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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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今夜もFORSAKENの世界は、息が詰まるほどの静寂に包まれていた。
黒雲が空を覆い、生存者たちは崩れた建物や岩陰へ身を潜める。
いつ、どこから殺人者が現れるのか。
誰にも分からない。
恐怖で早鐘を打つ鼓動。
喉の奥で張り付く悲鳴。
その絶望こそが、この世界の支配者にとって何よりのご馳走だった。
高い玉座に腰掛けたスペクターは、巨大な監視モニターを眺めながら、赤いシルクハットのつばを指先で優雅になぞる。
「いいねぇ……。」
口元がゆっくりと吊り上がる。
「恐怖も、焦燥も、希望が潰れる瞬間も……実に美味しそうだ。」
隣では、小さな紳士が背筋をぴんと伸ばして控えていた。
黒いハチワレ模様の猫の頭。
胸には黄色いリボン。
赤い服に茶色のマント。
片目には金色のモノクル(片眼鏡)。
スペクターが世界で一番可愛がっている存在。
Mowlである。
「そうだ。」
スペクターがふと思いついたように微笑む。
「今日は空から見張っておいで。」
「生存者たちをもっと怖がらせてきてほしい。」
Mowlは胸に手を当て、深々と一礼した。
「ハッ。」
「このMowl、命に代えましてもスペクター様のご期待にお応えいたします。」
「うん。」
「期待してるよ。」
そう言うとスペクターは、猫の頭をわしゃわしゃと遠慮なく撫で回す。
「ふにゃ……い、いえ、大丈夫です……!」
頭がぐらぐら揺れるほど乱暴なのに、Mowlはどこか嬉しそうだった。
「それでは、行ってまいります。」
次の瞬間。
その姿がふわりと浮き上がる。
猫頭のまま、身体が変化していく。
赤い服もマントも消え、胴体は灰色の羽毛へ。
鋭い鉤爪。
大きな翼。
完全にフクロウの身体。
ただし。
首から上だけは。
黒ハチワレ猫、そのままだった。
「……」
スペクターは満足そうに頷く。
「可愛い。」
本人も満足そうに翼を広げる。
「では、恐怖を届けてまいります。」
そのまま夜空へ飛び立っていった。
その頃。
岩陰へ隠れていた生存者たちは、空を見上げていた。
「……何か飛んでる。」
一人が震える声で呟く。
月明かりを背に、大きな翼がゆっくりと近付いてくる。
「新しい化け物か……?」
「スペクターの切り札かもしれないぞ。」
全員が武器を握る。
汗が頬を伝う。
巨大な鷲か。
悪魔か。
あるいは未知の怪物か。
やがてその影が、月光の中へ滑り込んだ。
そして。
全員の思考が止まった。
「…………。」
そこにいたのは。
フクロウの身体。
そして。
猫の頭。
しかもハチワレ。
モノクル付き。
「…………。」
誰も声を出せない。
静寂だけが流れる。
やがて一人が小さく呟いた。
「……猫?」
別の誰かが続ける。
「いや……フクロウ?」
さらに別の誰か。
「……猫フクロウ?」
理解が追いつかない。
恐怖どころではない。
脳が現実を拒絶していた。
そんな空気など気にも留めず、Mowlは優雅に着地する。
羽を軽く整え、咳払いを一つ。
「コホン。」
渋い低音が響く。
「皆様、夜分遅くに失礼いたします。」
「わたくし、スペクター様が忠実なる僕、Mowlと申します。」
「以後、お見知りおきを。」
「しゃべったぁぁぁぁ!!」
「しかも声が渋い!!」
「その見た目でそのダンディボイス!?」
大混乱である。
Mowlは眉をひそめる。
「失礼ですね。」
猫耳をぴくりと動かす。
そして。
フクロウの身体を活かし。
首だけが。
ぐるり。
百八十度。
「ギギギ……」
嫌な骨の音が響く。
猫の顔だけが、真後ろを向く。
「うわぁぁぁ!!」
「可愛いのに動きがホラー!!」
「感情が追いつかない!!」
「怖いのか可愛いのかどっちなんだ!!」
Mowlは深いため息をついた。
「皆様。」
「本来ならここで恐怖に震え、『助けてくれ』と叫ぶ場面なのですが。」
「どうして撫でるかどうかで議論しているのです?」
実際。
生存者たちは別のことで盛り上がっていた。
「あれ絶対モフモフだよな。」
「でも爪はフクロウだから危険だ。」
「顔だけなら抱っこしたい。」
「噛まれたい。」
「いや意味分からん。」
Mowlの猫耳がぴくぴく震える。
「……下等生物とは、本当に理解し難い。」
不機嫌そうに喉を鳴らす。
「グルルル……」
その音だけ妙に猫らしかった。
もう一度首をぐるんと回して正面へ戻る。
しかし。
誰一人悲鳴を上げない。
「可愛い。」
「写真撮りたい。」
「飼いたい。」
「……。」
Mowlは静かに空を見上げた。
「……帰りましょう。」
一方その頃。
玉座の間ではスペクターが監視映像を眺めていた。
「ん?」
集まってくる感情を味わう。
恐怖。
絶望。
苦痛。
そのはずだった。
だが今日流れ込んできたのは。
困惑。
癒やし。
少しの笑い。
そして。
「可愛い。」
「……おかしいな。」
スペクターは首をかしげた。
「苦しみの味がしない。」
「今日は……。」
目を閉じ、ゆっくり分析する。
「薄い抹茶パフェみたいな味がする。」
画面の中では。
必死に怖がらせようとして首をぐるぐる回すMowl。
そのたびに。
「可愛い!」
「もう一回!」
と歓声を上げる生存者たち。
しばらく眺めたあと。
スペクターは小さく笑った。
「まあ。」
赤いシルクハットをかぶり直す。
「可愛いから、いっか。」
その一言だけで。
Mowlの空中見張り任務は、今日も大成功なのか失敗なのか、誰にも分からないまま幕を閉じた。