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今夜も千景に呼び出され、ホテルの一室で乱暴に抱かれる。
「はぁ、はぁ、もう……や、めろ……」
都希のか細い声が届かないかのように、千景は腰を打ち付け続けてくる。
歯を食いしばりながらも、身体は無情にも熱を帯び、敏感に反応してしまっていた。
(嫌だ……なのに……)
後ろから抑えつけられて、力尽くでしつこい行為にクタクタになる。
このまま好き放題にやられ続けたら──身体も心も壊れてしまいそうだ。
「……っ、やめ──」
震えながら首を振った。
でも、千景は更に強く僕の腰を抱え込んで、汗ばんだ肌に噛み痕を残した。
細身のくせに体格が良く、僕の力じゃ押し除けようとしても歯が立たない。
快楽と苦痛の狭間で瞳からぽろりと涙が零れ落ちた──
◇
初めて抱かれた日から、何度も千景に呼び出されている。
今までただの常連だったはずの千景の欲望と、理解することのできない執着心から解放されても、上手く眠れない夜が続いている……
身体も……心も、限界だ──。
千景は怒っているように僕を抱く。
──なんで?
理由は検討もつかない。
気を付けていたのに、千景に弱みを握られてしまった。
どうして脅してまで自分に執着するのか?──ずっと分からないまま。
直接聞けば何か変わるのか?
だけど……自分勝手に脅してくる他人の感情なんて知りたくない──。
……早く飽きて欲しい。
乱暴に抱かれることが辛い。
『もうやめて……』
と頼んだこともあった。
──でも『絶対に、離さない』そう言ったきり聞いてもらえずに、より深く突き上げられた。
──もう、体力の限界だった。
千景から感じる『怒りと執着』
訳がわからないまま、今日も千景に好きなだけ身体を揺さぶられる。
(早く終わって……)
声が掠れて、もう言葉にならない……
「あっ……、あっ、んっ……」
千景が動く度に、勝手に声が漏れるだけだった。
乱暴に与えられる快楽と羞恥が絡まり合い、都希の背中は何度も大きく弓なりに反った。
◇
かろうじて残る意識の中、やっと終わったみたい……。
部屋に充満した匂いと、お互いの汗で身体が気持ちが悪い。
(帰らなきゃ……)
適当に身体を拭いて、服を着た。
ふらつく足元のまま、荷物を持ちホテルを出ようとすると、思いがけず千景が声を掛けて来た。
「……おい。少しは休んでから帰れよ。フラフラだぞ」
(ふざけるな。お前のせいだろ)
無表情で千景へ視線を移してから、聞こえるかどうかの声で呟いた。
「お前とじゃ眠れない……」
すぐに視線を戻し、ホテルの部屋を出た。
ふらついたまま家へ帰り、ベッドで気絶するように眠った──。
◆
──悲しげに泣いている声が聞こえる。
──僕?
その声は徐々に近づいてくると、夢の中でうずくまる自分の身体と重なった。
いつも同じ……今夜も悲しい夢を繰り返す。
……夢の余韻が濃く残ったまま、目が覚めた。
夢の続きのように、呼吸が浅く苦しい。
心臓が締め付けられ、鼓動が耳の奥でひどくうるさい。
「……っ……ぅ、あ……」
声にならない声が漏れ、震える両手で自分を抱きしめる。
何をしても胸の奥の空洞が塞がらない。
(……もうやだ……)
現実に戻っても、まだ夢に捕まったままでいる。
どんなに望んでも、あの頃には戻れないのに……
◇
数日後、また千景に呼び出された。
──疲れの限界だった。
最近は他の二人への連絡すら返せていない。
これ以上、眠れない日が続くと、周りに迷惑をかけてしまう。
また、あの時のように僕を心配したマスターに叱られてしまうかも……
──抱えきれなくなっている。
ジュリに悩みを話してみようか──
壮一なら、もっと優しく抱いてくれるのに……。
それとも、これがいつ終わるのか、あいつに直接聞いてみようか。
でも聞く勇気もない……。
解決の糸口が見つからないまま、約束していた部屋の前に着いた──。
◇
ホテルの部屋へ入ると、会話をすることも無く、すぐに服を脱がされた。
蓄積された疲労と、身体の痛みが抜ける間も無いうちに、今日もまた一方的な行為が始まる。
仰向けのまま、千景が覆い被さる視界の端で天井が揺れている。
──辛い……
──痛い……
──悲しい……
──どうして……。
一度果てた千景は、途切れた呼吸を整えもしないままゴムを付け替え、次の瞬間ツキの腰を掴み、逃げ場を塞いだまま無遠慮に身体の奥まで突き上げた。
「……っ、やめ……」
かすれる声も届かない。
深く押し入る熱に、喉奥で途切れた声が零れ落ちる。
「あっ……、あっ、んっ……」
されるがままに天井を仰いでいたツキの目から大粒の涙が溢れた……
──もう、全てが限界だった。
両手で目を押さえても溢れ出した涙が止まらない。
悲しくて喉の奥がヒリヒリと痛い。
嗚咽を漏らしながら泣き始めたツキの異変に、千景の動きが止まった。
喉が締め付けられるような苦しみの中、絞り出すように言葉をぶつけた。
「どうして?!何をそんなに怒ってるんだよ……僕が何かしたの?……わかんない。痛いのはもう嫌だ……」
身体を震わせながら泣いているツキの姿に、千景も初めて動揺した表情になった。
「──ご、ごめっ……」
ツキの頬に流れる涙に触れようとした途端、
ドスッ!!
ツキは千景の腹を力いっぱい蹴り飛ばした。
「ゔっ!!」
溝落ち部分を思いきり蹴られ、痛みに顔を歪めながら、必死にツキを引き留めようと腕を伸ばした。
「ツキ……!」
「やめろ!!触るなっ!!!」
ツキは大声で叫ぶと、泣きながら服に着替え、出て行ってしまった。
本気で拒絶したツキの勢いに、蹴られた場所を抑えたまま、千景は何も出来なかった。
◇
洋服を整えながら、必死にホテルを出ると、泣き声を押し殺してジュリへ電話をした。
「ジュリ……今から、行って良い?」
……一人になりたくなかった。
電話越しのジュリは、ツキの様子に驚きながらも、何も聞かずに受け入れてくれた。
「今日は、急にごめん……」
何も話すことが出来ないのに、急に押しかけてしまい、申し訳ない気持ちだった。
「バカツキ!そんなこと気にしないでよ!私は会えただけでも嬉しいんだよっ!」
いつものジュリの勢いに、なんだか急に肩の力が抜けて、笑顔と一緒に涙も溢れそうになった。
「ありがと……」
その日、ジュリは何も聞かず、ただ僕の手をそっと握りながら眠ってくれた。
──逃げちゃった……どうしよう。
でも、今は身体が動かない。
何でこうなったんだろう……
──分からない。
考えようとすればする程、何も出来ないだけの自分が一番情けなかった。