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20〇〇年。
どこからか現れた腐死者によって、世界は混沌と化していた。
それは刺々しい太陽の光が燦々と煌めく、暑い夏の事だった。
私の家ではクーラーが壊れてしまい、暑い夏を扇風機だけで過ごすのは流石に駄目かと思い、家電量販店に向かうことになった。
両親に見送られ、私は鏡で身なりを整えてから家電量販店へ向かう。
車で冷房をきかせて行く道のりは、家で扇風機の前でじっとしていた時より幾分か、いや、断然いいと思えた。
並木通りを走っていく車の外から、蝉の鳴き声が響く。
私は昔から虫嫌いで、中でも蝉はその鳴き声と、幼少期に木の下で遊んでいたら蝉が降ってきたという恐怖のイベントがあったため大嫌いだった。
バタン、と車の扉を閉じると、家電量販店の中へと入る。
家の扇風機より、車の冷房より涼しい風が私の全身に降りかかる。
早くクーラー買わないとな、と思いつつ私は辺りを見回す。
それと同時に悲鳴が聞こえた。
女性の客が私の後ろを指差している。
ばっと後ろを振り向くと、自動ドアをじとっと見つめる全身が腐ったような紫と緑の姿の男性がいた。
ウィーン、と自動ドアが開くと、人間に興味を示したかの如くこちらに向かってドスンドスンと走り出す。全身の鳥肌がたって見てはいけないものを見たかのような恐怖に襲われる。
考えるよりも早く、私は走り出した。
それに興味を持ったのか、後ろに連なっていた多くの腐死者が走ってくる。
無我夢中で我先にと走る客たちを面白がるように腐死者たちが追いかけてきた。
だが唯一、私だけは追いかけられなかった。
ぎゃああぁと悲鳴を上げて切り裂かれている客の声を聞きながら私はどうすればいいのかと走り続ける。
とにかく外に出なければと自動ドアを開けて外に出るが、外にもわらわらと腐死者たちが歩いていた。だがやはり、私には目もくれない。
車を運転して逃げようと車の鍵を差してエンジンをかける。
両親は無事だろうかと悶々と頭の中に様々なことが駆け巡る。
先ほどの並木通りを全力で走っていくが、焦りすぎてスピードが出過ぎ、道の木々にぶつかってしまう。冷や汗が額を伝ってポトン、と手の甲に落ちた。何故かその汗が普通とは違う色ように見えたが、そんなことを気にしている時間はない。急いで車を動かした。しばらくすると、私の家が見えた。
外から見れば変哲もないいつも通りの私の家だが、内部はどうなっているか分からない。
急いで家のなかを覗くと、そこには玄関で怯えた顔で後退りをする両親がいた。
「いやああぁっ!ば、化物ぉぉ!!」
両親は私を見て玄関の棚にある花瓶を投げてきた。
投げつけられた花瓶をとっさに避けて、私は二人を信じられないといった顔で見た。
「おがあざん…?」
この世のものとは思えないおぞましい声が私の口から発せられる。
「来ないでっ!」
母が私に鋭い言葉を投げ掛けた。
「おがあざ…」
「来るなぁぁっ!!」
父親からも罵声を浴びせられ、いつもなら越えないはずの怒りの沸点を軽く突破した。
鋭い悲鳴と血にまみれた姿が鏡に映る。
家電量販店に向かう前に映ったのは紛れもない人間だったはず。
だが今、鏡に映ったのはーー
緑と紫色の、腐った体だった。