テラーノベル
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少年時代の記憶と言えば夏休みに冬休み、海にプール、クリスマスにお正月……大抵決まってそんなものだ。ビッグイベントは楽しかったことを基調としている。
特に印象に残っているのは、家族で出掛けた旅行や行事。家族との繋がりが大きかった。
一番奥底に仕舞っている記憶は、昔はよく帰っていた父の実家。優しい祖父母が軒先に見えた、山と海に挟まれた何もない町。夕暮れ時には稲穂がオレンジ色に染まって、夜はカエルの鳴き声がよく聞こえた。
そして夜には……あの満天の星空が。
「さぁ准さん! いよいよお待ちかね、ジェットコースターに乗りましょう」
「あ、あぁ。行くか」
涼に手を引かれ、ハッとした。目の前には見上げないとどれだけ高いか分からないジェットコースターがあり、乗ってる人達の叫び声が聞こえる。
あれ……?
不安じゃないといえば嘘になるが、隣で眼を輝かせている涼の手前、「怖いから無理」とは言えない。准は深呼吸し、意を決して乗り場に向かった。
その、約三十分後。
「うえぇぇぇぇ……気持ち悪っ!!」
ジェットコースターから降り、トイレに直行して吐いていた。涼が。
「大丈夫か? お前、俺より絶叫系だめだったんだな。なのに何であんな意気揚々と乗ったんだよ」
今もリバース中の涼に、准はドア越しで尋ねる。
水の流れる音がした後、鈍い音を立ててドアが開いた。
「せっかく准さんと来たから、どうしても乗ってみたかったんです……」
涼の顔は生気がない。死人のように真っ青だ。
「しょうがないなぁ」
子どもみたいで呆れるけど、実際子どもと変わらない。
だけど彼の言葉に嬉しく感じてる自分も、大概子どもだ。
ようやく涼が落ち着いた為、准は彼を連れて近くのベンチに座った。……これはデートになってるんだろうか。現時点で、めちゃくちゃ疲れた。涼を介抱することに。
「ほら、水飲みな」
「ありがとうございます。ちょっとハメ外し過ぎましたね。すみません」
涼はハンカチで口元を押さえながら、大きなため息をついた。
「准さんと来てるんだと思ったら尚さら……楽しくって、舞い上がっちゃって」
「……」
だから今にも吐きそうな顔で、そういう嬉しいことを言わないでほしいんだけど。……まぁしょうがないか。
今日の俺達に、デートらしい雰囲気なんてあったもんじゃない。
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