「そばに居てよ」の続編です。
そっちから読んだ方がいいかも
私は夜になると、決まってある場所へ行く。
そこは月の明かりが満ちていて、浅い水がそれをガラスのように反射して輝いている。
確かに綺麗だが、行く理由はそこじゃない。
彼が居るんだ。
もう、あそこにしか居ない。会えない。
でもそこから居なくなる事はない。
だから時間があれば、どれだけ寒くても、暗くても、絶対に行くようにしている。
あの白い翼を、澄んだ声を、月よりも美しい笑顔を、見るために。
「日帝」
『ナチ!』
水の上に座り込む後ろ姿に声を掛けると、嬉しそうに振り向き駆け寄ってくる。
ああ、やっぱり愛おしい。
「元気だったか?」
『ああ。ナチは…また隈が増えたんじゃないのか?』
顔を覗き込みながら言われる。そういえばろくに睡眠も取れてないな …少しは休まなければ。
ふと、彼の足元に目を移す。
「その海月は?」
『こいつか?さっきから付いてくるんだ。可愛いだろ』
君と似ている、半透明で、ふわふわしていて、美しい。
類は友を呼ぶ…とは、こういう事なのか。
と、急に彼が抱きついてくる。
「どうした、日帝?」
『…あのな、急なんだけど』
『俺、ナチ以外には見えてないんだ』
正直信じられなかった。
こんなに鮮明に見えている君が、他には見えない?
『一応死んでも俺にも意識はあるから、ナチの妄想とかではないと思うんだけどな。』
「じゃあ、何で…?というか、何で見えないって分かるんだ?」
『…少し話を聞いてくれるか』
数日ほど前、珍しくここの水辺にイタ王が来た。
昼間だったから多分サボりだろうが。
でも、ナチと会う時以外はずっと1人な俺にとって嬉しい事。
すぐに駆け寄って声を掛けた。
『イタ王!』
「…」
聞こえてないのか、ずっと綺麗な青空を眺めているだけ。
『イタ王?おーい?』
「…空、綺麗だなあ…」
名前を呼んでも気にもとめず、ふわふわとした目で上を見ているイタ王に少し困惑した。
「日帝は元気かな。一緒にこの青空、見たかったんだけどなあ」
分かった。
見えてないのか。
幽霊だからそんな事もあるだろうが、少しショックではあった。仮にも同盟国だ。
『…一緒に見てるよ、イタ王』
『後からイタ王を探してたらしい他の奴らも来たんだけどな、全員無反応だった』
「…私だけなのか?」
見えてないだけで実態はあるのだ。触ることだって出来る。
これを伝えれば彼奴らは泣いて喜ぶだろうか。それとも困惑で固まるだろうか。
「日帝は…寂しくないのか?」
『1人にでも見えるなら、それでいいよ。』
「…そうか。」
そう言う横顔は、悲しさが込み上げてきていた。
そうだよ。会えないよりも、会っても話せないのがよっぽど辛いんだ。私は何も分かってやれてない。
頬を冷たいものが伝う。気づけば君を抱きしめていた。
『ナチ?』
「会える時はいつでも来る。寂しい思いはさせない、約束だ。」
君を守れなかった意気地無しに出来ることは、これくらいなんだ。
少ないが許してくれ。
『…ふはっ、そうか。嬉しいがちゃんと寝てくれよ?』
また水に塩が混じる前に、私の頬を優しく拭ってくれた。
『約束、だな』
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