リヨクはふと疑問に思い「なんでユウマなの?」と軽く聞いた。
「なんとなく。なんか癖で言っちゃったんだ」とユウマは平然と答えたが、その目には一瞬、暗い影が浮かんだ。
リヨクはその微妙な変化を感じ取り、それ以上聞くのをやめた。
──その後、リヨクとオウエンは、これまで通り「ユウマ」と呼ぶことに決めた。
「ほんとにタイシって呼ばなくていいのか?」
オウエンがユウマに聞いた。
「うん、ユウマでいい。後で先生にもユウマって呼んでって言うし」
──適性を記録した紙を配り終えた先生が話し出した。
「全員紙を受け取りましたね? ──では、この紙に書かれている3つのレベルについて説明します。
入門レベル=扱いやすい。熟練レベル=扱いがやや難しい。高等レベル=扱いが難しい。と言った見方です。
この2枚の紙はこれから3年間、実践の授業で必要になりますので、無くさずに持っていてください。
適性植物がわかりましたので、明日からは本格的に植物術の実践を始めていく予定です。
──それでは、植物学植物術実践を終わります。次の授業は16時から。石学 生態と接し方です。参加する方は遅れないように」
授業が終わるとオウエンは、「おれ、ちょっと寝る」と言い教室の芝生に横になり、すぐにイビキをかきながら寝た。
リヨクとユウマは「わかった」と言い、旧楽園の子たちがワーワーと盛り上がっている、葉っぱの掲示板を見に行った。
──そこには別の学校で開催されたバトル大会「ポァ」についての記事が貼られていた。
〝【特報】天才少年ルウフ、「風の学舎」「毒の学舎」「匂の学舎」が共同し開催したバトル大会「ポァ」で圧倒的勝利!
寒冷地より、一大ニュースが飛び込んできた。合同で開催されたバトル大会「ポァ」で、天才少年ルウフが見事優勝を飾ったのだ。128名の強者たちを打ち破り、最終的にベスト8に残った選手たちとの熱戦は、寒冷地全土から集まった観客たちを沸かせた。
決勝戦。ルウフくんの対戦相手は、同じ毒の学舎出身で共に無敗を誇る「トクくん」。開始前は互いに拮抗していると思われていたが、一旦戦いが始まると、ルウフくんとの圧倒的な実力の差が明らかになった。
空中でキラリとなびく白金の髪。氷の矢と花の矢を巧みに使い分け放つ姿は、まさに芸術の域。
トクくんが得意とする毒技を繰り出す前に、ルウフくんは見事勝利を手にした。
音の大学舎と太陽の軍、両方からの熱い視線―大会終了後、天才少年ルウフへの入学勧誘やスカウトの話が飛び交っている。彼の才能は、今や広く注目の的となっており、彼を打ち破る者が現れるかどうか、次の戦いに世間の期待が集まっている。ルウフくんは、これからも多くの人々の関心を引きつけ続けることだろう。”
──旧楽園の子たちの会話
──「いーなー、音の大学舎に入学できるんだぁ」
「わたしは石の大学舎にいくつもりだから、全然うらやましいなんて思わない」
──「ぼくらは『ポァ』いつだっけ?
「11月から2月までだったと思う。他の学舎と比べて遅いよね」
──「このルウフって子にシユラくん勝てる?」
坊主頭の子が掲示板を見ながらシユラに聞いた。
「ん? あたりまえだろ、おまえは、おれが勝てないと思ってるのか?」
シユラは、坊主頭の子の胸ぐらを掴み言った。
「え、ごめんっ」
「あやまるって事は、そう思っていたんだな? ……フブノーイ生まれの庶民に、おれが負けるって?」
「ちがうよっ、聞いてみただけだって、シユラくんが負けるわけないよ」
坊主頭の子は、シユラにビビりながら答えた。
「んーでもこいつ、全試合一分以内で倒してるし、シユラでもやばいんじゃないかなぁ」
眠そうな目をした少年が薄らと笑いながら言った。
「相手が弱かっただけだ」と言いながらシユラは、坊主頭の子を掴む手を、勢いよく離した。
──16時になり、石学 生態と接し方の授業が始まった。
「さて、植物学の授業は終わりました。
続いて、石学と獣学を学んでいきますが、この学舎は植物に特化しているため、石と獣については基本的なことしか教えません。
これには、この星の特徴が関係しており、この世界には3つの国が存在し、それぞれが異なる専門分野を持っています」
──メヒワ先生は、黒板代わりの大きな葉っぱの葉脈を動かし、文字を浮かび上がらせると、話しを続けた。
「緑の国は植物を、石の国は石を、獣の国は獣を主に扱います。
そのため、私たちのいる緑の国では、石や獣に関して深く学ぶよりも、植物に注力してもらいたいと考えています。
ですが、基本を把握しておけば、植物学にも役立ちますし、石や獣に興味を持つきっかけになるかもしれません。
また、4年生になれば、石や獣に特化した別の学校への転校も選択できます。
役に立つ知識を得たり、新たな才能を発見するためにも、これらの科目をこれからも学んでいくことをオススメします
──それでは、石学を学んでいきましょう。自然の生態と接し方31ページを開いてください」
リヨクは31ページを開いた。
そこには、2つの石の絵が描かれていた。
一つは石を中心に内側に向く矢印(→石)。
もう一つは石から外側へ向かう矢印(←石)。
──「この2つの石の絵は、押す力=押力と
引き寄せる力=引力を表した図です。
どちらも石が発生させるもので両方の力をうまく扱うことにより様々な力を発揮します。
──次のページを開いてください」
次のページには、①両手に持った石を合わせ、その2つの石の隙間から光が出て驚く人の絵が描かれていた。
この絵は合計4つの過程が描かれており、残りの絵は以下の通りだった。
②光った石が入った石臼の中に、手から液体をポトポトと垂らしている絵。
③石臼から剣を取り出し、満足そうに笑う人の絵。
④剣をハンマーで叩いたり研いだりしている人の絵。
──リヨクは、②の絵についてユウマと話し合っていた。
「これってなんだろーね」
リヨクは振り返り、後ろにいるユウマに、手から垂らしている液体の絵を指さして言った。
「血じゃね?」ユウマは笑いながら答えた。
「えっ……こわ」
──ユウマはメヒワ先生を見て、リヨクに前を向くように促した。
リヨクが前を向くと、メヒワ先生は再び話し出した。
「この絵は、剣を創生し、その剣を鍛治研ぎする流れが描かれています。
創生は、新しい物や形を生み出すという意味です。
石と石の間に[押力]と[引力]を発生させ、目に見えない速さで砕いて集めるを繰り返し、再び組み立てることで、まったく新しい物を生み出します。
[押力]と[引力]は鍛冶研ぎにも使われます。
──このように石術は、[押力]と[引力]を発生させる石を力使い、移動させたり、引き寄せたり、物を変形させたり、新たなもの生み出したりとさまざまな力があり、習得してうまく扱えば、植物術に劣らない力を発揮します。
──[押力]と[引力]を使い、今日は、オベリスクを作りましょう」