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◻︎とも君のお母さん



「こっちだよ、じいじもばあばも怖くないよ」


翔太がとも君と呼ぶその友達は、下を向いたまま手を引かれてやってきた。


「おっきなテーブルでしょ?好きなとこ座って…あ、先に手をあらうんだよ、こっち」

「……」

「こんばんは、とも君、でいいのかな?翔太のお友だちだよね?」


とも君は、椅子に腰掛けながら、ぺこりと頭を下げるだけだ。


「こんばんは、俺は翔太のおじいちゃんの、進だよ。よろしくね」

「……」

「とも君、こんばんはって言ってみて。ご挨拶は大事だよ、ほら、こんばんは!」


何も喋らないとも君に、挨拶をするように言ってみた。


「こん、ばんは…」

「ほら、できるじゃない!ね、お腹空いてるの?」

「お腹、ペコだよね?さっき、2人ともお腹がなったんだよ、グーッて。あ、そうだこれ!」


そう言って翔太がテーブルに置いたのは500円玉とお弁当箱だ。

娘と孫とはいえ、きちんとお代はいただく。


「ほい、毎度ありがとうございます。お弁当箱は預かるね」

「あ、あの、これ、あの…」


慌ててとも君もポケットから千円札を出した。


「これは?」

「今日のお弁当代で、お母さんにもらってきました」

「ん?」

「あのね、ばあば、とも君のお母さんはいつも帰りが遅いから、コンビニのお弁当が晩ご飯なんだよ。でもねー、もう飽きたってとも君が言ってて。だから、じいじのご飯を食べてもらおうかなって思ったんだ」

「あらあら、そうなの?お母さん、いつも遅いの?」


こくりとうなづく、とも君。


「そっか、じゃあ1人で食べるのはつまらないから、いいよ、ここで食べて。ご飯のお金はとも君だけなら200円だよ。あとでもらうね」


進君は、ご飯の準備を始めていた。


「今日はお魚?」

「そうよ、アジフライ」

「とも君、アジフライだって!」


少し顔を曇らせたのは、とも君。

魚が苦手なのかもしれない。

トレイに乗せたご飯が2つ並べられた。


「ほら、召し上がれ!揚げたては美味しいんだから」

「いただきまーす」

「いただきます」


アジフライには、ソースではなくてタルタルソースをかけた。


「あちっ!うんまっ!じいじ、これ美味しいよ、あちっ!」


翔太はハフハフと頬張る。

お箸で恐る恐るアジフライを食べる、とも君。

小さな一口だ。


「あ、美味しい!このマヨネーズも美味しい」

「それは、タルタルソースっていうんだよ、マヨネーズでできてるから間違ってないけどさ」

「これは?」

「それは、えっと、干したしいたけ、だよね?じいじ」

「そうだよ」


干し椎茸も恐々口に入れている。


「初めて食べた、これ、美味しい」

「そうか、それはよかった。ご飯のおかわりあるからな、食べてけよ」

「はい!」


ガツガツ食べる翔太につられたのか、とも君も元気に食べ始めた。



「こんばんは」

「はい、こんばんは。空いてる席に座って待っててね」


少し上級生の子たちも、ちらほらとやってくる。


ぴこん🎶

『いまから行くね』


と綾菜からLINEがきた。

時計を見たら7時になろうとしていた。

晩ご飯を食べた翔太ととも君は、テーブルの端っこでカードゲームをしていた。


「とも君、お母さんには、ここに来てること言ってある?」

「LINEしてあります」

「すごい、LINEができるんだ。ならよかった」


「こんばんは、翔太、待たせたねって、あら?とも君も来てたの?」

「翔太が、連れてきたの」

「そうか、でも、遅いからもう送っていかないとね」

「私が送るよ、家を教えて」

「じゃあ、お母さんにお願いしちゃお」


そう言うと綾菜は簡単な地図を書いてくれた。

あとは本人に聞けばいいし。


「じゃあ、帰ろうか、とも君。おばちゃんが送るからね。近くなったら、おうちを教えてね」

「…はい」


とも君の家はうちから、車だと10分くらいだった。


「あの、茶色い屋根の白い壁の家です」

「あれね、わかった」


門のすぐ前に車をとめようとしたら、先に黒い車がとまっていた。

少し手前で、待っているとその車の助手席から女の人が降りてきて、運転席の窓にまわるのが見えた。


「あれ、お母さんかな?」

「たぶん…そう」


長い髪をカールして少し高い位置で束ねて、服装はピンク色のスーツに白いハイヒールだ。


「えっ!」


思わず声が出た。

運転席から顔を出した男の首筋を両手でつかまえて、濃厚な口づけをするのが見えた。

思わず助手席のとも君を見ると、横を向いている。

これは、ヤバいところに出くわしてしまったと思った。

あの男はどう見ても、お父さんじゃない。


プッ!と小さくクラクションを鳴らして車は走り去り、とも君のお母さんらしき人が門を開けて入って行くのが見えた。


シートベルトをはずす音がして、助手席からとも君が降りていた。


「ちょっと、とも君?」


声をかけたけど、こちらは振り向かず、今お母さんが入った玄関へ走っていく。

今のあの情景はどう見ても…不倫だ。


どうしようかと考えたけど、とも君が無事に玄関に入るのが見えたから、帰ることにした。




ひまわり食堂という我が家に帰りついて、進君に報告する。


「あのね、とも君のお母さん、魔女で不倫してた…」

「え?」

「バッチリなタイミングで、とも君、見ちゃったよ、どうしよう?」

「仕事で遅くなったんじゃないのか?」

「仕事かもしれないけど、あれは…」


さっきの濃厚なキスを思い出す。

夜とはいっても、街灯もあって顔も何をしてるかも見えてしまう場所であんなことするなんで。


「どうなってるんだ?魔女の家は…。不倫するために子どもにはコンビニ弁当だなんて」

「あんなの見ちゃって、とも君大丈夫かな?」


よその家庭のことでも、一度かかわってしまうと気になってしまう。

私の中の、よけいなおせっかい虫が出ませんようにと祈った。

離婚します 第三部

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