をし終え、制服に着替えて
「いってきます」
家を出た。
「お。返信来てた」
4時間目までの授業が終わり、スマホを見た蘭が呟く。
「お。マジ?」
葉道もスマホを見る。その2人の言葉を聞いて円もスマホを見る。
「昼食べてから行く。か」
「風邪じゃないようで。よかったよかった」
「士ー。お昼食べるぞー」
ということで士、葉道、蘭の3人でお昼ご飯を食べることに。
「万尋ー虹言ちーん。お昼食べるぞーい」
「ほーい」
「うん」
女子3人は女子3人で固まって食べることに。
「鳥愛センパーイ。お昼食べましょー」
「おけー。行こっか」
鳥愛も天美と一緒に食堂でお昼を食べることに。
「鳥愛先輩いっつも食堂ですよね」
「まあ。天美ちゃんとは違うからねぇ〜」
「ん?どゆ意味?」
「いや、家庭科教師みたいに料理作るのが好きで好きで堪んないって人間じゃないから
お昼は買って済ますってことよ」
「お昼だけー?」
「…ま、夜もだけどさ」
「んふ」
満足そうに笑いながらお弁当の蓋を開ける。
「今日も華やかなこって」
サンドイッチを片手に天美のお弁当を見て言う鳥愛。
「いただきます」
「いただきます」
鳥愛は食堂で頼んだサンドイッチを、天美は自分で作ったお弁当を食べ進める。
「…あれ。そういえば鳥愛先輩って実家…」
「じゃないよ。それ妹」
「あ。妹さんか」
「実家ならお母さんがお弁当作ってくれるよ」
「ほっかほっか。妹さん名前似てるから間違えるんですよ。鳥希(とき)さんでしたよね?」
「そう。似てるか?あと“さん”じゃなくていいよ。天美ちゃんより歳下だし」
「あれ?そうでしたっけ?」
「うん。24。今年25。…あ、須藤くんと同じだわ」
「あ。じゃあ“さん”つけなくていいか」
「そうそう」
「へっ…しょん!」
職員室の自分のデスクでカップ麺の3分待ちでくしゃみをする我希(わき)。
「鳥希さ…鳥希ちゃんも教職ですよね?たしか」
「うん。亀池(きゅうち)(亀池学園の略称)で」
「あぁ。亀池でしたっけ?」
「うん。そ。亀池で英語教師してる」
「英語!そうなんですね。姉妹揃って地理ではないんだ?」
「姉妹揃って同じ教職で、同じ地理科ってキモイでしょ」
「いやキモくはないっすよ」
と笑ってお昼ご飯を食べ終えた。
「アイビルくん職員室寄ってくれるかな」
鳥愛が呟く。
「ん?それはなぜに?」
「いや、名簿に遅刻って書かないと」
「あー。でも後々書けばいいんじゃないですか?」
「まあ。でも寄ってくれたら助かるんよなぁ〜。午後の授業、どこから出たのかとかもわかるし」
「なーるですね」
しばらくその場で2人でスマホをいじって職員室に戻った。
すると、コンコンコン。職員室のドアがノックされ、涼しいほどの水色の髪の生徒が入ってきた。
天美のデスクは出入り口と向き合う方向なので、その男の子がアイビルだとすぐ気づいて
「お。噂の。たしかにイケメンだな」
と呟いて、キャスターつきのイスを後ろ側にスーっと動かし、鳥愛のイスの背もたれにぶつける。
「痛っ」
「来ましたよ。イケメン」
という天美の言葉に振り返る。アイビルと目が合う。アイビルがぺこりと頭を下げる。
「ナイス。アイビルくん」
と呟き、アイビルに向かって手招きをする。アイビルが
「失礼します」
と言って職員室に入ってきて鳥愛の近くへ来る。
「身長高ぁ〜」
天美が呟く。
「すいません」
「あ。ううん。大丈夫大丈夫。体調不良とかじゃなくてよかったよ」
「おぉ。優しいぃ〜」
呟く天美。
「じゃ、午後の授業頑張ってね」
「はい」
アイビルは一礼をして職員室を出ていった。
「初めて見たけど、激イケメンじゃないっすか」
と言う天美に対し「そうなのよ」と口から出そうになるが
オレ、奥樽家(オタルゲ)先生のこと好きです
というアイビルの言葉が頭の中にこだまし
私が今「そうなのよ」って言ったら、なんかおかしなことにならんか?
というのを一瞬で頭の中で考え
「んん〜。そう〜か〜な〜」
と変な返事になった。アイビルは教室についた。
「おぉ!アイビル!」
葉道がいち早く気付き手を挙げる。蘭も士もアイビルを見て、それぞれ個性の出る手の挙げ方をする。
円もアイビルに大きく手を振り、万尋は小さく「YEET」をする。
虹言も小さく手を挙げて小さく手を振る。アイビルもそれぞれに応える。そして自分の席に行く。
「なんだぁ〜?転校早々にグレたか?」
「いや、単純に寝坊」
「昨日の夜いやらしいことでもしてたのかぁ〜」
とニマニマ顔でアイビルに擦り寄る葉道。
「ま、そんなとこかな」
と微笑むアイビル。お昼休憩も終わり、午後の授業が始まった。