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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第26話 〚拾われた一冊、拾ってしまった想い〛(真壁恒一視点)
廊下は、
昼と放課後の間みたいに静かだった。
前を歩いていたのは、
白雪澪。
一人。
その瞬間、
手に持っていた本が滑り落ちた。
床に当たる、
乾いた音。
「あ——」
澪が屈むより先に、
俺の体が動いた。
「はい」
本を拾って、
差し出す。
澪は驚いた顔で、
すぐに受け取った。
「ありがとう」
その一言が、
妙に胸に残る。
(……今だ)
そう思ってしまった。
「相変わらずさ」
軽い調子で、
言葉を続ける。
「そういうとこ、
無防備で可愛いよね」
「本落とすのも、
澪っぽいっていうか」
悪口じゃない。
むしろ、褒めてる。
俺の中では、
“いじり”だった。
澪は、
少し戸惑ってから——
「……ありがとう」
そう言って、
小さく笑った。
その瞬間。
(あ)
胸の奥が、
熱くなる。
拒絶されなかった。
嫌がられなかった。
「澪ってさ」
止まらない。
「静かだけど、
目、綺麗だよね」
「近くで見ると、
ほんと可愛い」
澪は、
困ったようにしながらも、
「……褒めすぎ」
そう言って、
視線を逸らした。
でも、
去らなかった。
(……俺だけ?)
俺にだけ、
こんな態度。
クラスでは、
誰も話してくれないのに。
澪は、
ちゃんと返してくれる。
(特別、だよな)
そう思った瞬間、
全部が繋がった気がした。
嫌われている世界で、
澪だけが優しい。
それはつまり——
「どタイプ」
心の中で、
はっきり思った。
一目で、
落ちた。
「……じゃ、また」
澪は、
そう言って歩き出した。
俺は、
その背中を見送りながら、
確信していた。
(澪は、俺のこと嫌ってない)
(むしろ——)
(分かり合える)
それが、
どれだけ危うい勘違いか。
その時の俺は、
まだ知らなかった。
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