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「それって、どういう事かしら?」
突然の勧誘に戸惑いながらもマーサは問い掛ける。
「そのままの意味です。初めてお会いした時からマーサさんのことを私の大切なものにしたいと思っていたんです」
シャーリィはハッキリと答えた。
「あら、私が欲しいの?」
「そうです。状況次第では残念ながら『ターラン商会』を潰さなければいけなくなります。ですが、貴女や『暁』に好意的な方々まで手に掛けるつもりは一切ありません」
「貴女、私に向かって『ターラン商会』を潰すとか、良くハッキリと言えるわね?」
呆れながら言葉を溢すマーサ。
「今のお話を伺う限り、どうにもならない可能性があります。一部が暴発したとして、それでうちに被害が出たら私は容赦しません。で、暴発した人達を潰せば終わりとはいかないでしょう」
「先に仕掛けたとは言え、シャーリィは敵対者に容赦がありません。それはマーサもよく知っている筈です。そしてそれを知らない他の様子見をしていた不満分子はどの様な行動をするか」
カテリナの言葉にマーサは項垂れる。
「今度は自分達の番だと勘違いして、潰される前に潰そうと躍起になるでしょうね」
「私の大切なものを脅かすならそれは敵です。誰だろうと容赦はしません」
シャーリィに断言されるほど『暁』の武力は高く『ターラン商会』には抗争で勝ち目はない。
「でもそうなったらシャーリィも困るでしょう?」
「取引が大幅に減るので困りますね。出きるならばこれからも『ターラン商会』とは良好な関係を維持していきたいと思いますが、その時は仕方がありません」
「シャーリィは『オータムリゾート』、『海狼の牙』、『ライデン社』そして密輸まで手を伸ばしています。一時的な減収にはなっても直ぐに取り戻せるでしょうね」
「『オータムリゾート』と『ライデン社』は初耳よ。いつの間に友好関係になったの?」
「エルダス・ファミリーとのいざこざで色々ありまして」
「そう……」
「マーサさん、『ターラン商会』を大きくしたのは貴女です。例え『ターラン商会』の看板を失っても、貴女の商才があればそれ以上の成果を挙げられる筈。その時はその力を貸してください。私の大切なものになってください」
「随分と買ってくれてるのね、シャーリィ」
「小さな頃からお世話になっていますからね。どうですか?」
「分かったわ。私も頑張って抑えてみるけど、無理な時は私について来てくれる人達を連れてお世話になるわ」
「ありがとうございます」
「あっさりと決めましたね?マーサ。自分の作り上げた組織を失うのですよ?」
「長命種族を舐めないで頂戴、カテリナ。こんなことは何度もあったわ。それに、シャーリィの行く末を傍で見届けるのも悪くないもの」
「ご期待に添えるように頑張ります、マーサさん」
「頑張りすぎないようにしなさい、シャーリィ。マーサを引かせないように」
「失礼な、私は問題児ではありません」
「見ていて飽きないのは確かだけれどね?」
マーサは笑う。久しぶりに重荷から解放されたような心地であった。『ターラン商会』が大きくなるに連れて自由が減り、辟易としていた。それに、人間社会で組織経営を行う限界を感じていたのも事実なのだ。
「時に、マーサさん。少し調べたと言いましたが襲撃の犯人を知りませんか?」
「残念だけど、詳しくは分からないわよ。紅い服を着ていたくらいしか分からないわ」
「うちと同じですね。となればやはりエルダス・ファミリーですか」
「順当に考えればエルダス・ファミリーでしょうね。ですな、気になることがあります」
「何よ?カテリナ」
「エルダス・ファミリーは現在組織の建て直しの真っ最中ですよ?復讐を仕掛けるにしても早すぎます。そんな余裕があると思えませんが」
カテリナは疑問を口にする。
「確かにそうね。でも、エルダス・ファミリーは武闘派集団よ。難しいこと考えずに動いたとしても不思議じゃないわ」
「ふむ……ん?シャーリィ?」
「ふにゃー……」
視線の先には目を回したシャーリィが居た。
「あらら、逆上せちゃったみたいね」
「では上がりますか。マーサ、手伝ってください」
「はいはい、世話の焼けるボスだ事」
二人はシャーリィを抱えて風呂を後にするのだった。
~シェルドハーフェン某所~
薄暗い地下のワイン倉庫で男達の密談が行われていた。
「星金貨十枚とは破格ですな」
男は相手から提示された褒賞金を見て笑みを深める。星金貨十枚などとてつもない大金なのだ。
「ええ、我が主は気前の良さが売りですので。これはあくまでも前金であると考えていただきたい」
使者と思われる男は更なる報酬を仄めかす。
「それはそれは。では、更なる働きを期待していただきたい。必ずやご期待に添えるようにするとお伝えくださいな」
「無論です。手段は問いません。新興勢力『暁』の殲滅、我が主が望むのはそれのみです」
「お任せを」
使者が退室して、二人の男のみが残る。
「随分と上手い話ですな、ボス。このまま関係を続けても良いんですかね?」
「なぁに、構わんさ。うちが直接手を出す訳じゃない。『血塗られた戦旗』に今回の前金から星金貨二枚をくれてやれ」
「気前が良いじゃないですか、ボス」
「それで気合いが入るだろうさ。それに、願ってもないことじゃないか。三年前に飲まされた煮え湯を倍にして返せる」
「そうですな、お陰でお得意様と大事なシノギを潰されましたからなぁ」
「『蒼き怪鳥』はどうなっている?」
「三年前に負けてから、見るも無惨なことになっていますよ。今じゃ小さな店を構えているだけです」
三年前『暁』と抗争して大敗した商人ギルド『蒼き怪鳥』は凋落の一途を辿っていた。
「ならボルガ会長にも声をかけてやれ。怨みを晴らす機会があるなら飛び付いてくるだろう」
「ボスも人が悪い、仕向けたのはボスでしょうに」
「当て馬になってくれた礼をするだけだよ。『暁』は予想以上に強大になりつつある。今を逃せば手をつけられなくなる可能性があるからねぇ。今回の件は非常にありがたい」
「そうですな、せいぜい皆には頑張って貰いたいものです」
「うむ、私はそれを見物するだけさ。さあ、お嬢さん。君は乗り越えられるかな?」
男の名はマラソン。闇商人『闇鴉』の会長であり、三年前『蒼き怪鳥』を焚き付けて『暁』を襲わせた張本人である。
暗黒街で『暁』を中心とした暗躍が激しさを増しつつあった。