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カフェを出て、公園のベンチに並んで座った。さっきまで喋っていたのに、急に沈黙が落ちる。
でも、不思議と居心地は悪くなかった。
むしろ、静けさの中に安心があった。
『風、気持ちええなあ』
誠也が空を見上げながら言った。
その横顔はどこか寂しげで、それがまた、胸に刺さる。
『なあ……』
「ん?」
『今、俺が手ぇ繋いだら……イヤ?』
驚いて顔を向けると、誠也はまっすぐこっちを見ていた。
ふざけた感じじゃない。
本気の目だった。
「イヤじゃない……かも」
そっと手を差し出すと、彼の手が優しく重なった。
その瞬間、胸がぎゅっとなって、呼吸が少しだけ乱れる。
温かくて、大きくて。
握られた手のひらから、心まで包まれるようだった。
『手、ちっちゃいな。落としたらあかんって思うわ。』
「……落ちないよ。ちゃんと、掴んでるから」
どちらからともなく微笑んで、目が合った。
その瞬間……
ふと、頭の奥がチリッと痛んだ。
「っ……」
『大丈夫? どっか痛む?』
「……ううん、ちょっと頭がズキッとしただけ……なんでもないよ」
『無理せんといてな。しんどなったら、すぐ言うて。』
心配そうにのぞき込む誠也の顔が、なぜか一瞬ぼやけて見えた。
その視線に、既視感……いや、温度だけは確かに知ってる気がした。
『……もしかして、なんか思い出しかけたんか?』
「……わからない。でも、嫌な感じじゃなかった。」
『それなら、よかった。』
彼はもう一度、私の手をきゅっと握り直した。
このぬくもりを、もう少しだけ感じていたい。
そう思った瞬間、私はそっと彼の肩に寄りかかっていた。
誠也くんは驚いた様子を見せたけど、すぐにその肩を受け入れてくれた。
『……このまま時間止まったらええのにな』
その言葉は、風よりも静かに、心にしみ込んだ。