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炎の宿命

19 - 第十五章【静かな夜明けに集う者たち】

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2025年08月26日

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「なぜお前から――“咲莉那の霊力”を感じるのだ!」


咲莉那の瞳が大きく見開かれる。

一瞬、時間が止まったような静寂。

その直後──周囲にざわめきが走った。

─咲莉那?咲莉那ってあの火龍使いの?─

─咲莉那は冥央様によって倒されたはずでは?─

─なぜ咲莉那が生きているの?─


「待ってください冥央様!咲莉那は死んだはずじゃ─」


瑛斗がそう叫ぶと冥央が言った。


「確かに咲莉那の霊力を感じるのだ、瑛斗。それも外側からではなく内側から」


冥央は続ける。


「咲莉那は我々に一度は命を狙われのだ。我々に対する恨みから、扉の事件を起こしたと考えるとすべてつじつまが合うのだ」


冥央は咲莉那の方に体を向けにじり寄る。


「咲莉那、もう逃げ場はないぞ。」


咲莉那は後退りし強く拳を握りしめる。

どうやって切り抜けるか──そのとき、突如として突風が起こった。それと同時に霧のような何かが立ち込めた。


「なんだっ…これは!」


直後、団員たちが次々と倒れ出した。


「お前たち!どうした!」


冥央が団員に呼び掛けていると、なぜか手足に力が入らなくなりその場に倒れてしまった。


「クソッ、この霧、神経毒か…!」


霧が晴れるとそこに咲莉那、火楽、瑛斗の姿はなかった。


薄暗い森の中──複数の影が、小さく、深く息を吐きながら走っていた。


「ここ…まで…来れば、大丈夫…」


息を切らしながら青年が言った。


「本当に…ありがとう。翔真」


咲莉那が礼を言うと翔真は笑った。


「礼なんて言わなくていいよ咲莉那。僕たち、仲間でしょ?」


「白華楼の奴らは今頃、アタシの神経毒で動けないはずよ」


「日麻さんもありがとうございます」


「友人が冤罪をかけられているのよ?どこに助けない理由があるの?」


「しかし、驚きました。突風と霧は俺たちを救出させるためだとは思いませんでした。あまりに突然だったので、敵襲かと…」


瑛斗が言うと日麻は笑って言った。


「まぁ、白華楼にとっては敵襲だけどね」


「二人とも、なんで私たちを助けれたの?ここの近くにはいなかったよね?」


咲莉那が疑問を投げかけると、翔真が答えた。


「火楽から連絡が来たんだ。『二三人で白華楼に来て欲しい。そして、俺たちに何かあったときに助けて欲しい』って」


さらに翔真は続ける。


「それでみんなと話し合って、時間稼ぎをしやすくて、潜入が得意な僕たちが行くことになったんだ」


「そうだったんだ…火楽、ありがとう」


咲莉那が礼を言うと火楽は微笑んだ。


「主様から隠し部屋の話を聞いたときに、来てもらった方が言いと思ったんです」


月明かりが、枝の隙間からわずかに差し込む。

湿った土の香りと、誰もいない静けさが、五人の影を長く伸ばしていた。


「……少し歩けば、他のみんなとも合流できるから、もうちょっとだけ頑張って」


翔真の声に頷くように、咲莉那たちは一歩、また一歩と進み始めた。


森の中をしばらく歩いた先にゆらゆら揺れる、松明の火が見えた。


「…いた!」


日麻が声を上げると同時に、木々の間から二人の影が立ち上がる。


「お嬢!みんな無事ですかい?」


駆け寄ってきたのは――、嶺岳。

そのすぐ後ろには、空華が驚いたように目を丸くしていた。


「無事……本当に……!よかった……!」


咲莉那が微笑んだその瞬間、空華が彼女に飛びつく。


