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うっおぉぉぉぉぉ……!!
こ、これは素直に楽しい――などと思っていたら、地面にしりもちをついていた。
急勾配な雪山のてっぺんにテレポートしていたのも驚くが、すでに滑り落ち始めていたことにも焦った。一番早くに着地していたのはフィーサで、あまりの怖さに両手剣に戻っていた。
「怖いなの~怖すぎたなの~……ひゃうぅぅ」
そしてシーニャは途中までひっついていたのだが……。どうやら途中でミルシェやルティに無理やりしがみつきながら、何とか全員無事に下りて来たらしい。
「ヘニャゥゥ……」
「大丈夫か、シーニャ?」
「寒いのは嫌なのだ……何とかして欲しいのだ」
シーニャの虎耳がすっかりへなへな状態になっている。森に棲んでいた彼女だが、雪と氷はさすがに無縁だったか。
「それならシーニャ、おれにくっつくか?」
「ウニャ!」
早速の甘やかしになるが、寒いのが得意じゃなさそうだし甘えでも無いだろう。シーニャはすぐにおれの足元にくっつき始めた。こうなると他の彼女たちの反応が気になるが。
「ガチガチガチガチガチガチ……」
何だこの音。
氷雪地方は久しぶりすぎるがこんな音は聞いたことが……。
「――む? 何だ、ミルシェ。その目は何だ?」
「ウフフッ、あたしは小娘のように弱くありませんわよ? ご心配には及びませんわ」
「あ、あぁ、だよな」
どうにも意味深な目だったな。
「それより、ドワーフ娘……ルティを暖めて差し上げては?」
「うん? ルティはどこにいる?」
「すぐ横で丸くなっていますわね」
すぐ横と言われても雪こそ降っていないが、雪の山が至る所にあって見分けがつかない。白い景色の中に赤毛がいればすぐに分かりそうなものだが。しかし直後、またしても聞き慣れない音が聞こえてくる。
「ガチガチガチガチガチガチ……ガグググググ」
さっきから聞こえていた妙な音だ。
いや、もしかしてこの音は。
「アッアアアアックククククク……さ、さままままままっま……さ、さささ寒いででででですすす」
「ルティか! お、お前……赤毛が真っ白になってるぞ」
ミルシェを見ると、「早くどうにかしては?」などと言っているように見える。
ルティの故郷は火山渓谷ロキュンテ。寒い場所に強いわけがなかった。おれが戻ろうとしている故郷がまさに寒い所にあるのだが、ルティにはさすがに酷だったか。
「ウニャ、ドワーフ娘が凍るのだ?」
「その前に何とかする。シーニャ、少しだけ離れてくれ」
氷雪地方でメイドエプロンは厳しすぎるとはいえ、ここでガチャも厳しい。おれはひとまず、ルティお望みの炎魔法を浴びせてやることに。火力をどこまで上げれば寒がらずに済むのか、そこが難しいところだが。
「バーニングシールドを発動」
炎に守らせたとして、どこまで効果が続くか。しかも範囲はあくまで、ルティから半径数メートル程度に過ぎず、動けば途端に凍りつく。
「ほっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! アック様っっ! あ、温かい……熱いですよっ!! 熱すぎて脱いで走り回りたくなりました!」
「よせ! 範囲外に出るな!!」
「ほえっ? しししししししししし、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
全く、何をやっているんだか。そんな世話焼きをしていると、何やら物騒な連中が近付いてくるのが見える。連中に真っ先に反応したのは、ミルシェとシーニャだ。ルティの相手をしていた分、気付くのが遅れたおれよりも先に対峙していた。
「貴様ら、どこから来た? この地は、氷雪地方都市ヒューノストの区域であるぞ! いかなる種族も通すわけには行かぬぞ!!」
氷雪地方都市ヒューノストか、そうなると故郷まではそんなに遠くは無いな。ここの騎士は寒さ以上に頑固な連中だから、面倒事は起こしたくないが……。
「あら、それが旅人に対するものぐさかしら? 随分と失礼な騎士もいるものですのね」
「ウゥゥ! 鎧の人間……気に入らないのだ」
もっとも、彼女たちは好戦的な種族だし、黙っているわけにはいかないだろうな。荒立てる前に理由を正直に話しておくとするか。
そうしておれが近づくと、
「むっ? 炎に包まれたドワーフ娘と男……ん? 君はイスティか?」
「――イスティというと、先の国の……」
やはり避けては通れないのか、だから来たくなかったんだが。
「アック・イスティだ。この先の国に用がある! だがとりあえず、ヒューノストで休ませてくれ」
騎士数人が困惑しながら話し合っている。おれの名を聞けば同情心で休ませてくれるはずだ。
「イスティ……ふむ、よかろう! ならば、ヒューノストで休むといい。君たちの安全を保障しよう」
「助かる!」
騎士の計らいで、おれたちは荒立てなく立ち入りを許された。何であれ、ここまで来られた。
こうなった以上、寒がりのルティを守りながら進むしか無さそうだ。