テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
18
3,143
山奥へ続く細い道を、緋八マナはふらつきながら歩いていた。
もう走る力も残っていない。
足は痛いし、息も苦しい。
何より、胸が限界だった。
「……ロウ」
無事だろうか。
あんなに血が出ていた。
また誰かを傷つけた。
その罪悪感が、じわじわと胸を締めつける。
やがて、小さな川へ辿り着く。
冷たい水で顔を洗おうとしゃがみ込んだ時だった。
遠くから馬の音が聞こえる。
「……っ!」
心臓が跳ねる。
追手かもしれない。
マナは咄嗟に立ち上がり、逃げようとした。
けれど。
「マナ!!」
その声に、足が止まる。
聞き間違えるはずがない。
振り返った瞬間、涙が溢れそうになった。
「……ライ」
山道の向こう。
馬を走らせてきた 伊波ライ が、息を切らして立っていた。
髪は乱れ、服も土で汚れている。
貴族らしからぬ姿だった。
それでも。
会いたかった人だった。
ライは馬から飛び降りると、そのまま駆け寄ってくる。
「無事か」
震える声だった。
マナは何も言えない。
次の瞬間、強く抱きしめられる。
「っ……ライ」
腕が震えていた。
怖かったのだと分かる。
失うかもしれないと。
「よかった……」
耳元へ落ちる声が掠れている。
マナの胸がぎゅっと痛む。
「ロウが……」
「生きてる」
ライはすぐ答えた。
「怪我はしたが、大丈夫だ」
その瞬間、全身から力が抜ける。
「そっか……」
よかった。
本当に。
マナは思わずライの服を掴んだ。
するとライが少しだけ抱きしめる力を強くする。
「……会いたかった」
ぽつりと落ちた言葉。
マナは目を閉じる。
「俺も」
声が震える。
「ずっと会いたかった」
しばらく二人は離れられなかった。
ただ互いの温もりを確かめるみたいに抱き合う。
それだけで泣きそうになる。
やがてマナが小さく呟く。
「……来てよかったん?」
ライの体が僅かに強張る。
本当は来てはいけなかった。
屋敷を抜け出し、追手を振り切ってここまで来た。
もし父に知られれば、もう後戻りはできない。
でも。
「後悔してない」
ライは迷わず言った。
紫の瞳が真っ直ぐマナを見る。
「お前に会えないほうが苦しい」
その言葉に、胸が熱くなる。
マナは泣きそうになりながら笑った。
「……ずるい」
「何が」
「そういうこと真顔で言うとこ」
ライが少しだけ笑う。
久しぶりに見る、柔らかい笑顔だった。
けれど次の瞬間。
ライの表情が曇る。
「……時間がない」
マナが顔を上げる。
ライは苦しそうに息を吐いた。
「父上は、お前を諦めていない」
空気が冷える。
やはり追手は終わっていなかった。
「俺が戻らなければ、もっと大きく動く」
つまり。
ライがここにいる限り、マナは追われ続ける。
マナは唇を噛んだ。
せっかく会えたのに。
また離れなければならないのか。
するとライが、静かに言った。
「一緒に来るか」
マナが目を見開く。
「……え」
「遠くへ逃げる」
風が吹く。
ライの髪が揺れる。
「家も立場も全部捨てて、お前と生きる」
その言葉に、呼吸が止まりそうになる。
本気だ。
ライは本気で言っている。
「でも……」
「分かってる」
ライは苦く笑う。
「簡単じゃない」
追手も来る。
金も尽きる。
貴族を捨てれば、今までの全てを失う。
それでも。
ライはマナの手を取った。
「それでも、お前といたい」
真っ直ぐな瞳だった。
マナの胸がいっぱいになる。
嬉しい。
怖い。
でも。
「……俺も」
涙が滲む。
「ライと一緒におりたい」
その答えを聞いた瞬間。
ライは泣きそうに笑った。
まるで、やっと息ができたみたいに。
コメント
1件
やっと会えた……! もう、読みながらずっと「はやく会わせてあげてくれー!」って叫んでたから、この再会シーンは本当に胸熱でした😭💕 ライの「お前に会えないほうが苦しい」とか「一緒に来るか」とか、全部本気なのが伝わってきて泣ける……。立場も家も捨ててでもマナを選ぶ覚悟、重くて尊すぎるよ✨ 二人の距離がようやく縮まったのに、まだ追手の影があって気が抜けないラストも続きが気になりすぎる!! しろまるさん、今回も最高でした、ありがとうございます🌸