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「なぜお前から――“咲莉那の霊力”を感じるのだ!」
咲莉那の瞳が大きく見開かれる。
一瞬、時間が止まったような静寂。
その直後──周囲にざわめきが走った。
─咲莉那?咲莉那ってあの火龍使いの?─
─咲莉那は冥央様によって倒されたはずでは?─
─なぜ咲莉那が生きているの?─
「待ってください冥央様!咲莉那は死んだはずじゃ─」
瑛斗がそう叫ぶと冥央が言った。
「確かに咲莉那の霊力を感じるのだ、瑛斗。それも外側からではなく内側から」
冥央は続ける。
「咲莉那は我々に一度は命を狙われのだ。我々に対する恨みから、扉の事件を起こしたと考えるとすべてつじつまが合うのだ」
冥央は咲莉那の方に体を向けにじり寄る。
「咲莉那、もう逃げ場はないぞ。」
咲莉那は後退りし強く拳を握りしめる。
どうやって切り抜けるか──そのとき、突如として突風が起こった。それと同時に霧のような何かが立ち込めた。
「なんだっ…これは!」
直後、団員たちが次々と倒れ出した。
「お前たち!どうした!」
冥央が団員に呼び掛けていると、なぜか手足に力が入らなくなりその場に倒れてしまった。
「クソッ、この霧、神経毒か…!」
霧が晴れるとそこに咲莉那、火楽、瑛斗の姿はなかった。
薄暗い森の中──複数の影が、小さく、深く息を吐きながら走っていた。
「ここ…まで…来れば、大丈夫…」
息を切らしながら青年が言った。
「本当に…ありがとう。翔真」
咲莉那が礼を言うと翔真は笑った。
「礼なんて言わなくていいよ咲莉那。僕たち、仲間でしょ?」
「白華楼の奴らは今頃、アタシの神経毒で動けないはずよ」
「日麻さんもありがとうございます」
「友人が冤罪をかけられているのよ?どこに助けない理由があるの?」
「しかし、驚きました。突風と霧は俺たちを救出させるためだとは思いませんでした。あまりに突然だったので、敵襲かと…」
瑛斗が言うと日麻は笑って言った。
「まぁ、白華楼にとっては敵襲だけどね」
「二人とも、なんで私たちを助けれたの?ここの近くにはいなかったよね?」
咲莉那が疑問を投げかけると、翔真が答えた。
「火楽から連絡が来たんだ。『二三人で白華楼に来て欲しい。そして、俺たちに何かあったときに助けて欲しい』って」
さらに翔真は続ける。
「それでみんなと話し合って、時間稼ぎをしやすくて、潜入が得意な僕たちが行くことになったんだ」
「そうだったんだ…火楽、ありがとう」
咲莉那が礼を言うと火楽は微笑んだ。
「主様から隠し部屋の話を聞いたときに、来てもらった方が言いと思ったんです」
月明かりが、枝の隙間からわずかに差し込む。
湿った土の香りと、誰もいない静けさが、五人の影を長く伸ばしていた。
「……少し歩けば、他のみんなとも合流できるから、もうちょっとだけ頑張って」
翔真の声に頷くように、咲莉那たちは一歩、また一歩と進み始めた。
森の中をしばらく歩いた先にゆらゆら揺れる、松明の火が見えた。
「…いた!」
日麻が声を上げると同時に、木々の間から二人の影が立ち上がる。
「お嬢!みんな無事ですかい?」
駆け寄ってきたのは――、嶺岳。
そのすぐ後ろには、空華が驚いたように目を丸くしていた。
「無事……本当に……!よかった……!」
咲莉那が微笑んだその瞬間、空華が彼女に飛びつく。
「こっちは安全確認済みだ。みんなもすぐ近くにいる」
嶺岳が肩越しに合図を出すと、さらに二人の仲間が姿を現す。
水龍の雫とその主葵だ。
「この森の先に、結界を張ったの。今はそこに集まってる」
日麻が頷いて言う。
「あと少しで結界の内側まで入れる。そうなれば、当分は追手も来られないはずよ」
日麻の案内で結界の中へ入った三人は、焚き火の周りへ集まり皆に情報を共有することにした。
「咲莉那、何か進展はあった?」
日麻が問うと咲莉那は頷いた。
「進展はあった。真犯人もわかった。」
「真犯人がわかったの!?」
「うん。真犯人は─」
「なるほど…どうりで、わからなかったわけね」
「そんなにも、近くにいたなんて…」
日麻が呟くと咲莉那も頷いた。
「私も最初は確証はなかった。でも、もう一度あの隠し部屋に行ったあの夜、確信したよ。私に濡れ衣を着せたのはあの人だって」
「確たる証拠はもうある。あとは、白華楼のみんなに分かってもらえれば、咲莉那の濡れ衣は晴れる。ってことね」
葵が呟くと、翔真が嬉しそうに言った。
「咲莉那、良かったね!」
少し笑って――でもほんのわずかに目を伏せて咲莉那は言った。
「うん……ありがとう、翔真。でも……その人の顔を、ちゃんと見て言わなきゃって思ってる」
「いや、もう、人とは呼ばない方が適切かもね」
咲莉那はそう呟いたのだった。
咲莉那は気が付くと、見知らぬ場所にいた。すると突然子供の笑い声が聞こえたと同時に─
─とおりゃんせとおりゃんせ─
子供の歌声が聞こえてきた。
向こうでは子供たちが遊んでいる。
突然一人の子供がこちらへやって来ると、 待雪草を咲莉那に差し出した。
咲莉那は待雪草を手に取った。
─いきはよいよい かえりはこわい─
咲莉那が瞬きした間に待雪草からは血が滲み出ていた。
咲莉那は、ぱちりと目を開けた。
夢見が悪かったおかげで、朝から最悪の目覚めだなと思った。
すでに他のみんなは起きており、各々過ごしている。
「主様、おはようございます」
火楽に対して咲莉那は短く返した。
「おはよ…」
「主様、どうかなさいましたか?」
火楽がすぐに異変を察知し話しかけた。
「いや、ちょっと夢見が悪かっただけ」
「……朝露で冷えます。お茶でも淹れましょうか」
「うん、お願い」
火楽は立ち上がり茶を淹れに歩いていった。
咲莉那は何気なく自分の手を見た。
─血が滲み出た待雪草─
咲莉那は指先をじっと見つめたのだった。
「主様、お茶どうぞ」
見上げると火楽が茶を差し出していた。
「ありがとう」
咲莉那は茶を受け取ると一口すすった。
「あと少しで、疑いが晴れますね」
火楽が呟いた。
「あの日の夜、瑛斗を助けなかったら、こうなってなかった」
咲莉那は瑛斗を見ながら呟いた。
「こうやって、証拠を集められたのも、瑛斗が『誤解を解く』と言ってくれたからなんだよね」
「本当にあの子は優しい子だよ」
「咲莉那!」
見ると空華が走ってきていた。
「空華?どうしたの?」
「白華楼がもうここを嗅ぎ付けたみたいで!」
「もう!?」
その直後、バチバチッという音が聞こえ、結界が不安定になった。
「まずい、このままだと結界が…!」
翔真が必死に結界の修復を試みるも遅かった。
「ダメだ!破られる!」
翔真が叫んだ瞬間、バチッという音と共に結界が解け、煙が立ち込めた。
煙の中に一人の影がこちらへ向かって歩いてくる。だがその影は次第に数を増した。
煙が晴れたとき、その影が明らかとなった。
「火龍使い・咲莉那。今度こそ逃がさぬぞ」
そう言ったのは冥央だった。
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