テラーノベル
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「そ、そんなわけないじゃないですかぁ~」
晴永は何も言わない。
ただ、その目が「嘘を吐くな」と告げている。
結局、晴永からの圧に負ける形で、二人で瑠璃香の部屋へ上がった。
散らかっているかも……などと晴永を牽制した瑠璃香だったけれど、瑠璃香の部屋はこの上なく綺麗に整理整頓されていた。
当たり前だ。
性格的に散らかったままにするのは無理なのだから。
「で? ――どこが散らかってるって?」
分かりきっていただろうに、それをわざわざ指摘してくるあたりが意地悪だと思ってしまった瑠璃香である。
「たっ、たまたまですっ。たまたま綺麗にしてただけなんですっ」
そう。部屋は綺麗に整っていたって、もしも土曜が雨降りだったなら、きっと洗濯物がリビングに干してあったはず。
その中には当然下着類だって混ざっていただろう。
飲み会に出る子前に洗濯物を取り込んで、所定の位置へ片付けていた自分をグッジョブ! と思うと同時に証拠隠滅的にはアウトだったかも……と悶々としてしまう。
「とりあえず支度するので課長はそこに座っててください!」
グイッと晴永を押しながら言ったら、腰をグッと掴まれた。
「ひゃっ」
そのことに驚いたと同時、「何度言えば分かる……」と吐息を落とされてしまう。
「あ……」
ようやくそこで何を咎められているのか分かった瑠璃香が吐息交じり。
「でも晴永さん、この呼び方に慣れてしまったら会社でもそう呼んでしまうかもしれないじゃないですか」
それはまずいんじゃないかな、お互いに……。
そう思ったのだが……。
「俺は隠すつもりはないから別に構わんぞ?」
いけしゃあしゃあとそんな返しをされて、瑠璃香は言葉に詰まった。
「嫌ですっ! 下手にばれたら私、抹殺されます」
「――?」
決死の覚悟でそう約書と動画を突きつけられてから、時間の感覚が曖昧になった。
膝に落とした視線を上げられないまま、瑠璃香はシャツの裾をぎゅっと握りしめる。指先が小さく震えているのが、自分でも分かった。
床に落ちた自分の影が、やけに頼りない。
「……このまま逃げるか?」
晴永の声は、驚くほど静かだった。
責めるでもなく、急かすでもなく。まるで、本当に選択肢を渡しているみたいに。
けれど瑠璃香は答えられなかった。
逃げたい。だけどこの格好のままではそんなこと出来るはずない。そんなの分かっているはずなのになんて意地悪な質問なんだろう? そもそもここへ入ってきたときの記憶がない。服の在りかはおろか、玄関の位置も、自分の靴の所在も分からない。現実が、否定を先回りして塞いでくる。
「無理に縛る気はない。……今は、な?」
意味深な言い方に瑠璃香が晴永をじっと見つめたら、彼は少しだけばつが悪そうに視線を外した。
「今は……ってどういう意味ですか?」
「――起きたことを、なかったことにはしないって意味だ」
それだけ言い残して、晴永は寝室を出て行ってしまう。
遠ざかる背中を見つめながら、瑠璃香は唇を噛み締めずにはいられない。
一旦は逃がしてくれる、という顔をして……。けれどそれは、すぐに包囲網を閉じるための猶予にしか思えなかったから。
***
隣室の方から、カチャカチャという音が聞こえてくる。瑠璃香はその音を聞きながら、ベッドサイドへ落ちているトレーナーを手に取った。
いま借りているシャツよりも、こちらの方が丈も長そうだし、布地も厚い。
ちょっと迷って……シャツの上へトレーナーを重ねると、太ももの半ばあたりまで身体が隠れてホッとする。
コメント
1件
あらららら❤️捕まっちゃった感じかな(笑)