テラーノベル
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「ば、馬鹿な!私の息子が前世の因果によって、穢れつき(先天的な障害)になったというのか?」
「はい。残念ながら私の見立てでは、佐伯様の御子は、前世の報いで呪われたようです。
人は呪われると、猿楽(さるがく・能楽の前身)の面(めん)のように、みな同じ顔になってしまいます。
残念ながら、御子にもその特徴が顕著に現れておるのです」
「そ、そんな馬鹿な。
発育が悪いと思っておったが、よもや穢れつきとは…」
「お家の対面に関わりますので、早目に対処されることをお勧めします」
「お主も密教の僧であれば、祈祷で祓うことが出来るであろう。
何とか成らぬのか?」
「前世の穢れは、今世で祓うことはできませぬ。
お許しください」
「何故なのだ!!
何故、私の息子なのだ!!」
若い男の叫び声は、いつ果てるともなく続き、やがては高い笛の音となって消えてしまう。
次に聞こえてきたのは、憂いを帯びた鈴の音であった。
そして、その鈴の音は徐々に女の啜り泣く声に変わっていく。
「貴方は、あの子を捨てるというのですか?」
「捨てるのではない。寺に預けるだけだ」
「それを、世間では捨てるというのです。
海空丸(みそらまる)は、知恵が少し遅れておるだけで、とても優しい子なのです。
貴方も知っているではありませぬか。
山歩きの折です…
あの子は、蛭に血を吸われても殺そうとはせずに、優しく見守っていました。
それどころか、私が払おうとすると、蛭が可哀想だと泣くのです。
そんな優しい子を貴方は捨てるのですよ。
あの子は、私がいなければ生きていけませぬ。
どうしても、寺に捨てるというのであれば、私も出家して寺に入りまする」
「それはならぬ。
お義父上とも話し合って、もう決めたことなのだ」
すると突然、高い金属音が鳴り響いた。
女の激しい怒りが音になったのだろう。
「それはそうでしょう。
私が出家すれば、貴方は、せっかく手に入れた出世の足掛かりを失うことになります。
地方豪族出身の貴方にとって、中央での出世には貴族の家柄が必要です。
海空丸も、出世の邪魔になるから捨てるのですか?
貴方は、出世のことしか頭にないのですね!」
また、女の激しい怒りが高い金属音となって辺り一帯に響き渡った。
その音が、徐々に小さくなって完全に消えてしまうと、今度は、寂しげな琵琶の音が単調に鳴り響く。
その音に合わせるように、優しげな女性の声が聞こえてきた。
「海空丸は、以前、母が読んであげた浦島のお話を覚えていますか?」
「はい。母君、覚えております。
亀を助けて、亀と共に竜宮に行くのです」
「そうです。
よく覚えていましたね。
あの折、海空丸は竜宮に行きたいと泣いていましたが、今も竜宮に行きたいですか?」
「はい。
私も、鯛や平目が踊る姿を観てみたいのです」
「では、今から母と共に竜宮に参りましょう」
「本当ですか!参ります!!」
楽しげな子供の歓声とは裏腹に、掻き鳴らされた琵琶の音が不穏な音色を響かせる。
その音が徐々に小さくなって、完全に消えてしまうと、一瞬の静寂を切り裂くように、いきなり、火山が噴火するような爆発音と共に視界が大きく揺れた。
その後も、視界はガクガクと揺れ続けている。
一体、何が起こったというのだろう?
そこに、嗄れた男の声が聞こえてきた。
「この二体の土左衛門が、旦那のご家族だっていうんですかい?
ご愁傷様です。
どうやら、母親が息子の手と自分の手を荒縄で縛って、入水したみてぇなんですよ。
しかし、よほど母親のことを信頼していたんでしょうね。
この子、笑ってるんですよ。
縛られて川に突き落とされたら、普通は大人だって恐怖に震えますぜ…
笑顔の土左衛門なんて初めて見ましたよ。
旦那、大丈夫ですかい?」
金属と金属を擦り合わせたような、癇に障る音が絶え間なく聞こえてきた。
そこに、男の絶叫が被せられる。
「あーぁ!!あーぁ!!がーぁ!!
違う!!違う!!
お前達よりも、出世が大事なわけがない!!
お前達が大切だから!!
お前達を守るために出世したかったのだ!!
叔父上の紹介で、そなたの家の寄人(よりうど・雑用係)となった日から、そなたを大切に思うておった!!
海空丸のことも、己の出世の邪魔だからではない!!
そなたの苦労を、側で見ているのが辛かったからだ!!
そなたを、楽にしてあげたかった!!
あーぁ!!あーぁ!!がーぁ!!
それなのに…
それなのに、死んでしまうなんて!!
早まったことを…
どーしてなのだ!!
どーして…
私は、これからどうすれば良いのだ!!
どう生きていけば…」
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コメント
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ああ、もう…胸が痛いですね。海空丸くんが笑顔のままだったっていうのが、本当に辛くて。母の愛情と悲しみと、間に合わなかった父の想い…すれ違いが一層引き立っていました。琵琶や金属音といった音の描写が、心理を映し出していて素晴らしかったです。第24話、心に深く残る回でした。