テラーノベル
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時間が過ぎるのは怖いぐらい早くて、気付けばもう陽が傾きかけていた。赤い夕焼け空に目が痛くなる。
アトラクションから園内の建物等、一気にライトアップされ雰囲気はがらりと変わった。ここからは特に、カップルが楽しい時間帯だ。
「涼、少しは落ち着いた?」
「はい、おかげさまで。今世紀最大の吐き気を乗り越えました」
とりあえず山場をこえたらしい。ホッとした後、涼の肩を支えて抱き起こした。
「じゃあせっかくだし、最後にあれ乗るか」
准が一番目を引く巨大な観覧車を指差すと、涼はパッと笑顔を取り戻して何度も頷いた。
「観覧車! 良いですねー! 乗りましょう!」
さっきまでホラー映画に出れそうな蒼白い顔だったのに、驚くほどの変わりようだ。でも、元気になったみたいで良かった。
少し並んだ後スタッフに案内されてゴンドラに乗り込んだ。静かに、ゆっくり上昇するさまを中から眺める。風が強いのか、ゴンドラは結構揺れた。
「見て見て准さん、すごいイルミネーション! これぞやっぱり冬の醍醐味ですよね! カップルが多くて目が痛いです! あっはは!」
「お前……ちょっと元気になり過ぎ。確かに綺麗だけど」
チラッと景色を見渡して、准は膝に頬杖をついた。いつの間にかすっかり空は青紫に、一日の終わりを告げるような色へと変わっている。
遊園地自体来たのが久しぶりだし、観覧車に乗ったのも本当に久しぶりだ。男二人の客はあまりいないけど、たまにはいいな、と思った。
「准さんもお水飲みます?」
「いや、俺はいい」
涼はペットボトルの水を飲んだ後、蓋をゆっくり回して閉めた。
「でも、本当に綺麗。人工的な物なのに、見下ろしてる物なのに……キラキラ光って、星みたいですね」
「……!」
思わず息をのんだ。理由は分からない。眩い景色に同化している彼に眼を奪われたせいかもしれない。
「涼……今日はどうだった?」
「すごく楽しかったです! 本当にありがとうございます!」
向かい合って、涼は准に頭を下げた。そして顔を上げると同時に、震える声で言葉を発した。
「もう、思い残すこともありません。だから准さん、今度は……俺なんかとじゃなくて、素敵な恋人と来てくださいね」
明るい笑顔。その目元で光る、僅かな雫。
それを見た時に、考えるより先に身体が動いて……涼を押し倒していた。
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