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本堂の片付けを終わらせて、庫裏(くり)の居間へ移動した後、オルクスとモラクスがパズスとラマシュトゥを抱えて善悪の部屋へ向かっていった。
おそらく、依り代にするソフビを選ばせに行ったのだろう。
慣れた手つきで煎茶を淹れる善悪から、湯呑みを受け取りながらコユキが話し掛けた。
「今回は色々疲れちゃったわよ、本当に」
「お疲れ様でござるよ、結構、いやマジでピンチ編だったでござったゆえ…… まぁ、ゆっくり休むのでござるよ」
善悪が茶菓子を準備しながら労い(ねぎらい)の言葉を口にした。
目の前に置かれた菓子を見たコユキが首を傾げた。
「あれ? 名古屋コーチンじゃん! まだ残っていたのね?」
「あ、それはひよこでござる、東京の。 今日コユキ殿が買って来たやつでつ」
コユキは驚いた顔で続けた。
「えっ! これって…… どっちかがパクってるよね?」
「ま、まあね…… でも、深く考えても誰も得しないのでござる! ささ、メシアガレ」
「うん、そうね♪ 福岡まで入れたら三つ巴の泥仕合よね、イタダクワ」
「そそ、気にしたら負けでござる」
二人揃ってズズズっとお茶を啜って、ひよこを美味しそうに口にしていく。
一つ目を食べ終えた善悪がコユキに話しかける。
「それにしても、今回は無茶しすぎでござるよ、両手を無くした時には失神しそうだったでござる。 もう少し慎重に戦っては如何か? まあ、今回は結果オーライでござったが……」
コユキは七つ目のひよこを口の中に放り込んでから返した。
「心配させちゃった、ごめんね、でも、実は確信? みたいな物があったのよ」
「ん? 確信、でござるか?」
コユキは八つ目のひよこを包み紙の上に戻してから、少し考え込む様な顔をしてから話を続けた。
「そうね、指が酷いダメージを負った時、こう、何て言うか、相手のヒールをスチールして治すしかないって、当然の様に思ったのよ」
「え~、そんな思い付きの勘みたいので、デス・ニードルを打ったのでござるか~、えー、えー」
「勘、っていうよりデジャブ、かな? ほら、既視感(きしかん)って言うの? 前にこんな感じで強引にラマシュトゥちゃんに回復させた事が有った、って感じたのよね」
「ふむふむ、それで、本当にそうなった、と?」
善悪の確認に首肯(しゅこう)したコユキは、八つ目九つ目をまとめて口に放り込んでから、更に言葉を続ける。
「んで、最終的にかぎ棒でサクッとやった時にね、例によってイメージが流れ込んで来たんだけど、その情景っていうのが、まんま既視感の元になった体験っぽくてね」
善悪が興味津々な様子で、僅(わず)かに身を乗り出して質問する。
「具体的には? どんな風なイメージだったでござる? 又、白い宮殿だったでござるか?」
「ううん、回りの感じはだだっ広い雪原よ、雪と氷に囲まれているんだけど、何か金色に輝いてる場所だったの、そこでパズス、ラマシュトゥと戦ってた、というか稽古をつけていた感じかな?」
「ああ、コキュートスでござるか…… あの子達はあそこへ訪ねて来るのも二人一緒でござったから……」
「そうね、同時に生み出されたから、良くも悪くもお互いに依存し易い環境だったしね」
「で、ござるな、ところで二人はどうでござった? 少しは強くなっていたでござるか?」
聞かれてコユキはパァと明るい表情になると、嬉しそうに善悪に告げた。
「驚くほど強くなっていたわよ! 何より互いに頼り合うってより、それぞれ相手を守る為に、自分が傷付く事も厭(いと)わないって感じだったわよ!」
「ははは、それは良かったのでござる♪」
善悪もご機嫌な様子で笑いながら返した。
そのタイミングで、オルクスとモラクスに連れられて、ソフビを選び終わったパズスとラマシュトゥが居間に入ってきた。
やはり、というか、パズスは例の漫画に登場する、人間ベースの人造生命体の十七番目、ラマシュトゥは十八番目を選んだようだった。
ヒネリは無かったようだ、欲張りな創造神にしては珍しい事ではなかろうか?
「改めまして、『鉄壁のパズス』です。 主様に御挨拶を、これからよろしくお願い致します」
「『改癒のラマシュトゥ』でございます。 お仕え出来る事、心より嬉しく思いますわ」
二人は畏(かしこ)まった様子で丁寧に、コユキと善悪に頭(こうべ)を垂れた。
「そんなに畏まらなくても良いわよ、二人とも! ね、善悪!」
「そうそう、肩肘張らずに楽にするでござる! それにしても二人とも大人になったのでござるな!」
善悪の言葉にパズスが首を傾げ、ラマシュトゥが疑問を口にした。
「大人、でございます? どう言ったお話しですの?」
その質問に答えたのは、善悪に代わってコユキであった。
「コキュートスに遊びに来ていた頃と比べて、すっかり成長したわね、って事よ! 褒めてるのよ」
「そうでござる、これは猛毒で知られるストゥクスの水も、悪い事ばかりでは無かったかも知れないでござるな、ふふふ」
当然の様に語り合う二人の姿を、オルクス、モラクス、パズス、ラマシュトゥの四人は驚きを浮かべて見つめ続けるのであった。
四人の視線を意に介するでもなく、コユキと善悪は会話を続ける。
「次はアジ・ダハーカでござろうな?」
「そうね、あの賢い子がどんな風に『馬鹿』に抵抗するのかも、楽しみよね~」
「確かに、ふふふ、でござるな!」
見つめる四人の中から、モラクスが恐る恐るといった感じで二人に声を掛けた。
「コユキ様、善悪様、あの、思い出されたのでございますか?」
「へ? 何を?」
キョトンとした顔はコユキだけで無く、横に居る善悪も同じであった。
オルクスが続けて言った。
「コキュートス、ノ、コトトカ?」
その言葉を聞いたコユキと善悪は益々ハテナの度合いを強めて、四人に向かって答えた。
「思い出すも何も、元々忘れた事なんてないわよ? 結構長く住んでたし」
「そうでござるよ、変な事を言うでござるな? あそこは物思うには最高でござる」
スプラタ・マンユの四人は、不審そうな視線を互いに向け合っていたが、オルクスが全身を白く輝かせると声を揃えて二人に言った。
「「「「マラナ・タ」」」」