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「岡本くんも有栖川さんが見えるんだね。」
「は?」
訳が分からず、俺の頭はクエスチョンマークだらけだ。
「有栖川さんって?行方不明の?」
「うん」
「俺が?なんで??」
「だってさっき、窓を見ていたじゃないか」
「国語の時?」
「うん」
勘違いだ。俺は有栖川さんなんて見ていない。
「見てない、知らない。」
「え、そうなの?」
「第一、なんで行方不明の有栖川さんをここで見るんだよ」
「それは、秘密」
なんだこいつ。気味が悪い。
「俺、図書室行くから、時間奪うなよ」
その時、休み時間の終わりを告げるチャイムがなった。今日は一日最悪な日だ。
帰りの会が終わり、大水くんは俺に駆け寄ってきた。
「今日放課後、教室で待ってて」
「え」
今日は早く帰りたいのだが。めんどくさい頼み事だ。なるべく早く終わりたい。
30分くらいたっただろうか、まさか大水くんの方が来ないとは。一体何が目的なのか。帰ろうとした時、
「岡本くん」
やっときやがった。
「ごめんね、ちょっと保健室行ってて」
保健室?怪我でもしたのか?気になったけどワザと聞かなかった。
「ふーん。で、なに?なんの用があるの?」
「あれ見て」
窓の外のブランコを指さす細く、長い、白い手の先を見つめる。横目でこちらを見つめる大水くん。
やっぱり不気味だった。
「なに?なにかあるの?」
俺には何も見えなかった。ただ、風に吹かれる葉っぱしか。
「ほんとに、見えないんだ有栖川さん。」
ガッカリしたように、下を向いた大水くん。勝手に期待されただけなのに、期待を裏切ったみたいで嫌だった。
「あそこに有栖川さんがいるのか?」
「まぁね。」
「なんで俺には見えない?」
「それは君に特別な力がないからさ」
「特別な力?」
「君は自分がいかに特別な人間か勘違いしているよ、幽霊も見れないのに」
「幽霊?なんの関係が…」
僕の言葉はそこで終わった。気づいてしまった。有栖川さんのこと。有栖川さんがどうしているか。
「気づいたようだね。そう、岡本くんが思っているように、有栖川さんは殺されたのさ。」
「どうして?」
「知りたいの?」
「あぁ」
「じゃあ特別だよ。でもその変わり、代償は払ってもらうけど」
「代償?」
「そうさ。」
「お金なんてないし、大事なものは俺の部屋の押し入れに入っててここにはないけど…」
「そんなお金や、大切なものなんて要求しないさ」
「じゃあ何が欲しいの?」
「君の”初めて”が欲しい」
「初めて?」
「そう」
「なんの初めて?」
「うん、手を繋いだり接吻やペッティング、性交渉さ」
「…?難しい言葉だな…」
「ふふ…そのままの知識でいいよ」
大水くんは小さく微笑んだ。俺には分からない言葉を口から出す大水くんは少し大人に見えた。
「それで、俺は何をすればいい?」
「そうだなぁ、今日は手を繋いでもらうよ」
「そう、か」
大水くんの細く長く白い手が俺の手と絡み合う。俺はこういうの、家族以外としたことなくて正直ドキドキしてた。少し動揺する俺を見て、大水くんはふふ…と小さく微笑むのだ。夕焼けのせいで大水くんの顔が赤く見える。いや、本当に赤いのか?でもそれ以上に、その暑い中、教室のクーラーは止められているのに2人きりで手と手を絡み合わせているからものすごく暑い。手汗が出てくる。緊張を悟られないよう有栖川さんの話題を出す。
「ところで有栖川さんは、なんて?」
「あぁ、有栖川さんはね、汚い大人たちに誘拐されちゃったんだよ。きっと有栖川さんはお嬢様だから、お金が目的さ。有栖川さんを売ろうと考えたんだ。それで、有栖川さんの臓器や服、私物を売るために殺したんだろう。」
なんで有栖川さんがお父さんが社長でお金持ちの家のお嬢様って知っているのだろうか。大水くんは今日来たばかりなのに。不思議に思った。
「え、じゃあ有栖川さんはなんでブランコなんかに…?」
「それは知らない、好きで来ているんだろうから。」
大水くんは有栖川さんを知るはずがない。容姿も知らない。声も知らない。好きな物も知らない。(僕も詳しくはないが)なのになぜ、有栖川さんのことを知っているのだ?
「大水くんは有栖川さんと話したことあるの?」
「ないよ。」
「じゃあなんで…」
「教えてくれるのさ、幽霊が」
「教えてくれるの?」
「うん。」
そうだ、彼は不思議な力を持っていると僕に公表していたな。
「みんなに言わないの?」
「この能力のことかい?」
「そうだよ。」
「言いたくない」
「そう、なんだ」
事情は深く聞かなかったが、本人が嫌なら仕方ない。そして、未だに手を離してくれない大水くん。とうとう汗が流れ落ちてきた、それを拭おうとした時大水くんが俺の手を離し、俺の頬に手を伸ばす。夏のくせにひんやりした手が俺の頬にペタッと張り付く。そして大水くんは少し背伸びをして俺の頭から流れてくる汗を舐めた。びっくりして間が空いたが状況を理解するのに、結構かかった。大水くんはまた、ふふ…と小さく微笑んだ。ここから見ると大水くんの顔は綺麗だ。白い肌に、サラサラで目にかかりそうな前髪を横に流している黒髪、1度見たら忘れられないような微笑んだ時の切れ長な目。鼻筋が通っている鼻。小さい口。目の横のホクロ。女の子のようだ。目を奪われてしまうほどの綺麗さがあった。有栖川さんの事なんか忘れて2人だけの空間を楽しんでいるみたいだ。
「そろそろ帰ろっか。」
俺の頬から手を離し、ランドセルを背負い直す大水くん。
「うん。帰ろう」
時間なんて忘れて2人だけの空間を楽しんでしまった。家に帰る頃には学校が4時に終わるのに帰ってきたのは6時30分でお母さんに酷く叱られた。大水くんも叱られてると思うと少し面白かった。
その日のお風呂で大水くんのことを考えながらゆっくり湯船に浸かっていた。彼はどこから来たのだろうか。彼の性格をもっと知りたい。彼の言葉をもっと聞きたいと思った。そんなことを考えていると湯船で初めての勃起?というものを味わったのだ。全然性に関して詳しくない俺だが保健の授業は受けているのだ。これくらいはわかる。が、どう対処していいかまで知らない。とりあえず、明日の給食について考えた。
夕食とお風呂を済ませ、早めに布団に入った。夏の夜、タイマーをつけてクーラーをかける。そして、カーテンを閉めて好きなものでも考えて寝る。その頭の中にはなぜか雪乃 明莉の姿が浮かんだ。