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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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まったく、とんでもないことをしでかしてくれたものだな。しかも私の予想が正しければ、ルグナツァリオはこうなると分かっていた上で私にこの程度の詐称をさせたのだと思う。

私に対して余計な手出しをさせないためでもあるのだろうが、多少の寵愛が掛かっていると分かるだけでも十分だった筈だ。

奴は私がもてはやされるのを見て楽しもうとでも言うのだろうか。


本当ならすぐにでも問い詰めたいところだが、今ここでルグナツァリオに連絡を取れば間違いなくシセラが反応してしまうだろうからな。

奴を問い詰めるのは依頼で遠出をした時にしよう。ついでにダンタラにも話に加わってもらうか。彼女ならば奴にキツイ説教をしてくれるだろう。



まぁ、あの駄龍については今は良い。それよりもシセラだ。

あれから30分ほど経っているのだが、彼女の口は止まらない。

先程から私やルグナツァリオを賛美する言葉をつらつらと述べている。彼女は敬虔な信者なのだろうな。教会に所属するのならばそれで良いのだろうが、それを私にまで求めないで欲しい。


流石のマコトも辟易としているようだな。

この娘は決して悪人では無いし、むしろ善人なのだろうが、暴走しがちな性格のようだ。今の彼女には私達のことが見えていないように見える。


体力の限界が来て先程よりも更に息を切らした状態になっている。

そこまでの状態になったところでようやくシセラが私達の表情に気付いたようだ。

マコトなどはあからさまに顔を歪ませているので、不機嫌なのは目に見えて分かるだろう。


「あっ…す、すみません…。私ったら舞い上がってしまったみたいで…。私だけが、一方的にしゃべってばかりなのは…良くないですよね…」

「おう、そんなになってる嬢ちゃんは初めて見たぜ?随分と衝撃的なことだったみてぇだな?」

「それはそうですよ…。これほどまでの御寵愛を授かっている御方なんてここ200年は現れなかったのですからっ!ノア様には是非とも教会にも足を運んでいただきたいですっ!」

「済まないけど、私は私のやりたいことを優先させてもらうよ?誰かに行動を強制されるのは好きじゃないんだ」


やはり勧誘が来たか。

正直この勧誘を受けた場合、どれほど時間を取られてしまうのか分かったものではない。

シセラ自身にはそれなりに興味はあるが、知り合ってもいない相手からあれこれと構われるのは、さぞ煩わしいことだろう。彼女の勧誘に乗るわけにはいかない。


拒否の反応を私が見せると、あからさまにシセラの表情が曇ってしまった。


「そうですか…。何か、私に不備な点があったのでしょうか…?あ、ああっ!?私ったら、ノア様のことを考えずに私だけで話をしていたわ…!?すみませんっ!すみませんっ!すみませんっ!こともあろうにノア様の御言葉を遮るような真似をしていただなんて…!」

「いや、周りを見失って淡々としゃべり続けていたのは、確かにどうかと思うけどね、元より私は教会とは深く関わるつもりが無かっただけだよ」


少し誤解をしているようなのでその点は訂正しておこう。

まぁ、確かに周りが見えなくなってひたすらにしゃべり続けてしまう点は直した方が良いだろうがな。それぐらいでは別に拒絶反応は出ないさ。


「うぅ…なんということでしょう…!ノア様が教会に対して不信感を持たれていらっしゃるということなのでしょうか…。ああ!どうしましょう!?ノア様に教会に対して良い印象をお持ちいただくにはどうすれば…!」


私が教会に対してあまりいい印象を持っていないのは確かにその通りだ。それでもシセラは何とかして私に教会に来てもらいたいようだな。

私もちゃんと理由を説明して神輿のように担ぎ上げるのではなく、個人で単純に談笑をするだけならば問題は無いのだが、間違いなくそうはならないからな。

シセラも私に教会に来てもらいたいと思うのは、教会の威を示そうという思惑が少なからずある筈だ。


「あー、嬢ちゃん?悪いが、今のところは諦めてもらうことはできねえか?ノアの不興を買っちまうと、正直洒落にならねえんだよ…」

「…どういうことでしょうか…?」


シセラに、私が教会をあまり良く思っていない理由を話そうと思ったところで、マコトが発言しだした。

彼はユージェンから何を聞いたのだろうか?

確かに、私が我を忘れてしまうぐらいまで激怒させるようなことをした場合、国を滅ぼしてしまうほどに暴れてしまうかもしれないが、私をそこまで怒らせるのは相当なことをしないと無理だぞ?