「こっちは安全確認済みだ。みんなもすぐ近くにいる」


嶺岳が肩越しに合図を出すと、さらに二人の仲間が姿を現す。

水龍の雫とその主葵だ。


「この森の先に、結界を張ったの。今はそこに集まってる」


日麻が頷いて言う。


「あと少しで結界の内側まで入れる。そうなれば、当分は追手も来られないはずよ」


日麻の案内で結界の中へ入った三人は、焚き火の周りへ集まり皆に情報を共有することにした。


「咲莉那、何か進展はあった?」


日麻が問うと咲莉那は頷いた。


「進展はあった。真犯人もわかった。」


「真犯人がわかったの!?」


「うん。真犯人は─」


「なるほど…どうりで、わからなかったわけね」


「そんなにも、近くにいたなんて…」


日麻が呟くと咲莉那も頷いた。


「私も最初は確証はなかった。でも、もう一度あの隠し部屋に行ったあの夜、確信したよ。私に濡れ衣を着せたのはあの人だって」


「確たる証拠はもうある。あとは、白華楼のみんなに分かってもらえれば、咲莉那の濡れ衣は晴れる。ってことね」


葵が呟くと、翔真が嬉しそうに言った。


「咲莉那、良かったね!」


少し笑って――でもほんのわずかに目を伏せて咲莉那は言った。


「うん……ありがとう、翔真。でも……その人の顔を、ちゃんと見て言わなきゃって思ってる」


「いや、もう、人とは呼ばない方が適切かもね」


咲莉那はそう呟いたのだった。


咲莉那は気が付くと、見知らぬ場所にいた。すると突然子供の笑い声が聞こえたと同時に─


─とおりゃんせとおりゃんせ─


子供の歌声が聞こえてきた。

向こうでは子供たちが遊んでいる。


突然一人の子供がこちらへやって来ると、 待雪草を咲莉那に差し出した。

咲莉那は待雪草を手に取った。


─いきはよいよい かえりはこわい─


咲莉那が瞬きした間に待雪草からは血が滲み出ていた。


咲莉那は、ぱちりと目を開けた。

夢見が悪かったおかげで、朝から最悪の目覚めだなと思った。


すでに他のみんなは起きており、各々過ごしている。


「主様、おはようございます」


火楽に対して咲莉那は短く返した。


「おはよ…」


「主様、どうかなさいましたか?」


火楽がすぐに異変を察知し話しかけた。


「いや、ちょっと夢見が悪かっただけ」


「……朝露で冷えます。お茶でも淹れましょうか」


「うん、お願い」


火楽は立ち上がり茶を淹れに歩いていった。


咲莉那は何気なく自分の手を見た。

─血が滲み出た待雪草─

咲莉那は指先をじっと見つめたのだった。


「主様、お茶どうぞ」


見上げると火楽が茶を差し出していた。


「ありがとう」


咲莉那は茶を受け取ると一口すすった。


「あと少しで、疑いが晴れますね」


火楽が呟いた。


「あの日の夜、瑛斗を助けなかったら、こうなってなかった」


咲莉那は瑛斗を見ながら呟いた。


「こうやって、証拠を集められたのも、瑛斗が『誤解を解く』と言ってくれたからなんだよね」


「本当にあの子は優しい子だよ」


「咲莉那!」


見ると空華が走ってきていた。


「空華?どうしたの?」


「白華楼がもうここを嗅ぎ付けたみたいで!」


「もう!?」


その直後、バチバチッという音が聞こえ、結界が不安定になった。


「まずい、このままだと結界が…!」


翔真が必死に結界の修復を試みるも遅かった。


「ダメだ!破られる!」


翔真が叫んだ瞬間、バチッという音と共に結界が解け、煙が立ち込めた。

煙の中に一人の影がこちらへ向かって歩いてくる。だがその影は次第に数を増した。

煙が晴れたとき、その影が明らかとなった。


「火龍使い・咲莉那。今度こそ逃がさぬぞ」


そう言ったのは冥央だった。

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