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***

暗い。

夜の9時になろうかという時刻。

アメリカさんの計らいでいつもより早い時間に退社させて貰ったものの、辺りに人は全くない。遠くの方にコンビニの灯りが微かに見える。

家に帰るには必ずここを通らなければならないので仕方がないことだが、正直言って恐い。鞄の持ち手を強く握り締めてこの暗い道からとっとと抜けてしまおうと思った時。

かつ、と小さな音がした。

🇯🇵「……っ!」

どくりと心臓が跳ねた。革靴が地面を踏みしめる音。自分鳴らしたものでは無い。背後から聞こえた。

🇯🇵「……、!」

私は小走りに逃げた。

それに追いつこうとするように足音は早まってくる。矢張り連日感じていた人の視線や気配は気の所為ではなかったのだ。

恐い。恐い恐い恐い恐い恐い。

恐怖から逃れようと、咄嗟に細い路地へと逃げ込んだ。

🇯🇵「……はぁ、はぁ…」

息切れが激しい。

この息苦しさはただ走ったからだけでは無いはずだ。呼吸を落ち着かせ、震える手で携帯電話を取り出す。ただ安心したかった。

この恐怖からどうにかして逃げ切りたかった。

着信の呼出音がやけに長く感じる。

音が止む。

🇺🇸『日本?どうした』

🇯🇵「…、っはぁ…はぁ…よかっ…た」

🇺🇸『…何があった』

電話越しで声が聞こえる。安心できる人の声。でも心做しかその声は少しの不安と緊張を孕んでいた。ぐるぐると回る思考のまま、今しがたあったことを彼に話す。

🇺🇸『今何処に』

革靴の音。

🇯🇵「っひ…!」

🇺🇸『おい…?!』

きた。

体が硬直して動けない。その緊張をひろうように呼吸も浅くなる。

🇺🇸『日本?!返事しろ!!』

🇯🇵「…ぁ……、」

路地の入口に人影が見えた。暗くて姿はよく見えない。一歩ずつ、人影は距離を詰めてくる。

声が出ない。

助けての4文字が出ない。

指先すら動かせない。

唯一言うことを聞く視線が、逃げ道を探すように暗闇に沈む細い路地の奥を見た。あるのは建物の壁。

ああ、ここは袋小路だったのか。これじゃまるで───

人影が私の首元に何かを当てた。

硬い感触が伝わってくる。脳が危険信号を掻き鳴らす。

バチッ

視界の端で光が弾けた。

🇯🇵「ッあぁあああ゛ぁ?!」

全身の神経に鋭い痛みが広がる。視界が、暗く沈んでいく。

***

携帯電話が地面に落ちた衝撃で割れる。液晶画面が暗くなり、通話も途切れた。

───こんな時にも頼るのは彼なんですね。

ひび割れた液晶画面を見つめて顔を顰める。その画面を、私は片足で踏みつけた。ぱき、と情けない音がして、携帯電話はただの鉄くずに成り下がる。

🇬🇧「ふふ、駄目じゃないですか。こんな袋小路に逃げ込んじゃ」

ぐったりと力なく倒れる彼を見て、口角が上がるのが止められない。自分のものなのだ。もう誰にも渡さない。私だけの。

ずっと欲しかったものが手に入る感覚は子供の時のそれと変わらない。

もっとも幼い頃の無邪気な代物ではないのだが。

🇬🇧「愛していますよ。これまでも。これからもずっと」

そう言って彼の頬にキスを落とした。

***

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