いや、本当にユージェンはマコトにどういう説明をしたんだ?ちょっと話を盛りすぎてないか?


「ノアの実力はイスティエスタのギルドマスターが判断したところ、”一等星《トップスター》”冒険者が束になってもまるで歯が立たない強さなんだとよ。ちなみに、俺も同意見だ。だからな、ノアの機嫌を損ねて怒らせたら、下手すりゃ国が滅んでもおかしくねえんだわ」

「そ、そうなのですかっ…!?」

「…マコトは何やら随分と大げさな説明をユージェンにされたようだね。言っておくけど、私をそこまで怒らせるのは、本当にどうしようもないぐらい愚かなことをしでかした時ぐらいだよ?それこそ、今思いつくのはイスティエスタで親しくなった者達を国を挙げて傷付けた、ぐらいのことでもしない限り、国を滅ぼしてしまうほど怒ることはないさ」

「いや、国を滅ぼせること自体は否定しないのかよ…」

「貴方も私の強さをそう判断したのだろう?なら、その点を取り繕っても仕方が無いさ。そんなことで一々嘘はつかないよ」


マコトが右手で目を当て、顔を下げて深いため息を吐く。

国を滅ぼせること自体は否定して欲しかったのだろうか?自分で私の力を把握したのにか?信じたくないということか。

というか、ユージェンは私のことをそんな目で見ていたのだな。

彼は随分と察する能力が高いようだし、私が人間でなくドラゴンであることも分かってしまっているのかもしれないな。

まぁ、その点は吹聴してくれなければ別にいいさ。そのうち、自分から公表するし、それまでは済まないが胸の内に留めておいてもらおう。


さて、私が国を亡ぼせる力を持っている事実だが、この事実を知っておいてもらえば、抑止力にはなるだろう。

何せ、王都と”楽園”から最も近い街の冒険者ギルドマスターのお墨付きだ。流石にその意見を聞き入れないような者などいない筈だ。

いないよな?いないでくれよ?面倒事が起きる気しかしないんだから。


っておいっ!?何故ここまでの話を聞いてシセラは目を輝かせているんだ!?

怯えるのならまだ分かるが、目を輝かせて尊敬の念を送ってくるのはどういうことなんだ!?彼女が理解できない!?誰か説明してくれ!


「なんて、凄まじい…。それは最早、現人神も同然の…ああ…!まさに!まさにこの御方こそ!この世界に現れた神の申し子…!まさしく神子様…!ああっ!?何ということでしょうっ!?そのような尊き御方から、私達は信用を得られていないだなんてっ…!」

「マコト…っ!?」

「だから俺に振らねえでくれって!俺だって嬢ちゃんがこんなんなってんのを見るのは初めてなんだよ!?俺の方が助けて欲しいわっ!?」


私はマコトに助けを求めた!しかし即答で拒否されてしまった!

気持ちは分かるが、もう少し私の助けになってくれても良いじゃないか!私に今の彼女をどうしろと言うんだ!?

シセラはどうも神と言う存在に対して人一倍敬意を払っているようだ。


まぁ、巫覡という職が神の気配を感じ取れるのならば、人間達と神との力の差も理解できておかしくないからな。それで人一倍敬うのも理解はできる。

だが、私からルグナツァリオの気配を感じはしても、私自身の力を感じたわけでは無いだろう!?

話を聞いただけでここまで反応するのはちょっとどうかと思うぞ!?


仕方が無い。マコトの目の前だからあまりやりたくは無いのだが、このままでは収拾がつきそうも無い。強硬手段を取らせてもらう!


「シセラ、落ち着こうか。私はね、そもそもあまり人間と深く関わるつもりが無いんだ。この国に来たのも、ただの旅行が目的だよ」

「あ…え…?心が…感情が…収まって…?」

「え?は?おい、アンタ今…マジか…」


やはりマコトには気付かれてしまったか。

あまりにシセラが取り乱してしまったので、尻尾で彼女に触れて魔法を用いて強制的に彼女の感情を平静の状態へと戻したのだ。

魔法を使える者は限られているというのに、このような極めて限定的な形で平然と魔法が使用できるという事実は、他にも魔法が使用できるということを教えているに等しい。

驚愕の表情をしている辺り、間違いなくマコトに胃痛の種を増やしてしまった気がしてならない。済まない。


「シセラ、貴女の周りが見えなくなってしまうところは出来れば直した方が良い。極度の興奮状態が長く続くという状態は、最悪、健康状態に関わるよ?」

「は、はい…。ど、どういうことなのでしょう…?ノア様から名前を呼んでいただいて舞い上がってしまいそうなほど嬉しいと言うのに、まったく心が弾みません。その事実がとても悲しい筈なのに、まるで涙が出て来ません…。私は、おかしくなってしまったのでしょうか…?」


