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「――うん? アイナよ、出掛けるのか?」
外出の準備をしていると、グリゼルダから声を掛けられた。
「今晩みんなの歓迎会を開くんですけど、鍛冶場で働いている仲間を誘いに行くんですよ」
「ほう、歓迎会とな。ふふふ、人間にはそのような催し物があって、楽しいのう」
「メイドさんたちが美味しいお料理作ってくれますから、楽しみにしていてくださいね!」
「……ふむ、屋敷のことをしながら、さらにあの者たちが食事を作っているのか。
天晴な連中じゃのう」
グリゼルダは感心しながらそう言った。
それ、クラリスさんが聞いたら絶対に喜ぶだろうなぁ。
「是非、本人たちに言ってあげてください」
「承知した。
ときに、その鍛冶屋には誰が行くのじゃ? 何なら、妾がアイナの身を護ってやるぞ?」
「え……? いやいや、さすがにそれは畏れ多いですよ!」
街中を少し移動するだけで、光竜王様から護ってもらうだなんて。
さすがにそんなことは、神様くらいしか許されないだろう。
「ああ、いやいや。妾も武器が欲しくてのう。
お主の身を護るのはそのついで……というところじゃな」
「な、なるほど……。
それではルークとエミリアさんにはお休みしてもらって、今日はグリゼルダにお願いしますか」
「うむ。特にルークは、疲労が蓄積しておるじゃろう?
いやさ、アゼルラディアが癒しておるとは言え、ときには時間も必要じゃろうて」
「分かりました。あとは――」
「後ろにおるリリーで十分ではないか? お主のことをじっと見ておるぞ?」
その言葉に後ろを振り向いてみると、確かにリリーがこちらをじっと見ていた。
いつもなら率先して声を掛けてくるのに、グリゼルダに配慮していたのだろうか。
「はい、それではそうしましょうか。
リリーも行くよね?」
「はーい! 行くのー!」
元気良く答えるリリーと、それを微笑ましく見つめるグリゼルダ。
ちょっと珍しい組み合わせだけど、たまにはこう言うのも面白いかもしれない……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちはー」
「いっ、いらっしゃいませ! ままま魔女様っ、少々お待ちをっ!!」
お店に入ると、店員さんが挨拶をしてから速攻で奥に引っ込んだ。
……何と言うか、ずいぶんと苦手意識を持たれてしまったものだ。
「なんじゃ? あれは……」
「あはは、何だか……何でしょうね?」
少し間が持たない感じでそのまま待っていると、アドルフさんがふらふらとしながら現れた。
「……いらっしゃい、アイナさん。
リリーちゃんも元気かい? えっと、それと――」
「妾はグリゼルダと言う。よろしくな」
「はっ、はいっ!!!!!!」
グリゼルダが挨拶をすると、アドルフさんはめちゃくちゃ畏まってしまった。
「え? アドルフさん、一体どうしたんですか?」
そう言う私の手を掴んで、アドルフさんはお店の隅に連れていく。
「おいおい、あの方はまさか竜人様か!?
何だってそんな方がアイナさんのところに!?」
「ふぇ……。竜人様って何ですか……?」
「えっ、あれっ!? もしかして、違うのか?
竜人というのは、竜の血を引いた偉大な亜人のことだ。人間とは比べられない力を持っていて、場所によっては神のように崇拝されているんだぞ……!」
「へ、へぇ……? アドルフさん、そういうのにも詳しいんですね……」
「鍛冶の世界では、いくつもの伝説が残されているからな……。
まぁ神器ほどのレベルではないが――
……って、そう考えると、アイナさんにとっては驚くところでもないのか……」
「えぇ……? 。その納得方法は、ちょっと……」
私が苦笑いをすると、アドルフさんは私を掴んだ手を慌てて放した。
「あ、すまん! つい興奮しちまって……。
…………よし、少しは落ち着いたぞ。戻ることにしよう!」
アドルフさんはそう言ってから、さらに深呼吸をして、私と一緒に元いた場所へと戻った。
「――申し訳ございません。アイナさんと少し話をしておりまして……」
「何の何の、問題はないぞ。
その様子から察するに、アイナから聞いたのであろう?
