コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。マーサさん達とお風呂で有意義なお話が出来ましたが、不甲斐ないことに逆上せてしまってシスターとマーサさんの二人に介抱されると言う醜態を晒してしまいました。長風呂は危ない。また一つ賢くなりました。
マーサさんの微笑ましいものを見るような、優しい目線を受けて気まずい想いをしましたが。不覚です。
さてマーサさん来訪の翌日、情報屋のラメルさんが中間報告として農園を訪ねてきたので、教会の応接室で会うことにしました。もちろんベルが護衛として同席します。
「御苦労様です、ラメルさん」
ソファーの向かいに座るラメルさんを労います。
「別に苦労はしてないさ。途中経過になるが、聞いてくれるか?」
「もちろんです」
何よりも知りたいことですからね。
「まあ、大方の予想通りエルダス・ファミリーが怪しい動きを見せている。なけなしの金をばら蒔いて武器を買いながら戦闘員を集めてるな」
「やっぱりエルダス・ファミリーでしたか」
では、十六番街が戦場になりますね。
「だがな、話はそれだけじゃないんだ。十六番街に乗り込んで調べてみたんだが、状況はもう少し複雑だ」
「と言いますと?」
複雑?
「最近エルダス・ファミリーの事務所が幾つか襲撃を受けてるって話は聞いたことがあるか?」
「はい、お義姉様から情報提供がありましたけど」
『血塗られた戦旗』による犯行でしたっけ。
「『オータムリゾート』からか、なら話は早い。手口から見て下手人は十五番街を仕切る『血塗られた戦旗』だろう。だがそれだけじゃない。エルダス・ファミリーが持ってた工場が一つ吹き飛ばされてな。そこに『暁』の紋章が幾つも落ちてたそうだ」
「……は?」
うちの紋章が?
「待てよ、ラメルの旦那。それだと連中は」
「ああ、ベルモンドの旦那の予想通りだ。連中は『暁』の仕業だって大騒ぎだ。で、嬢ちゃん。エルダス・ファミリーにちょっかい掛けたりしてねぇよな?」
「当たり前です。振りかかる火の粉を振り払っただけですよ。少しばかり派手にやりましたが、それから攻撃命令を出した覚えはありません」
「一部の暴発は?」
「工場を爆破するくらいの爆薬を持ち出すことは不可能です。うちは厳正に管理していますから」
マクベスさんが目を光らせていますからね。
「そうか。そうなると、事態が複雑になってくるだろ?」
「何者かが『暁』とエルダス・ファミリーの衝突を煽ってる?」
「そうだ。俺はその線で調べるつもりだが、相手次第じゃ厄介なことになるぞ」
「けどよ、うちだけに牙を剥くのか?『血塗られた戦旗』からもやられてるんだろ」
「エルダス・ファミリーと『血塗られた戦旗』は長いこと抗争してるからな。新参の『暁』がちょっかいを掛けてきたって怒ってるのさ」
「理不尽な話ですね。先に仕掛けてきたのはエルダス・ファミリー何ですよ」
「連中からすれば、簡単な相手だって舐めてたら恥をかかされた上に派手なしっぺ返しを食らった。で、その新参の『暁』は調子に乗ってちょっかいをかけてきたって事になる」
「改めてこの街の流儀を想い知らされた気分ですよ。どこまでも理不尽、食うか食われるかですね」
「まさに弱肉強食だな、お嬢」
「そんなわけで、奴らは仕掛けてくるぞ」
「うちに仕掛けたら『海狼の牙』や『オータムリゾート』を敵に回す事になると理解できないのでしょうか?」
「普通なら仕掛けないさ。だがエルダス・ファミリーは落ち目だ。ここらで挽回しないと『血塗られた戦旗』に食い潰される」
「ああ、そう言うことですか。つまりうちは舐められていると」
「『血塗られた戦旗』とやり合うより楽だと見てるだろうな」
「そうですか」
非常に不愉快ですね。舐められた結果がこれですか。誰かの策謀に乗せられるのは不快ですが、エルダス・ファミリーとは何れ決着をつけることになってましたし、予定を繰り上げるだけです。
「お嬢、どうするんだ?」
「ラメルさんは背後関係を調べてください。必要なものは可能な限り用意します。うちは、エルダス・ファミリーを潰します」
「しばらく時間を貰うぞ」
「構いません。エルダス・ファミリーの次は黒幕を始末します。相手がどんなに強大であろうと、必ず。ベル、活躍の機会がありますよ」
「やれやれ、ダンジョンの次は抗争か。暇しないな。お嬢」
「全くです」
こんなに忙しいと、ルイと気軽にデートにも行けないじゃないですか。
「ああ、ダンジョン騒ぎがあったな。そっちは大丈夫なのか?」
「ダンジョンの主を師として仰ぐことに成りました」
「……は?」
ラメルさんが硬直していますね。はて、変なことを言いましたっけ?
「訳わかんねぇだろ?旦那。でも事実なんだよ」
「おっ、おう。流石に手に余るな。聞かなかったことにする」
「それが良いさ」
「私、変なこと言いました?」
「おい、ベルモンドの旦那。首傾げて不思議そうにしてるぞ?」
「あれがお嬢なんだよ。常識外れの事をしたって自覚がないのさ」
「なるほどなぁ」
「はて?……あっ、そうです。ラメルさん。うちにダンジョンが現れたって話は広がってますか?」
「いや?秘密にしたんだろ?知ってるのは『暁』と関わりが深い連中だけだな」
「それなら、十六番街で情報を流布してください。ダンジョンが現れてその対応で手一杯だと」
「偽の情報を掴ませるんだな?」
「そうです。上手く行けば、黒幕もその情報を信じて尻尾を見せるかも」
「悪どいやり方だな、嬢ちゃん。任せとけ」
「相手に侮らせるのが好きだよな、お嬢」
「その方が楽ですから。覚悟を決めた相手より、こちらを舐めている相手の方が対処も簡単なんですよね」
それに、謀略には謀略をです。ダンジョンについては、冒険者ギルドへ正式に申請しましたから調べれば嘘じゃないことも分かる。となれば偽情報の信憑性が上がりますから信じる筈です。
「まっ、気を付けろよ。嬢ちゃんは金払いの良い上客なんだ。まだまだ長生きしてくれねぇとな」
「もちろん、まだ死ぬつもりはありません。それに、二度も不覚は取りません。エルダス・ファミリーを潰します」
エルダス・ファミリーとの抗争を覚悟したシャーリィは、『海狼の牙』、『オータムリゾート』へ協力を要請。どちらも二つ返事で了承。
ただし、『ターラン商会』は一部の幹部連が暗躍しており、そちらもマーサとの取り決めに従って対応する事を決した。
何者かによる策謀に敢えて乗ることで、シャーリィはエルダス・ファミリーとの決着をつけようとしていた。