感情を強制的に平静の状態に保たせているため、シセラがとても困惑してしまっている。

自分でやっておいてなんだが、これは良くないな。下手をすれば、彼女の心を壊してしまいかねない。

取り乱されても困ってしまうので、まだ魔法を解けないが、説明だけはちゃんとしておこう。


「貴女がまた取り乱してしまわないように、私がある手段を用いて貴女の感情を平静の状態に強制的に保たせているんだ。他人の感情を操ることなど、できればやりたくは無かったのだけど、今の貴女を放っておくとそれはそれで健康を害してしまいそうだったからね。貴女は別におかしくなっていないから、その点は安心して良いよ」

「そう、だったのですね…。ノア様の御力の一端を垣間見れて私の中では感激で打ち震える筈なのですが、その感動も、今は抑えられているという事なのですね…」


もう何をしても感動してしまう状態になっているじゃないか!?これ以上、私にどうしろと言うんだ!?


ええい、こうなったらとことんやってやるっ!極端な効果を発揮しているからこんなことになってしまうんだ!

程々だ!喜怒哀楽の感情を無くさずに一定以上の感情を越えないようにさせる!そういう魔術を今!ここで作るのだ!マコトが傍にいる状態ではあるが、彼が理解ある人物と信じよう!

私はこの状況をそろそろ抜け出したいんだ!


「えっ!?おいっ!?ちょっ!?マジかよっ!?」

「マコト、分かっているとは思うが、他言無用に頼むよ?」

「…頭痛薬を買っておいてマジでよかったぜ…」


済まないが今はマコトへまで気を遣う余裕が無い。

彼は確かにストレスは抱えているし、それが原因で胃痛だけでなく頭痛も感じているようだが、それでも彼には余裕がある。済まないが耐えてくれ。詫びとして多少の要望なら受けるから。


魔術が完成してシセラに施す…どうだ…!?


「ああ…!感情が…!喜びが…!悲しみも…!ちゃんと感じられます…!ノア様、これは一体…?」

「ああ。どうやら今の貴女は、私が何をしたところでその行動すべてに感動してしまう様子だったからね。感情を無理に抑制させても、それはそれで心が壊れてしまうだろうから、感情を一定以上の強さ以上に湧かない魔術を施したんだ。当然、この魔術も褒められたものでは無いだろうが、こんな方法以外、貴女を落ち着かせる方法が思いつかなかった」

「そ、その…私がいたらないばかりにお手数をおかけしました…」

「…平然とやってはいるが、本来他人の感情を操作する魔術なんてのは、それこそ超一流の魔術師ですら長い時間を掛けなけりゃ使えないし、そもそも禁呪認定されてる魔術だ。くれぐれも他人の目に映る場所で使用しないでくれよ?流石に庇いきれねえ」


なんと。褒められた手段では無いとは自覚していたが、禁呪認定までされていたとは。衝撃の事実ではあるが、マコトの目の前で使用して良かった、のか?

庇いきれない、と彼が言ってくれるということは、彼は一応私が感情を操作したことを黙っていてくれるようだ。

私も平然と人前で使用しないように気を付けよう。


とにかく、これで事態は落ち着いたと言って良いだろう。ようやく話を勧められる。長かった…。


「それでシセラ。私のことはあまり構わないでもらえると助かる。今はまだ、人に私のことを知られたいとは思っていないんだ」

「それはつまり、アンタは将来的には自分のことを包み隠さず、俺達に教えるってことで良いのか?」

「ああ。私が何者なのか、ちゃんと説明するつもりだよ。尤も、その頃には私は家で暮らしているだろうから、会いたくても簡単に会えるものではないだろうけどね。私に会えるのは、たまに人里に遊びに来た時ぐらいじゃないかな?」

「その言い方だと、とんでもない僻地か秘境にでも住んでるって言ってるように聞こえるんだが?」

「具体的に応えることはできないけれど、その通りだよ。家まで会いに来てくれるのなら、その時はちゃんともてなそう」

「分かりました。天空神様の御寵愛を授かった御方を煩わせることなど、私には到底できませんし、教会の方々にもその点はしっかりと伝えておこうと思います」

「ありがとう。大変かもしれないが、よろしく頼むよ」


体感で現時刻は午後の7時と言ったところか。シセラが落ち着いたおかげで話が随分と早く進むようになったな。

会話の内容は、私の旅の目的がほとんどだったな。マコトも私と話したいことがあったようだが、今はシセラとの会話を優先させたようだ。彼との会話は食事を取った後か、もしくは明日にするとしよう。

