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#成り上がり
1,535
#悪役令嬢
54
「――うん? アイナよ、出掛けるのか?」
外出の準備をしていると、グリゼルダから声を掛けられた。
「今晩みんなの歓迎会を開くんですけど、鍛冶場で働いている仲間を誘いに行くんですよ」
「ほう、歓迎会とな。ふふふ、人間にはそのような催し物があって、楽しいのう」
「メイドさんたちが美味しいお料理作ってくれますから、楽しみにしていてくださいね!」
「……ふむ、屋敷のことをしながら、さらにあの者たちが食事を作っているのか。
天晴な連中じゃのう」
グリゼルダは感心しながらそう言った。
それ、クラリスさんが聞いたら絶対に喜ぶだろうなぁ。
「是非、本人たちに言ってあげてください」
「承知した。
ときに、その鍛冶屋には誰が行くのじゃ? 何なら、妾がアイナの身を護ってやるぞ?」
「え……? いやいや、さすがにそれは畏れ多いですよ!」
街中を少し移動するだけで、光竜王様から護ってもらうだなんて。
さすがにそんなことは、神様くらいしか許されないだろう。
「ああ、いやいや。妾も武器が欲しくてのう。
お主の身を護るのはそのついで……というところじゃな」
「な、なるほど……。
それではルークとエミリアさんにはお休みしてもらって、今日はグリゼルダにお願いしますか」
「うむ。特にルークは、疲労が蓄積しておるじゃろう?
いやさ、アゼルラディアが癒しておるとは言え、ときには時間も必要じゃろうて」
「分かりました。あとは――」
「後ろにおるリリーで十分ではないか? お主のことをじっと見ておるぞ?」
その言葉に後ろを振り向いてみると、確かにリリーがこちらをじっと見ていた。
いつもなら率先して声を掛けてくるのに、グリゼルダに配慮していたのだろうか。
「はい、それではそうしましょうか。
リリーも行くよね?」
「はーい! 行くのー!」
元気良く答えるリリーと、それを微笑ましく見つめるグリゼルダ。
ちょっと珍しい組み合わせだけど、たまにはこう言うのも面白いかもしれない……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちはー」
「いっ、いらっしゃいませ! ままま魔女様っ、少々お待ちをっ!!」
お店に入ると、店員さんが挨拶をしてから速攻で奥に引っ込んだ。
……何と言うか、ずいぶんと苦手意識を持たれてしまったものだ。
「なんじゃ? あれは……」
「あはは、何だか……何でしょうね?」
少し間が持たない感じでそのまま待っていると、アドルフさんがふらふらとしながら現れた。
「……いらっしゃい、アイナさん。
リリーちゃんも元気かい? えっと、それと――」
「妾はグリゼルダと言う。よろしくな」
「はっ、はいっ!!!!!!」
グリゼルダが挨拶をすると、アドルフさんはめちゃくちゃ畏まってしまった。
「え? アドルフさん、一体どうしたんですか?」
そう言う私の手を掴んで、アドルフさんはお店の隅に連れていく。
「おいおい、あの方はまさか竜人様か!?
何だってそんな方がアイナさんのところに!?」
「ふぇ……。竜人様って何ですか……?」
「えっ、あれっ!? もしかして、違うのか?
竜人というのは、竜の血を引いた偉大な亜人のことだ。人間とは比べられない力を持っていて、場所によっては神のように崇拝されているんだぞ……!」
「へ、へぇ……? アドルフさん、そういうのにも詳しいんですね……」
「鍛冶の世界では、いくつもの伝説が残されているからな……。
まぁ神器ほどのレベルではないが――
……って、そう考えると、アイナさんにとっては驚くところでもないのか……」
「えぇ……? 。その納得方法は、ちょっと……」
私が苦笑いをすると、アドルフさんは私を掴んだ手を慌てて放した。
「あ、すまん! つい興奮しちまって……。
…………よし、少しは落ち着いたぞ。戻ることにしよう!」
アドルフさんはそう言ってから、さらに深呼吸をして、私と一緒に元いた場所へと戻った。
「――申し訳ございません。アイナさんと少し話をしておりまして……」
「何の何の、問題はないぞ。
その様子から察するに、アイナから聞いたのであろう?
