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◻︎香織の話⑴



_____ここからは、木崎香織の視点です。






「お母さん、ただいま!」

「おかえり、智之、1人で帰ってきたの?」

「ううん、翔太くんのおばあちゃんに送ってもらったよ」

「あら、よかったわね。宿題は?」

「あとでやる、あ、そうだ、これ」


私に差し出した智之の手のひらには、100円玉が3枚と500円玉が1枚あった。


「お弁当のおつりなの?200円だけ?」

「ひまわり食堂のご飯食べたから、200円だって」

「え?ひまわり食堂は子ども食堂でしょ?智之も食べたの?」

「うん、翔太くんのおじいちゃんが、特別にいいよって言ってくれた」


___ハッとする、いけない!うちの子がそんなところでご飯を食べたら、私の印象が悪くなってしまう。


「ね、智之、もうひまわり食堂でご飯食べるのは、やめてね」

「どうして?おいしかったよ、アジフライ」

「は?アジフライ?そんなものよりコンビニの冷凍パスタやグラタンの方が美味しいに決まってるじゃない!!」


___アジフライなんて、ダサいもの、うちの子には似合わないのに。


「…おいしかったよ、なんでダメなの?」


___ここは落ち着いて説明しないと。


「あのね、智之、お母さんは綺麗でステキな女の人でいたいの、わかる?智之だって、綺麗なお母さんの方がいいでしょ?」

「…うん、お母さんはいつもきれいだよ」

「それにね、ひまわり食堂はお父さんかお母さんがいない子どもたちのための食堂なの。だからね、両方いる智之は、行ったらいけないとこなのよ、わかる?」

「ダメなの?」

「そうよ、智之には、お父さんもお母さんもいるでしょ?」


「………いつ?お父さんは、いつ帰ってくるの?」

「そ、それは、いまの仕事が落ち着いたら帰ってくるわよ、仕方ないでしょ?単身赴任なんだから。とにかく、もうひまわり食堂に行くのは禁止だからね、約束して」


私は強引に智之の手を取り、指切りをした。


「あれ?これ、どうしたの?」


智之の右手の甲にすり傷を見つけた、もうカサブタになってるけど。


「なんでもない、転んじゃっただけだよ」

「そうなの?気をつけてね、顔は怪我しないでよ。はい、約束ね。じゃあお風呂入ちゃって!」


智之は、お風呂に入った。


「お母さん、お湯がないよ」

「あ、ごめん、忘れてた」


慌てて、お湯を張る。


___はぁ、疲れた…


ストッキングを脱ぎ、アクセサリーを外す。

洗面所の鏡に映る自分の顔を見てゾッとした。


___いやだ、美魔女の美が取れて、ただの魔女になってる!!


部屋もとっちらかっていて、見せれたもんじゃない。

リビングに脱ぎ散らかした洋服をまとめて、クローゼットに詰め込んだ。

ふと、テーブルに置いてあったプリントが目に入る。


[家庭訪問のご案内]と書かれていた。

できるなら、家族がみんな揃っている方が望ましいと。


___家族みんなか…帰ってくるかわからないけど、とりあえず連絡だけしとくかな…


私は、めったにしない夫、修二《あてに、LINEをしておいた。


ぴこん🎶

《家庭訪問の日程がわかったら、連絡してくれ》

〈わかりました。くれぐれも、あなたは単身赴任なんですからね〉

《わかってる》


スマホを閉じた。


___さぁ、メイクを落としてお風呂に入らないと。


寝不足はモロに顔に出る。


「お母さん…」

「ん?なぁに?」

「今日は、一緒に寝てもいい?」

「あー、ごめんね、お母さん疲れちゃったから、1人で寝てくれる?」

「そっか、わかった…」

「おやすみ、ちゃんと毛布かけるのよ」


小学生になったばかりの頃に、自分の部屋ができたとよろこんで1人で寝ていたのに、最近になって一緒に寝たがるのはなんでだろ?


___パックもしたいし、ストレッチもしなきゃいけないから、お母さんはまだ寝れないのよ。今日は久しぶりの雑誌の撮影で疲れたし。


雑誌といっても、フリーペーパーやタウン誌がほとんどだけど、モデルの仕事は私の生き甲斐になっている。

一年半ほど前、とある雑誌の美魔女コンテストに参加して、3位になった。

といっても地区予選の3位だから、本選には参加もしていないんだけど。

それでも、[美魔女コンテスト入賞]の肩書きは一人歩きして、まるで本選での3位入賞のような噂になってしまった。


幼稚園のママ友にその話が広まったら、一気に拡散されてしまい、いまさら地区予選の、とは言えなくなってしまい、うやむやなまま現在にいたる。


元々は、愛人の元へ行ってしまった夫を取り戻したくて美魔女を目指したんだけど。

実際に入賞してちょくちょくモデルの話が来るようになったら、夫との距離はさらに離れてしまった。


生活費もちゃんと入ってくるし、夫のための家事はなにもしなくていいから、ラクだと思っていたけど、違った。


『香織さん、今度はぜひ、旦那様とお子様と仲睦まじいお写真を撮らせてください』


そんな注文がくるのだ。

憧れられる美魔女であるためには、家族も仲良しでいい家庭でないといけない、らしい。


___なんで、私だけじゃダメなのよ!


プシュッと缶コーラのプルトップを開けた。


___あ、ネイルが剥がれた


いつ、予約しようかとカレンダーを見る。


ぴこん🎶


スマホがLINEを知らせた。


《今日はお疲れ様。愛してるよ、香織❤️》


出版社社員の寺内聡。

モデルの仕事のときは、この男が色々と手配をしてくれる。

そして、いつからかカラダのほうも手配(?)してくれて。


夫には相手にされなくなった私でも、女として求めてくれる男《聡》は、私が生きていくための力になっている。


「お疲れ様。またよろしくね。愛してるわ❤️」


と返しておいた。

このやり取りの[愛してる]には、特別な意味はなく、おやすみの代わりなんだとわかっているけれど。





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