とは言え、もういい時間だし、そろそろ解散して夕食を取りたいのだが…。


どうやらマコトも私と同じ気持ちだったらしく、彼が話を切り出してくれた。


「今日はもう解散にしねえか?流石に俺も腹が減った」

「そ、それでしたら是非教会で食事をっ!…は駄目なんですよね…?分かりました。随分と長い時間居座ってしまったようですみませんでした。これにて失礼させていただきます。お2人とも、本日は私の我儘を聞いて下さって、誠にありがとうございました」

「ああ、外はもう暗いからね。護衛がいるとは言え、帰りは気を付けて」

「はいっ!お気遣い、ありがとうございますっ!」


そう言って、シセラが退室して行った。

護衛を含めた3人の気配が無くなったことを確認した後、思わずため息が出てしまった。


こんなにも精神的に疲れてしまったのは初めてかもしれないな。

ちなみに、マコトはシセラが退室して扉が閉まった直後に私以上に深いため息を吐いていた。


「お疲れだったな。しっかしまさか、シセラの嬢ちゃんが押しかけてくる事態になるとは思わなかったぜ。アンタが王都に来た途端にコレだとすると、月末までにどれだけの騒動が起きるか、考えたく無くなってくるぜ…」

「ただでさえストレスになることをしてしまったというのに、更にこれだからな。本当に済まない…」

「まぁ、結果的に害悪な連中を排除できたんだ。良しとするさ。とりあえず、俺の腹が減ったのは事実でね。話の続きは別の機会にしたいんだが、構わないか?俺としちゃあ、今日は美味いもんをたらふく食って風呂入ってぐっすり寝たい気分だ。明日の早朝、悪ぃがまたギルドに来て欲しい」


マコトは相当に疲れてしまったようだな。きっと、訓練場に来る前から色々と大変だったのだろう。私が言えた話では無いが、今日はゆっくりと休んで欲しい。

だが、マコトの口から気になる単語が出てきてしまったため、それを聞かずにはいられなかった。


フロ、とは何ぞや?


「私も夕食後は図書館へ向かいたかったから構わないんだけど、一つ聞かせて欲しい。フロ、と言うのは何かな?」

「あー、そっか。『清浄《ピュアリッシング》』が使えると全然必要が無くなっちまうから、知らなくても仕方がねえのか。そもそもイスティエスタにゃ、風呂屋なんて無かったしなぁ…」

「『清浄』が出て来るということは、清潔感に関係する内容なの?」


なかなかに興味深い話じゃないか!マコトには悪いが、是非詳しく話を聞かせてもらいたいな!それがイスティエスタに無かった施設だと言うのなら尚更だ!


「お、おう、ちゃんと説明するから落ち着いてくれや。まぁ、ざっくりと言うなら水浴びだよ。ただし、ただの水に浸かるんじゃなくて湯に浸かるんだ。体が温まってよく眠れるようになるんだよ」

「それは、誰でも利用できる施設なのかな?料金はどれぐらいだろうか?何時までやっているのかな?」


それは良いな!是非今晩早速利用してみたい!

そもそも私は老廃物は出ないし、目立った汚れが付着することも無かったから水浴びすら過去に数回しか経験が無いのだ!暖かい湯に浸かるという行為に興味が沸かない筈が無い!

私の感情が伝わってしまったのか、マコトがやや引き気味だが、気にはしていられないな!さぁ、早く教えてくれ!


「お、おう。興味津々かよ…。利用に関しちゃ誰にでもできるぜ?そもそも風呂屋ってのが個人で風呂に入れない一般市民用の施設だからな。だから料金は高くない。1回の入浴料は銅貨1枚だ。んでもって、夜遅くまで営業してくれてる。閉店時間は夜14時だ。図書館の閉店時間までじっくり読書をした後でも余裕で風呂に入れるぜ?」

「素晴らしい…!教えてくれてありがとう!早速今晩利用してみるよ!」

「おう。んじゃ、そろそろ俺達も解散とするか」


王都に来て本当に良かった。早速、新たに人間独自の文化を堪能できる機会が訪れようとは。

これは、ウルミラが欲しがっているような面白そうな道具も容易に見つけられるかもしれないな!


冒険者ギルドを訪れてから厄介事ばかりだったが、今日も気持ちよく寝れそうで何よりだ。


それじゃ、”白い顔の青本亭”に戻るとするか!楽しみだなぁ、フロ!

ドラ姫様が往く!!

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