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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第25話 〚巻き込ませないという選択〛(海翔視点)
昼休みの終わり。
教室の空気が、
いつもより重い。
理由は、分かってる。
真壁恒一。
あいつは、
誰にも話しかけていない。
……いや、
正確には。
誰にも話しかけられていない。
俺は、
それを横目で見ながら、
澪の方を見た。
澪は、
気づいていない。
いや、
気づいていても、
見ないふりをしている。
それができるくらいには、
澪はもう強い。
(……でも)
それでも、
巻き込まれる可能性はある。
恒一は、
追い詰められると、
“近い存在”に縋る。
澪は、
一番近く見える存在だ。
それが、
危ない。
(俺がやることは、一つ)
助ける、じゃない。
叱る、でもない。
巻き込ませない。
放課後、
廊下で真壁恒一を見かけた。
誰もいない方向へ、
歩いていく。
澪はいない。
今なら、
話せる。
「真壁」
声をかけると、
恒一は驚いた顔をした。
「……海翔」
期待と、
警戒が混じった目。
「澪には、近づくな」
回りくどい言い方は、
しなかった。
恒一は、
目を見開く。
「なんで?」
「俺、
何もしてない」
「友達、作ろうとしてただけだ」
その言葉を、
俺は遮らなかった。
全部、
聞いた上で。
「だからだ」
「今のお前は、
誰かに寄りかかろうとしてる」
「澪は、
それを受け止める役じゃない」
恒一の表情が、
歪む。
「……澪は、優しい」
「俺のこと、
嫌ってない」
「それを、
利用するな」
声は、
低く抑えた。
怒鳴らない。
煽らない。
ただ、
線を引く。
「これは、警告じゃない」
「約束だ」
「澪を、
この状況に巻き込ませない」
しばらく、
沈黙。
恒一は、
拳を握っていた。
「……分かったよ」
そう言って、
視線を逸らした。
本心かどうかは、
分からない。
でも、
言葉にさせた。
それでいい。
教室に戻ると、
澪が窓際にいた。
何も知らない顔で、
外を見ている。
その横顔を見て、
胸の奥が静かになる。
(この日常を)
(壊させない)
守る、じゃない。
信じる、でもない。
“関わらせない”という、
選択。
俺は、
それを続ける。
澪が、
自分の時間を生きられるように。