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inm視点

また、まただ。今日も始まったこの悪夢は、ありえないほどに暗く、そして落ち着いている。何もない場所にぽつんと立たされ、何もない場所をただ動く。

「ほんとに何もないんだよなあ」

あたりを見渡し、小声で呟く。ホラゲーをやっていたからか、それとも最近こんな夢をずっと見ていたからか、おれはこの場所に耐性がついていた。

「誰かいないの?」

さっきよりも少しだけ大きな声を出してみる。しかし、返事は来るはずもなく。少しだけ前に進んでみると、なんとなく、なんとなくだけど、白い何かが見えた気がした。その瞬間、誰かがいると確信する。

「気のせい…じゃないよね?」

何かがある方へ向かう。もう見えないけれど、絶対そこに何かがあったはずだから。

「何してんの?」

不意に声を掛けられ、おれは身構えながら振り向く。

「そんなに警戒せんでええやん!ひどいなあ」

「…なんだ、カゲツか」

「なんか文句あるんか?」

「いやいや、そんなこと」

カゲツと分かって安心した気持ちと、なんでここにカゲツがいるのか疑問に思う気持ちが混在していた。その疑問を口に出そうとしたが、それをカゲツが止めるように話し始めた。

「ねね、見ててよ」

一瞬、カゲツにスポットライトが当たったように感じた。ただ、それはほんの一瞬。彼はおれをクナイで割いた。

「は?カゲツ?」

刹那、おれ朽ち果てる。意味が分からなかった。おれが見たのは、自分から飛び出た大量の血。何よりカゲツがおれを殺す画が、頭にこびりついている。

「カゲ、ツ?」




ヒーローデバイスが振動して目が覚める。最悪の目覚め。今の夢、なんだったんだろう。

「おはよ伊波」

「お、はよう」

「汗だくやな」

「いやあ?なんてことないけどね」

「誤魔化すの下手か、もっと嘘つくならしっかりついてや」

「あはは、ごめん」

「で?怖い夢でもみちゃったんか?」

「う、うん」

「例えば……こんな夢とか?」

懐からクナイを取り出し、こちらに突き出してくるカゲツ。やめて、やめて。

「ウソ、でしょ」

「冗談な訳ないじゃん」

にやりと笑うカゲツは、不気味という一言では表せないほど怖かった。さっき見た夢、正夢なの?

「おれ、カゲツの恨みかったっけ?」

「さあ?しらない」

「やめてよ」

クナイが喉元までやってくる。死を覚悟した。





「いなみ、いなみ?」

「……え?」

「うなされてたで。怖い夢でも見た?」

また、まただよ。この流れ。おれ、今どっち生きてるの?ここは夢?

「うん」

「まだまだおこちゃまでちゅね〜伊波くん」

「はぁ?怖い夢くらい見るだろ!!!」

「はい、声戻った。よかった」

「……え?」

「君、ずっと声震えとったんよ?気づいとらんかったん?」

全然気づかなかった。夢の中でカゲツから刺されたんだから、それがずっと脳裏にこびりついているのだから、現実でカゲツと話すとなると少し怯えてしまう。まあ、これが現実かどうかも分からないんだけど。もっとポジティブな夢なら、現実も楽しいんだろうなあ。

「で、どんな夢だったん?」

「それは」

―緊急事態発生。ヒーローは直ちに出動せよ―

「……要請きちゃった」

「いなみそ、全然寝れてなくない?大丈夫?」

「うん、寝不足ではないから」

「ほーん、無理せんようにね」

「もちろん、するわけない」

「じゃあ行くか」

「おす」

悪夢を見ただけで、眠くはない。それは本当のことだったけれど、いつカゲツが振り向いて襲ってくるかわからない。おれは夢の中特有の、変な文字だったり途中で人が変わってたりする変化を見逃さないよう、しっかり周りを見渡した。



「よ!ライ」

「おはよう」

「なんか元気ない?」

「そう?元気よ?」

「そ。ならいいけど」

急にビルを破壊し始めた敵は早く止めないともっと暴れそうで、揃ったヒーロー全員で止めにかかる。急がないと。

「つ、つよいなぁこの敵」

「遠距離も短距離も効くけど単純にHPが多いタイプやな」

「めんどい〜〜〜」

その瞬間、カゲツが敵に投げたクナイが跳ね返ってこちらに向いてくる。まずい。やめて。クナイ、むりだ。

「………っ」

声も出なかった。こちらに向いている刃が、あまりにも鋭かったから。狂気に染まっていたから。

「ライ…?」

そのまま顔を掠めるクナイ。ああ、そうか。これは夢。きっとそうだ。また夢から覚めて、今度こそ楽しい現実を過ごすんだ。





目が覚めたら、病床にいた。やっぱりそうだ。夢だったんだ。

「!!!!!」

「……?」

「起きた!!起きたんか?」

「おはよう、今度こそ、現実?」

「何いってんの。君3日くらい寝てたよ」

「は?」

「は?はこっちの台詞。避けきれなかったの事情があるでしょ」

「ま、まって。何の話?」

「僕のクナイ。覚えてないの?」

「あ、れ」

夢じゃないの、か。おれは。カゲツのクナイを避けられなかったのは、現実だったのか?

「これは夢?」

「さっきから何ぃ?こわいんやけど」

そう言っておれの頬をつねるカゲツ。

「いててて」

「はい、これで夢じゃないな」

「夢じゃない。うん」

「で、僕のクナイ、そんな苦手やった?先端恐怖症とか?クナイ使わんでもいいし作戦変えてもいい」

「ちがくて。色々あったんだけど」

「全部教えてくれるまで帰らんからな」

「え〜〜〜〜??」

「なんや!文句言うな!!このカゲツ様が話を聞いてやると言っているのだ!!」

「しょうがないなあ……」

今まであった夢を全て語り尽くす。ごめんカゲツ、迷惑かけちゃって。

「ストレスやろ。はよ寝え」

「え?」

「だーかーら、ストレス。色々溜まってるんちがう?」

「…かも」

思いの外すんなりと受け入れてくれたことに目を見開く。カゲツを悪者みたいに扱っちゃったのに、彼はケロッとしている。

「あぁでも、寝たらその悪夢になるんやっけ」

「それもあってちょっと寝たくない……」

「子どもか!!一旦寝なさい」

「だってえ……」

「じゃあなんか合言葉決めようや」

「え?」

「夢の中の僕が知らない合言葉。例えば、指切りとか」

「それっ合言葉じゃないよ」

思わず笑ってしまったが、カゲツの案は悪くない。

「じゃあもしわかんなくなったら小指差し出すね」

「それで僕が指切りげんまんすればええ」

「そう。してくれなかったらそれは夢」

「めっちゃわかりやすいやん!!僕天才か?」

「はいはい天才。ありがとう」

「あーーーでた、その面倒くさい対応してます〜て感じの態度」

「そんなことないけどね?」

「そんなことあります。はよ寝え」

「はーい、おやすみ」

「おやすみ」

その日の夢は思い出せないけれど、すごくすごく楽しくて朗らかな夢だった。

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