テラーノベル
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「……玲於、俺だけ見てくれないなら」
一瞬の沈黙。俺はふい、と視線を逸らした。
「……俺、他で埋めるから」
精一杯の抵抗。
精一杯の強がりだ。
浮気を匂わせるような発言をして、少しでも彼を揺さぶりたかった。
余裕を奪いたかった。
けれど、玲於はくすりと鼻で笑った。
「ふっ……なにそれ浮気発言?…できないのに、可愛いこと言うね」
結局、いつものように彼の手のひらで転がされて終わる。
ぐうの音も出ずに「……お見通しってわけ?」と拗ねながら玲於の腕に自分の腕を絡めると
彼は俺の髪を優しく撫で、こめかみに愛おしそうな唇を落とした。
「……他の奴に愛想振りまいてても、唯一無二は霄くんだけだよ。わかった?」
その言葉に、俺の心は簡単に絆されてしまう。
悔しいけれど、俺は玲於がいなければ、この執着という名の酸素がなければダメなんだ。
でも、その一週間後。
俺の嫉妬はついに、決壊して限界を超えた。
また店に迎えに行った際
玲於が女性客に頼まれて、その頭をぽんぽんと優しく撫でているところを至近距離で目撃してしまったのだ。
玲於にしてみれば「だるいしさっさと終わらすためのサービス」だったのかもしれない。
実際、俺と目が合った瞬間の彼の目は、氷のように冷たく笑っていなかった。
けれど、俺にとっては決定的な嫉妬心の決壊だった。
俺にしか許されないはずの領域を、土足で踏み荒らされた気分だった。
翌日のデート
案の定、そのことで激しいプチ喧嘩になった。
「仕事って言えば何してもいいと思ってんの?頭撫でるとか、もうそれサービス超えてるだろ」
「だから、ただの営業だって言ってるじゃん。あんなの、ただの肉の塊を触ってるのと一緒だよ」
平行線の議論。
玲於の淡々とした態度が、さらに俺の感情を逆撫でする。
「もういい…そんなに客が大事なら、わ、別れるし……!」
口走った瞬間、世界の音が消えた気がした。
玲於の顔色から一切の温度が消え、怒りをぶつけるみたいに、俺の両肩をがっちりと掴まれた。
「……は? 今、なんて言った? 別れる? ……本気で言ってる?」
指先が肉に食い込むほどの、暴力的なまでの強い力。
玲於の初めて見る、底知れない執念と焦燥、そしてドロドロとした狂気に満ちた表情に、俺は息を呑んだ。
「……ほ、本気っていうか……」
後にも引けず戸惑っていると、玲於は俺を逃がさないように、さらに肩を掴む力を強めた。
ミシリと骨が鳴るんじゃないかと思うほど痛い。
玲於は震える声で、まくしたてるように言ってくる。
「霄くんがそんなこと、本気で言うわけない」
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