妾は光竜王ヴェセルグラード・ゼルゲイドが転生体、グリゼルダである。末永くよろしくな」
「ちょっ!?」
「む?」
突然グリゼルダがアドルフさんに正体を明かしてしまった。
それってかなり重要な秘密なのでは――
「は……? 光竜王……?」
「……グリゼルダ? そこまでは話してないですよ……?」
「何と!?」
私の言葉に、驚きの顔を見せるグリゼルダ。
その横でアドルフさんは、へなへなとしゃがみ込んでしまった。
「おじいちゃん、だいじょーぶ?」
「……あ、ああ……。いやぁ、歳も重ねてみるもんだなぁ……?」
「す、すいません、アドルフさん。
詳しい話は落ち着いてから、そのうちしますね……!」
「た、頼むわ……。
……グリゼルダ様、こんな格好で申し訳ないです。こちらこそ、よろしくお願いいたします……」
「うむ、突然に済まなかったな。
まぁ人生は長いのじゃ。たまにはこんなこともあろうて。な?」
――グリゼルダが光竜王様だなんて言われても、普通の人はまず信じないだろう。
しかしアドルフさんは、私がいろいろしでかしたことをよく知ってるから……きっと、素直に信じてしまうんだろうなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アドルフさんを立ち上がらせてから、改めて今日の用件を伝えることにする。
今日の用件とは、今晩行う歓迎会のことだ。
「――それで、ですね。
最近人が増えたので、今日の夜に歓迎会をしようと思うんですよ。アドルフさん、ご都合はいかがですか?」
「おお、それは良いな。……しかし、急じゃないか?」
「グリゼルダが昨日来たので、それに合わせて……って感じなんです。
メイドさんたちも張り切っちゃって」
「なるほど。急だから手土産も用意できないが、参加させてもらうよ」
「はい、是非!」
「――ときにアドルフよ。ずいぶんと疲れておるようじゃが、身体は労わるようにな?
お主もアイナの仲間なんじゃろう?」
「アドルフさんは、アゼルラディアの大元を作ってくれた方なんですよ」
「ほう……! 昨日ルークに見せてもらったが、アレを作ったのはお主だったのか。
見事な腕を持っておるのう!」
「あ、ありがとうございますっ!!!!」
グリゼルダの言葉に、アドルフさんは引き続き畏まった。
「それで、アドルフさんには次の神器にする杖を作ってもらっているんです。
そのせいで疲れさせてしまっているのですが……」
「……ふむ? そんなに難しいことをさせておるのか?」
「魔石スロットを5個付けたいって、譲らないんですよ……」
「神器に魔石スロットか。
確かにアゼルラディアにもあったのう……。職人のこだわり、というやつじゃな」
「はい、その通りです……。
しかしなかなか上手くいかず……」
そう言ってから、アドルフさんは深い溜息をついた。
そもそも魔石スロットを5個付けること自体が難しいのだ。
仮に成功するのが1%の確率だとしても、100本作ったところで100%には届かない計算になるわけだから――
「それならば、妾が力を貸すことにしよう。
魔石スロット程度の支援ならば、1回くらいは余裕じゃろうて」
「えぇっ!? グリゼルダ様にはそのようなお力が……!?」
「うむ。次なる神器と聞いては、助けぬわけにはいかぬじゃろう。
ただし、その礼はしてもらうぞ?」
「も、もちろんです! 杖のことがなくても、グリゼルダ様のご用命とあれば!!」
……アドルフさん、完全にグリゼルダを崇拝するモードになってない?
いや、実際に光竜王様なんだから、それはそれで問題ないんだけど……。
「それでは妾用の武器を作ってはくれぬか?
この外見なら、鉄扇のようなものが良いかのう」
「あー……、確かに。着物に似合いそうですよね」
「そうじゃろ、そうじゃろ?
素材はアイナに提供してもらうが故、お主は全力を以て作るように」
「ははーっ!!」
「……って、素材は私持ちなんですか……」
「何を言う、神器作成を手伝うのだから当然じゃろう?」
た、確かに……!
そう言われてみれば、まったくその通りではある……!
「わ、分かりました。えっと、何を渡せば良いのでしょう」
「アゼルラディアを見るに、アドルフは魔法剣に通じておるのじゃろう?
ならばミスリルじゃな。妾の魔力を注ぎ込んで切れ味を増す……そんな武器はどうじゃ?」
「大変良いかと思います!」
「かっこいいのー!」
グリゼルダの言葉に、アドルフさんとリリーは絶賛した。
何だかもう断れない雰囲気ではあるけど――でも味方の戦力になるのであれば、提供すること自体は何も問題は無いか。
……それにしても、要求されたのがオリハルコンじゃなくて本当に良かった……。