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遅い夕食を済ませて、そろそろ休もうかと思ったときにクラリスさんから声を掛けられた。
「アイナ様、お疲れのところ申し訳ございません。
このあと、お時間をよろしいでしょうか」
「え? 明日じゃダメ?」
「いえいえ、是非是非」
「うーん? ……じゃぁ、あんまり長引かなければ。
ところでグリゼルダの部屋って、準備できた?」
「滞りなく準備できております。ルーシーさんに案内させますので」
「りょうかーい。
グリゼルダ、部屋はメイドさんに連れていってもらってください」
「うむ、承知した。突然のことなのに、手間を掛けるのう」
「とんでもございません!」
グリゼルダに話し掛けられて、クラリスさんは目をキラキラさせた。
んん? これは一体……?
「それじゃみんな、今日はお疲れ様でした。
リリーも先に、部屋に戻っていてね」
「分かったの!」
「アイナさん、また明日です!」
「私は今晩、警備の手伝いをするので……。何かあれば声をお掛けください」
おお、ルークも今日は疲れたろうに、まだ働いてくれるのか。
本当にありがたいやら、申し訳ないやら……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が書斎でまったりしていると、クラリスさんがお茶を持ってきてくれた。
「お時間を頂きまして、ありがとうございます」
「ううん、大丈夫だよ。座る?」
「いえ、大丈夫です」
疲れているだろうと思って勧めてみるも、やはり立場的には座れないか。
「えっと、それで何かな?」
「アイナ様、あの方はいったいどういう方なのでしょうか!」
「あの方……?」
……まぁ状況的に、グリゼルダのことだろうけど。
「あの気品溢れる佇まい! さり気ない所作から滲み出る高貴な貫録!
そこらの王族などでは到底出せない、ただならぬ雰囲気を感じます!!」
「高評価だね……。
いや、別に教えても良いんだけど……急に、どうしたの?」
「私の血が! メイドとしての魂が!
あの方を! もてなしたくて仕方がないのです!!」
「ふぇ……?」
クラリスさんの目がやたらとキラキラしている。
まるで憧れの人を前にしたような、心から好きな仕事をしているような――
……そういえば王都でお食事会を企画したときも、大商人のピエールさんや大司祭様を招待したがっていたっけ。
きっと、偉い人や凄い人をもてなしたいという思いが強いのだろう。
「ところで本人から聞いたのですが、グレーゴルさんを警備メンバーに雇用するというお話もあるんですよね?
加えまして、王都から来て頂いたレオボルトさんも着任の準備もできたようです。
あとはリリーちゃんの歓迎会もしておりませんので、全部をひとまとめにして、何かしてはいかがでしょうか……!」
「おー、それは良いね!
そしたら、私がお世話になってる鍛冶屋のアドルフさんも呼びたいなぁ」
「良いお考えです!
今回はあまり増えすぎないようにしたいのですが、他にはどなたかいらっしゃいますか?」
「そうだねぇ……」
あとはジェラードと、今後頑張ってもらうことになるポエールさんくらい……?
アイーシャさんやクレントスのお偉いさんたちは、ちょっと違う気がするかな。
今回は接待や顔繋ぎの場ではなく、純粋に楽しみたいから――
「……ジェラードとポエールさんの、2人かな」
「かしこまりました!
ただ、ジェラードさんは基本的に所在不明と伺っているので、スケジュール的に合わせられるかどうか心配です」
「あ、確かに。
でもこういう話をしてると、次の日あたりにひょっこり来るものだよ。ジェラードは」
「そ、そうなんですか?」
「だからもう、最速で開催しちゃえば良いんじゃないかな?」
「ではお言葉に甘えまして、そうしましょう! 明日開催いたします!」
「はやっ!?」
……まぁほぼ身内だし、ポエールさんは多少の無理をしてでも来るだろうし……。
ここは強行開催でも、問題はないのかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、びっくりしたよ!!」
ジェラードが開口一番、そんなことを言った。
……噂をしたら、本当に次の日に来てしまった。
もしかして、どこかに盗聴器が仕込まれてる?
そうでなければ、何かの運命によって繋がってしまっているとか?
「あはは、いろいろ変わりましたからね。
ジェラードさん、3週間くらいはいなかったでしょう?」
「こっちもいろいろあったんだよー。
それでようやく戻って来れたと思ったら、見覚えのあるメイドさんが玄関から出てくるし!
いやぁ、時間が昔に戻ったかと思っちゃったよ」
「前のメイドさんは全員逃げちゃったんですよね。まぁ、いろいろあって」
「逃げた、って……。
えー、それは斡旋したところにクレーム入れた?」
「いや、そこは仕方のない理由があって……。
だから今の5人が来てくれたのは、本当に助かったと言うか」
その流れのまま、私はジェラードに今までの話をした。
もちろんリリーの正体を含めて、だ。
「――……なるほど。
なかなか信じられない話だけど、まぁアイナちゃんだしね……」
今回に限っては、その理解はとても助かる。
理解に困ったときの免罪符。それが私!
「さらに昨日、スペシャルゲストがやって来たんですよ。
それもあって、昨日は帰るのが遅くなってしまったんですが」
「へぇ……? でも『疫病の迷宮』の子に比べれば、驚くことは無いと思うよ♪」
「そうですよね!
転生してきた光竜王様だなんて、驚きが足りませんよね!」
「……へぁ?」
驚かせる気が満々だった私に対して、しっかり驚いてくれるジェラード。
この超越した存在のツートップには驚かざるを得ないだろう。
「それで今晩、みんなの歓迎会みたいのをやろうと思っているんです。
ジェラードさんも歓迎される立場なので、ちゃんと参加してくださいね!」
「う、うん、分かったよ……。
迷宮に、竜王……。迷宮に、竜王……」
「本当ならジェラードさんの予定を確認してから決めたかったんですけど、最近戻ってなかったじゃないですか?」
「いやー、それが僕の方もいろいろとあってね。
……アイナちゃんほどではないんだけど」
「最近の私よりも凄いことがあったら、本当に凄いと思いますよ……」
「だよねー……。迷宮に竜王だもんねー……」
「それで、やっぱり人魚伝説を調べていたんですか?」
「そうそう。話を聞きに行ったらさ、急に襲われちゃって。
いやー、参った参った」
「えぇ……?」
「何か聞かれたくないことでもあったんだろうね♪
ある程度の情報は手に入れたから、もう少し精査してからまとめて報告するよ」
「ジェラードさん。何でおとぎ話を調べてて襲われるんですか……」
……謎が謎を呼ぶ、今回のジェラードの調査。
うーん、まったく謎である。