「…暇」
ナチは今日、出張で遠くに行っている。
帰ってくるのは確か明後日だったか…つまりその日まで俺は1人。
ここの水辺から出ることもできないし、出たとして俺が見えるヤツは居ないだろうな。
それが特別寂しいって訳でもないが、話し相手が居ないのはつまらない。
ふと、月明かりが照らす水の中に、何か半透明なものがあるのに気付いた。
「ぁ…海月か?」
多分この前のやつだろう。
もしかして、ずっと近くにいてくれたのか?
ゆらゆらと流れに任せて浮かぶ姿を見て、ふと考える。
毒のある海月は死んだ後、体は水に溶けて毒だけが残るらしい。
もし俺が海月だとしたら何を残すんだろうか。
出来るなら跡形もなく消え去りたいが、生憎それは出来なさそうだ。毒のない種類にはなれないだろうから。
「お前はどっちなんだ?毒があるのか、無いのか」
まだ周りをぐるぐると流れていく海月に話しかける。
こいつが毒を持っていたとしても、今の俺には分からない。
死んだ時にしか毒の有無は判明しないから。
手を広げて水に寝転んでみる。
ぱしゃりと音を立てて、半分ほど体が水に埋まった。
なんだか体の力が抜けるような感覚。
「…この世界で1人だけみたいだ」
すう、と目を閉じる。
俺は何でここに居るんだろうか。
未練が残っているのか、
だとしたら何だ?
いや、違う。
1人じゃ逝けないからだ。
完全に死んだら何処へ行く?分からないから踏みとどまってしまう。
行き先が分かってりゃもうここに居ないんだよ。
でももうお別れが近いんだろうな。体の感覚が無い。
…
いや、あいつが来るまで待ってやろうか。
コメント
2件
いやもう本当に神がすぎます 待ってくれるの優しいですね