「……さん!葵可さんっ!」誰かが私を揺さぶる。視界がぼやけている為その人物が誰か分からない……だがその声ではっきりする。「空……烙……さん?」私が言うと彼女は少し微笑んで「良かった、やっと起きてくれました」と言った。私は思わず起き上がろうとしたが空烙さんに止められた。「まだ休んで下さい、まだ顔色が悪いですよ?」そう彼女に言われ大人しくベットに戻った。そして思い出した様に口を開く。「今……何時ですか……?」私が聞くと空烙さんが腕時計を見て言う。「午前の2時です」
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「2時……ですか……」私が呟くと空烙さんは「はい」と頷いた。私は起き上がってベットから出ようとする。すると空烙さんが「まだ休んで下さい!」と言って私を止める。「でも、もう大丈夫ですから……」そう言って私は立ち上がる。しかしその瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。そしてそのまま倒れてしまう。「葵可さんっ!」空烙さんの声が聞こえる。「あはは…何やってんだろ…私」私は思わず笑ってしまった。「葵可さん……」空烙さんは心配そうな表情で私を見ている。私は力無く笑うしか無かった。
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それからどれくらい経っただろうか?私は眠っていた様だ、目を覚ますと隣には空烙さんがいた。そして私の腕を見ると元に戻っていた。ふと時計を見ると2時半になっていた。「葵可さん、お目覚めですか?」そう空烙さんが聞いて来た。私は頷いて答える。「さっきはすみませんでした……いきなり倒れたりして……」私が謝ると彼女は微笑んで「大丈夫ですよ」と言った。そして続けて言った。
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その後私達は少し話してから別れた。そして私は自分の部屋に戻った。部屋に入った瞬間強烈な疲労感に襲われてベットに倒れてしまった。そしてそのまま眠ってしまった様だ。次に目を覚ましたのは午前7時だった。私は起きてシャワーを浴びる事にした。服を脱ぎ浴室に入る。そしてシャワーを浴びた。風呂から出るとドライヤーで髪を乾かす。そして朝食を食べる為にキッチンに向かった。冷蔵庫を開け適当に材料を取り出す、フライパンに油を敷きそこに卵を入れる。その間に玉葱を微塵切りにする。フライパンに火をかけ熱する。ある程度熱くなったら卵を入れ目玉焼きを作る。そして完成した物を皿に乗せる。次に食パンを取り出しトースターに入れる。2分程経つとパンが焼ける音がしたので取り出しバターを塗って食べる事にする。「頂きます」と一言言ってからパンを食べ始める。「うん、美味しい」思わず声に出てしまった。だがその言葉とは裏腹に私の心はズキズキと痛みを訴えていた……
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朝食を食べ終わり歯を磨き終える。時刻は午前11時になっていたので出かける事にした。いつもの様に白衣を着て外に出る。今日は何処へ行こうか?そう考えながら歩いていると不意に後ろから声をかけられる。「葵可さん!」振り向くと空烙さんがいた。私は少し微笑んで「こんにちは、空烙さん」と返す。「はい!こんにちはです!」空烙さんは元気良く挨拶をした。
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今日は『実験』が休みなので少し外を歩くことにした。特に目的地は無い。私は一人廃都を進む。歩いていると段々と『寂しさ』の感情が込み上げる。その時突然「柊 葵可さんですか?」背後から声をかけられる。私は振り返り答える。「ええ、そうですが…あなたは?」「警視庁捜査特別科の真紀です。」そう言いながら真紀さんは警察手帳を私に見せて来た。「それで私に何か用ですか?」私が聞くと彼女は一枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは……「『先生』?」私は思わず口に出す。「そうです、これは四年前の写真ですが……」彼女はそう答えた。「この写真がどうかしたんですか?」私が聞くと真紀さんは言った。「実はこの人物を追っていましてね…」
