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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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FORSAKENの支配者、スペクター。
数え切れない命を弄び、絶望を糧として生きる神。
そんな彼にも、誰にも触れてほしくない大切なものが一つだけあった。
それが。
鮮やかな赤いシルクハットである。
他人から見れば、ただの帽子。
しかしスペクターにとっては違う。
威厳。
美学。
誇り。
そして、自分という存在そのものを象徴する宝物だった。
だからこそ。
神殿中の使用人は知っている。
「あの帽子だけは絶対に傷付けるな。」
それはFORSAKEN最大の禁忌だった。
その日。
神殿の廊下では、ホスフォラスがいつものように陽気な足取りで歩いていた。
大きな尻尾を左右にぶんぶん振りながら、書類を抱えて鼻歌まで歌っている。
「スペクター様〜!」
「今日の絶望エネルギーの収穫量なんですけどぉ……」
くるり。
元気よく振り返った、その瞬間だった。
ぶおんっ。
巨大な尻尾が豪快に空を切る。
そして。
廊下の壁に大切そうに飾られていた赤いシルクハットへ。
吸い込まれるように。
直撃した。
ぼこん。
嫌な音が神殿中へ響き渡る。
時間が止まった。
ゆっくりと床へ落ちる帽子。
かつて美しい円筒を描いていたそれは。
まるで踏み潰された空き缶のように、無惨な姿へ変わり果てていた。
「…………。」
ホスフォラスの笑顔が消える。
「……あ。」
顔色が真っ青になる。
近くにいたノスフェラトゥは帽子を見るなり口元を押さえた。
「終わった……。」
その一言だけ残し、壁にもたれかかる。
アズールはというと。
背中から四本の触手を一斉に伸ばし、
ぶんぶんぶんぶん。
猛烈な勢いで横に振り始めた。
「違います。」
「僕じゃないです。」
「本当に僕じゃありません。」
誰にも聞かれていないのに全力で無実を主張している。
そして。
廊下の奥から。
コツ。
コツ。
コツ。
ゆっくりと靴音が近付いてきた。
全員の背筋が凍る。
現れたのは。
赤いスーツを身にまとい、優雅な笑みを浮かべたスペクターだった。
笑っている。
確かに笑っている。
だが。
目だけが。
完全に死んでいた。
「へぇ。」
静かな声だった。
「僕の帽子。」
床のぺちゃんこになったシルクハットを見る。
「立体感が消えたね。」
その瞬間。
神殿全体が震えた。
空間にひびが走る。
壁が軋む。
窓ガラスが細かく震え始める。
スペクターは穏やかに微笑んだまま続けた。
「人の大切なものを壊す。」
「それがどれほど悪いことか。」
「僕はちゃんと理解しているよ。」
にこり。
「だから。」
「ホスフォラスの尻尾を切って帽子に縫い直そう。」
「ついでに世界ごと壊して作り直せば。」
少し考える。
「うん。」
「完璧な解決だ。」
「いや全然完璧じゃないですぅぅぅ!!」
ホスフォラスは泣きながら土下座した。
「ごめんなさいごめんなさい!」
「世界は巻き込まないでくださいぃぃ!!」
ノスフェラトゥは小声で呟く。
「もう遺書を書く時間もないな……。」
アズールは触手で頭を抱えた。
「終末だ……。」
世界の終わりが。
静かに始まろうとしていた。
その時だった。
「スペクター様。」
落ち着いた低い声が響く。
「どうか、お心を穏やかに。」
全員が振り返る。
そこには。
黒ハチワレ猫の頭。
黄色いリボン。
赤い服。
茶色いマント。
片目に光るモノクル。
紳士そのものの佇まい。
Mowlが立っていた。
彼は潰れた帽子を両手で丁寧に拾い上げる。
まるで壊れ物を扱うような優しい手つきだった。
「ご安心ください。」
「このような事態も想定し。」
「スチームアイロン技術を極めております。」
「……そこ極める必要あった?」
ホスフォラスが思わず突っ込む。
しかしMowlは聞こえていない。
小型のスチームアイロンを取り出す。
ぷしゅううう……
白い湯気が立ち昇る。
猫の肉球とは思えないほど器用な手で。
布を伸ばし。
縁を整え。
円筒をゆっくり立ち上げていく。
誰も声を出さない。
神殿には蒸気の音だけが響いていた。
数十秒後。
Mowlは帽子を両手で掲げた。
「完成でございます。」
そこにあったのは。
以前よりも美しく。
艶やかで。
完璧な赤いシルクハットだった。
スペクターは帽子を受け取る。
そっと頭へ乗せる。
ぴたり。
吸い付くような感覚。
鏡を見る。
数秒後。
ぱぁぁぁっと表情が輝いた。
「すごい!!」
子どものような笑顔だった。
「新品よりかっこいい!!」
さっきまで世界を滅ぼそうとしていた神とは思えない。
神殿を覆っていた終末の気配が、一瞬で消えていく。
スペクターは嬉しそうにMowlを抱き上げた。
「さすが僕の可愛いMowl!」
「最高だ!」
「今日は特別に!」
「最高級金箔付き極上ササミ!」
「特製マタタビソース添え!」
「全部あげる!」
Mowlの耳がぴくんと立つ。
瞳孔が一気に開いた。
「……はっ。」
「身に余る光栄でございます……!」
だが。
次の瞬間。
ぐわしゃああああっ!
スペクターが全力で頭を撫で回し始めた。
「えっ。」
「スペクター様。」
「少々。」
「力が。」
「強……。」
みしっ。
首から嫌な音がした。
「ふにゃああああ……。」
目をぐるぐる回しながらも。
Mowlは最後まで紳士らしく姿勢を崩さない。
頭の中は。
「ササミ……。」
「金箔……。」
「マタタビソース……。」
そのことでいっぱいだった。
一方。
命拾いしたホスフォラスたちは床にへたり込む。
「……助かった。」
ノスフェラトゥは胸を押さえながら息を吐く。
「Mowlがいなかったら、今頃この世界は存在していなかった。」
アズールも何度も頷く。
「実はFORSAKENを支えてるのって。」
「スペクター様じゃなくてMowlなんじゃない?」
ホスフォラスは真顔になった。
「今日からMowl様って呼ぼう。」
誰一人反対しなかった。
こうして今日も。
FORSAKENの平和と。
神殿の安全と。
世界そのものは。
一匹の猫頭の紳士と、一つの赤いシルクハットによって、静かに守られたのだった。
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