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道化師 〜サーカス舞台裏にて〜

僕は、僕たちは、[元]人間だった。僕たちの魂は、一つになって一種の邪神になった。邪神といっても、数ある名のある物達の中で一番下のした。つまりは、小物らしい。

僕たちのような小物は、稀に生まれる。主に、この世に未練がある魂は。

僕たちの場合は、母親を残して死んでしまった後悔と寂しさだ。

今さら、未練に気づいても、僕たちは人間に戻れるわけでもない。

しかし、ある人物の力を借りれば、話は別だ。


「クソピエロ! さっさと、準備をせんか!!」


僕たちを呼ぶ男の人の声を聞いて、ぼんやり見ていた新聞をテーブルに放り投げた。


「ハ、はい!!」


僕たちは、声の主の元へいくと、特徴的なシルクハットを被った小太りな男性がいた。この男性こそ、このサーカスの団長であり、かの有名な奇々怪々な手品師、〈マッドハッター〉だ。

〈マッドハッター〉とは、ハロウィンの日に墓場でパーティーを開いたり、結婚式で飛んでいる鳩を観客の前で焼き殺したりと、マッドな事件を起こしている手品師のことだ。手品師と言われているが、本当は魔術師で魔女狩りや、ペスト医師、エクソシストまでもがその命を狙うほど危険視されている。一部の組織が血眼で探しているんだとか。

その〈マッドハッター〉は、天地をひっくり返すほど強力な力を持っているらしく、その力があれば、人間に戻れるのではないかと思い、僕たちは、この人の助手として働いている。


「今日は、派手に盛り上げてくれよ! 我らが団の名がしれている今! 金をがっぽり稼げ!」


「「はい!!」」


僕たち、以外のサーカスの団員達は、返事をして各自、メイクや小道具の準備を始める。


「あ、あのう。団長。」


「んん?」


僕たちは、この日に備えて、たくさん練習してきた。お手玉や、ナイフ投げ。血は出ないけれど、血と汗が滲むくらい練習してきたんだ。

雑用だけじゃないという所を見せなければ。


「きょ、今日までたくさん練習してきたんです! だから、僕たちも。」


「そうか。駄目だ。」


「え!?」


僕たちは、団長の言葉にショックを受ける。

団長は、杖を突きながら、大きな鏡の前に立つと身だしなみを整え始めた。


「で、でも! 僕たち、今日まで、が、頑張って練習…。」


「練習をしてきたからなんだ? わしに、お前を舞台に出すメリットは?」


「め、メリットは…。」


「ないだろう!? おまけに、お前が舞台に出たとて、金が稼げる保証は何処にもないだろ!」


「そ、そんな。ぼ、僕たちは…。」


「わしは、〈マッドハッター〉だぞ!! 逆らうのか!!」


団長の威圧に負けて、僕たちは首を降る。


「なら、さっさとチラシを配ってこい!」


団長に、渡された大量のチラシを持って、僕たちはサーカスの舞台裏を出ていった。

〈マッドハッター〉の力は、強力だ。

力の弱い僕たちなんて、簡単に殺すことができるだろう。

だからこそ、逆らえないのだ。


「僕は、どうしたらいいんだろう…。」


彼に、団長に、〈マッドハッター〉に逆らえない。昔、僕たちが聞いた噂とは、かけ離れているような気がしてならない。けど、確かにお金は必要だし、そのお金を得るためには今のサーカスを指揮し、稼がなければならないのは、本当のことだ。

僕たちが、サーカス付近にいる人々にチラシを配っていると、目の前に、ちょっと高そうな靴が見えた。


「君は、いや。君たちは、このサーカスの団員なのかい?」


僕たちは、頭上から声がしたので、ゆっくり上を向くと、一言でいうならば、イカれた柄のシルクハットを被り、僕たちが配ったチラシを持った女性? のような男性? がいた。

僕たちは一瞬、この人が自分達と同じような者、に見えた。


「〈マッドハッター〉率いるサーカス、ねぇ?」


僕たちは、ニタァと笑うその人物に思わず、後退りしてしまった。いけない。一人でも多く、お客さんを引き入れないと。


「そ、そうだよ! 我らが団長〈マッドハッター〉様が、今日のサーカスで様々なパフォーマンスをするんだよ!」


「ふーん? けど、色んな奴らから命を狙われてるのに、ここで宣伝部なんてしちゃって、大丈夫なのか?」


「え?」


「…ペスト医師に、エクソシスト、魔女狩り共に狙われてる身なら、サーカスなんてやるもんじゃないと思うがね。」


「ほっといてよ! 〈マッドハッター〉様なら、あんな奴ら、へっちゃらだ!」


つい、ムキになって反論してしまった。しかし、あの偉大な〈マッドハッター〉ならば、ペスト医師だろうがエクソシストだろうが、お得意の魔術でなんとかしてくれるだろう。


「ふーん? ま、そんなことは、どうでもいい。私は、君たちのショーに興味があるんだ。」


「ぼ、僕たちの?」


「そう、君たちの。」


僕たちは、この不思議な人物が嫌いなのかもしれない。何処か、見透かしているような、燃えるような赤い瞳に、ばっちり、僕たちの姿が捕らえられている。逸したくても、逸らせない。

そして、その人物は、僕たちに問う。


「なぁ、君たちは、何だ?」


「ほ、僕たち? 僕たちは…。」


僕たちは、何だ?

僕たちは、何者だ?

僕たちは、僕たちは。



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