テラーノベル
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「人は四回生まれ変わる…、という話を聞いたことありますか?」
乃江は「四回?」と聞き返して首を傾げた。
「種を撒まく人生、種に水をやる人生、収穫する人生、収穫物を食す人生。四回生まれ変わると言われています」
「じゃあ樹さんの人生は今何回目なの?」
乃江が大きな瞳で樹の顔を覗き込むように聞くと、樹はちょっと視線をそらした。
「さあどうでしょう」
「私なら種に水をやる人生がいいな」
「どうしてです?」
「なんかわからないけど、一回は人生をやったことがある気がするの。そのときのことはもちろん覚えてないけど、そのとき何かがあって、その代償で現世では早くに両親を亡くして親戚の家でちょっと辛い思いもしたんじゃないかって思うの。それにあと二回チャンスがあれば、また樹さんにも出会えるでしょう」
乃江が顔をあげて微笑んだ。
「それより出会えた今を大事にしないとその先なんてないわよね…、って何言っちゃってるんだろうね、私」
急に恥ずかしくなって早口になる乃江に、樹が目を細める。
「来週の春祭りで、私歌うことになったの」
「おめでとうございます」
「ありがとう。それでね、樹さんにも見に来てほしいんだけど来てくれる?」
「はい、もちろん」
「人前で歌うなんて久しぶりだから、すごく緊張しちゃっているの。どうしよう、うまく歌えるかな」
右手を自身の胸に当てて、深呼吸をする乃江の左手に樹はそっと触れた。
「きっと大丈夫ですよ」
樹の言葉に乃江は樹の手を握り返した。樹は上着のポケットから金色の懐中時計を取り出して、乃江の手のひらに載せた。
「とても綺麗なものね」
「これを乃江さんに持っていてほしい」
「ダメよ、大事なものでしょう」
「いいんです。乃江さんに持っていてほしい。うまく歌えるお守りだと思って持っていてください」
懐中時計を載せた乃江の手に樹は手を重ねた。そしてその手を少し強引に引き寄せて、乃江を抱き締めた。
「僕も二回目の人生がいい。そしてまた乃江さんに出会いたい。三回目の人生でも、四回目の人生でも必ずあなたを探して、あなたに会いに来ます。きっと必ず」
それは愛の告白なの? それともお別れの言葉なのかしら?」
どうしてこんなに涙が溢れてしまうのだろう。そんな乃江の頬を樹が優しく拭った。
十人乗れるか乗れないかぐらいの小さなステージだが、その前には大勢の人が集まっていた。春祭りの会場を囲む桜の木々は、綺麗なピンク色に咲き誇っていた。
「緊張している?」
桜子が聞く。
「少し、いや結構緊張しています」
乃江の言葉に正平が静かに笑った。桜子が腕を伸ばして、乃江を優しく抱き締めた。
「笑顔で行って笑顔で帰っていらっしゃい」
桜子が乃江から身体を離して、乃江の手を握り目を真っすぐ見て続けた。
「私はここで待っているわ。さあ行ってらっしゃい」
「エスコートしますよ、歌姫」
正平と並んで、乃江は七年振りのステージへと向かった。司会者から名前を呼ばれるまでの僅かな時間に正平が言った。
「まさかもう一度ギターを抱ける日が来るなんて思わなかった。乃江に感謝している」
「こちらこそ一緒にステージに立ってもらえて心強いです」
乃江はジャケットのポケットの上から、懐中時計を握り締めた。そして前を向いて力強く歩き出した。
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コメント
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「四回生まれ変わる」という人生観、すごく惹かれました。樹が「何度でもあなたを探しに来る」って言う場面、告白でありお別れの予感でもあるみたいで胸がぎゅっとなりました。あの懐中時計、絶対ただの小道具じゃないですよね。伏線っぽくて気になる…。乃江が七年ぶりのステージに向かうラストも、過去の辛さを抱えながら前に進む強さが感じられて、じんわり温かくなりました。