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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第20話 〚計算外の感情〛(恒一)
うまくいくはずだった。
◇
姫野りあは、
思った通りに動いている。
軽くて。
分かりやすくて。
欲に正直。
(扱いやすい)
◇
橘海翔を奪おうとする動機も、
澪を嫌う理由も、
全部、計算通り。
◇
なのに。
◇
教室の端で、
恒一は澪を見る。
澪は、
誰とも話していない。
それなのに、
一人じゃない。
(……囲われている)
◇
友達。
橘海翔。
担任。
見えない線が、
澪の周囲に張られている。
◇
(おかしい)
◇
澪は、
守られるタイプじゃない。
静かで。
控えめで。
流されやすい。
――そう、思っていた。
◇
でも。
◇
倒れた日のことが、
頭から離れない。
心臓を押さえて、
苦しそうに崩れ落ちた姿。
◇
あれは、
演技じゃない。
(……知っていた?)
◇
恒一の視線が、
一瞬、鋭くなる。
(どこまで)
◇
りあとのカフェ。
「協力しよう」
そう言った時の、
自分の声。
冷静で、
完璧だったはず。
◇
なのに。
◇
澪が、
自分を見なかった。
あの瞬間。
◇
胸の奥に、
小さなノイズが走った。
(無視された)
◇
それは、
想定外だった。
◇
「俺のものになる存在」
そう定義していたはずの相手に、
意識を向けられなかった。
◇
(……違う)
◇
澪は、
逃げている。
守られているから、
強く見えるだけだ。
◇
そう、
理屈では分かっている。
◇
なのに。
◇
澪の周りに立つ人間たちを見ると、
胸がざわつく。
(奪われる?)
◇
その考えに、
恒一は眉をひそめた。
(馬鹿げてる)
◇
奪う側なのは、
自分だ。
◇
感情は、
不要。
計画に、
感情はいらない。
◇
それなのに。
◇
橘海翔が、
澪のそばにいるのを見ると。
◇
胸の奥が、
不快に軋む。
(……邪魔だ)
◇
ただの障害物。
そう、
処理すればいい。
◇
なのに。
◇
視線が、
自然と海翔に向く。
拳を、
無意識に握っている自分に気づく。
◇
(これは)
◇
恒一は、
ゆっくりと息を吐いた。
◇
「……計算外だな」
◇
感情は、
制御できる。
今までも、
そうしてきた。
◇
でも。
◇
この“ざわめき”は、
初めてだ。
◇
澪を手に入れたい。
それだけのはずが。
◇
奪われたくない、
という感情が、
混ざり始めている。
◇
(……まだだ)
◇
恒一は、
再び無表情に戻る。
◇
りあは、駒。
海翔は、障害。
澪は、目的。
◇
整理すれば、
問題ない。
◇
――はずだった。
◇
教室の窓に映る自分の目が、
いつもより、
暗く見えたことに。
◇
恒一は、
まだ気づかないふりをした。