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その後私は彼女に連れられて近くの喫茶店に入った。そして注文を終えると早速本題に入る事にしたようだ。「それで、話とは何ですか?」私が問うと彼女は話し始めた。「彼は人体クローンの製造を行なっていましてね、原則人体クローンの製造は法律で禁止されていまして、私は彼を逮捕する為に来たのですが…何か心当たりは?」彼女は言った。「えっと…」私は『先生』について話そうとした瞬間、頭痛が襲った。「うっ……」私は思わず頭を押さえる。すると彼女は言った。「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど?」「すいません…少し頭痛が……」私は答える。すると真紀さんは「少し休みましょうか」と言って喫茶店を出た。
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私達は近くの公園に来ていた。ベンチに腰掛けて一息つく、その時、空烙さんが来た。「葵可さん。少し…」空烙さんはそう言い私の手を引く。「あの……どうかしましたか?」私が問うと彼女は答えた。
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一方 真紀目線
《真紀くん。情報は掴めたか?》無線に連絡が入る。「いいえ、事情聴取中の葵可さんを男が連れていき失敗しました。なお現在2人を尾行中です。」私が報告すると上官は「ご苦労、そのまま尾行を続けろ。決して見つかるな。」と言った。私は通信を切り再び尾行を始めた。
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「すいません。突然連れ出して…」空烙さんは申し訳無さそうに言う。私は「大丈夫ですよ」と言って微笑んだ。そして私達は近くの廃ビルに入る。中に入ると薄暗い空間が広がっていた。そして私達は階段を上り屋上に出る。空烙さんが言うにはこの廃ビルは昔、飲食店があったらしいのだが潰れてしまいそのまま放置されて現在に至っているそうだ。
「それで話ってなんですか?」私が聞くと空烙さんが口を開いた。「葵可さん、貴方これ以上『先生』に関わらない方が良いかもしれません。」空烙さんは真剣な眼差しで言う。「何故ですか?あの人は良い人ですよ?」私が問うと空烙さんは答える。「いいえ、あの人は犯罪者です」私は少し驚いた様な顔をしたがすぐに冷静になった。そして空烙さんは続けて言う。「それにあなたは『ヒト』では無いんですよ
」
「えっ?」私は思わず聞き返してしまった。空烙さんは続ける。「あなたは人造人間、つまりは『モノ』です」「私が……人造人間……?」私が呟くと彼女は続けて言う。
「はい、そうです。貴方は『ヒト』ではありません」「でも、どうしてそれを知っているんですか?」私は問う。すると彼女は少し微笑んで答えた。「それは……秘密ですよ」
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その後私は家に帰った。そして自分の部屋に入りベットに横になる。ふと時計を見るともう午後9時になっていた。「はぁ……」と思わず溜息が出る。そして私は今日、空烙さんに言われた事を思い出す。『貴方は人造人間です』という一言が私の心に深く突き刺さった。「そっか……私って……人造人間なんだ」そう呟いた瞬間涙が溢れてきた。
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次の日、私はいつも通りの時間に家を出た。昨日の出来事をあまり考えないようにしながら歩いていると後ろから声をかけられる。振り返るとそこには『先生』がいた。私は少し驚いてしまったがすぐに笑顔を作る。「おはようございます、先生」私が言うと彼も笑顔で挨拶を返してくれた。私達はそのまま並んで歩くことにした。しばらく沈黙が続いたが突然『先生』が言った。「空烙君から聞いたかい?」
「何をですか?」私が聞くと彼は続けて言う。「君は人造人間だという事を……」私は思わず立ち止まってしまう。すると彼は言った。「葵可くん……いや……柊 葵可さん?いや違うか……」彼はそう言って笑う。「私は……人造人間じゃ無い!」私が叫ぶと彼は言った。
「いいや、君は人造人間だ」そして私に近づいてくる。私は後ろに下がるが壁にぶつかりそれ以上下がれなくなる。彼は私の目の前に立つと言った。「さぁ、一緒に帰ろうか?」
「嫌っ!」私が叫ぶと同時に『先生』は私を抱きしめた。その瞬間、私の意識はプツリと途切れた……
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