妾は光竜王ヴェセルグラード・ゼルゲイドが転生体、グリゼルダである。末永くよろしくな」
「ちょっ!?」
「む?」
突然グリゼルダがアドルフさんに正体を明かしてしまった。
それってかなり重要な秘密なのでは――
「は……? 光竜王……?」
「……グリゼルダ? そこまでは話してないですよ……?」
「何と!?」
私の言葉に、驚きの顔を見せるグリゼルダ。
その横でアドルフさんは、へなへなとしゃがみ込んでしまった。
「おじいちゃん、だいじょーぶ?」
「……あ、ああ……。いやぁ、歳も重ねてみるもんだなぁ……?」
「す、すいません、アドルフさん。
詳しい話は落ち着いてから、そのうちしますね……!」
「た、頼むわ……。
……グリゼルダ様、こんな格好で申し訳ないです。こちらこそ、よろしくお願いいたします……」
「うむ、突然に済まなかったな。
まぁ人生は長いのじゃ。たまにはこんなこともあろうて。な?」
――グリゼルダが光竜王様だなんて言われても、普通の人はまず信じないだろう。
しかしアドルフさんは、私がいろいろしでかしたことをよく知ってるから……きっと、素直に信じてしまうんだろうなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アドルフさんを立ち上がらせてから、改めて今日の用件を伝えることにする。
今日の用件とは、今晩行う歓迎会のことだ。
「――それで、ですね。
最近人が増えたので、今日の夜に歓迎会をしようと思うんですよ。アドルフさん、ご都合はいかがですか?」
「おお、それは良いな。……しかし、急じゃないか?」
「グリゼルダが昨日来たので、それに合わせて……って感じなんです。
メイドさんたちも張り切っちゃって」
「なるほど。急だから手土産も用意できないが、参加させてもらうよ」
「はい、是非!」
「――ときにアドルフよ。ずいぶんと疲れておるようじゃが、身体は労わるようにな?
お主もアイナの仲間なんじゃろう?」
「アドルフさんは、アゼルラディアの大元を作ってくれた方なんですよ」
「ほう……! 昨日ルークに見せてもらったが、アレを作ったのはお主だったのか。
見事な腕を持っておるのう!」
「あ、ありがとうございますっ!!!!」
グリゼルダの言葉に、アドルフさんは引き続き畏まった。
「それで、アドルフさんには次の神器にする杖を作ってもらっているんです。
そのせいで疲れさせてしまっているのですが……」
「……ふむ? そんなに難しいことをさせておるのか?」
「魔石スロットを5個付けたいって、譲らないんですよ……」
「神器に魔石スロットか。
確かにアゼルラディアにもあったのう……。職人のこだわり、というやつじゃな」
「はい、その通りです……。
しかしなかなか上手くいかず……」
そう言ってから、アドルフさんは深い溜息をついた。
そもそも魔石スロットを5個付けること自体が難しいのだ。
仮に成功するのが1%の確率だとしても、100本作ったところで100%には届かない計算になるわけだから――
「それならば、妾が力を貸すことにしよう。
魔石スロット程度の支援ならば、1回くらいは余裕じゃろうて」
「えぇっ!? グリゼルダ様にはそのようなお力が……!?」
「うむ。次なる神器と聞いては、助けぬわけにはいかぬじゃろう。
ただし、その礼はしてもらうぞ?」
「も、もちろんです! 杖のことがなくても、グリゼルダ様のご用命とあれば!!」
……アドルフさん、完全にグリゼルダを崇拝するモードになってない?
いや、実際に光竜王様なんだから、それはそれで問題ないんだけど……。
「それでは妾用の武器を作ってはくれぬか?
この外見なら、鉄扇のようなものが良いかのう」
「あー……、確かに。着物に似合いそうですよね」
「そうじゃろ、そうじゃろ?
素材はアイナに提供してもらうが故、お主は全力を以て作るように」
「ははーっ!!」
「……って、素材は私持ちなんですか……」
「何を言う、神器作成を手伝うのだから当然じゃろう?」
た、確かに……!
そう言われてみれば、まったくその通りではある……!
「わ、分かりました。えっと、何を渡せば良いのでしょう」
「アゼルラディアを見るに、アドルフは魔法剣に通じておるのじゃろう?
ならばミスリルじゃな。妾の魔力を注ぎ込んで切れ味を増す……そんな武器はどうじゃ?」
「大変良いかと思います!」
「かっこいいのー!」
グリゼルダの言葉に、アドルフさんとリリーは絶賛した。
何だかもう断れない雰囲気ではあるけど――でも味方の戦力になるのであれば、提供すること自体は何も問題は無いか。
……それにしても、要求されたのがオリハルコンじゃなくて本当に良かった……。
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